表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

黄金バナナ、発見!

 バナナは木ではないそうです。ちなみに一度しか実をつけないそうです。

 黄金バナナ。それは珍味で有名なバナナである。ある者はそれを追い求め、秘境探しへ。またある者は多額の借金をしての大捜索。

 しかし、誰も、そのバナナを見つけることは叶わなかった。


 ――黄金バナナは、架空の食べ物なんだ。

 

 自らを慰めるような誰かの言葉は、黄金バナナを追い求めていた人々の心に突き刺さった。

 もう、誰も見つけることができない。いつしか伝説の食べ物と呼ばれるまでになったそれは、未だに多額の賞金がかけられている。

 

 とある大陸の西の果てにある秘境。それは中央王国を最後の拠点として出発し、永遠に広がる草原、火を吹き上げる砂漠、底の見えない谷、竜の住まう川、生き物のいない凍土、雲を超える山を越えたその向こう側に、ぽつんと存在する丘。

そこに二人の少年少女が居た。

 

 「な、なあ……あれもしかして……」

 「うん、あの木……」

 

 二人は丘を登っていく。丘の上の樹を目指して。

 樹には、実、と呼べるものがなっている。二人は近づくにつれ、その実の色を認識する。

 黄金色。

 

 「――!」 

 

 二人はますます息を飲む。そして、明らかに高揚している。

 さらに近づき、丘の頂上へ。二人は樹を見上げる。

 

 「でっけー木……」

 「正確には木じゃないけどね」


 少女の指摘も少年の耳には入ってきていない。

 

 「よし、揺らすぞ」

 「……本気で言ってるの?」


 少年の突発的提案に、少女は少し呆れる。だが、彼女は少年のそういう所を見て、ついてきたのだ。

 しぶしぶ、だが内心わくわくとして。

 

 「しょうがないわね」


 そう言いつつ、少女は少年の手をさりげなくとり樹の根元へ向かう。

 二人で、手を樹に添える。


 「よし……それっ」

 

 樹は、微かに、だが枝は大きく揺れる。

 その内の一本の枝から、黄金が落ちてくる。

 それは二人めがけて落下し、二人でとっさにキャッチする。

 

 「これが……」

 「黄金バナナね……!」


 黄金に輝くそれは一種の芸術品のようであった。まばゆい輝きは見る者を惑わせる。それでいて、食べ物として強烈な食欲をそそる。


 「うまそう……」

 「綺麗……」


 同時に発した言葉は同じものに対してだが、異なっている。


 「食べる気なの?」

 「……だめなのか」

 「あたりまえでしょう! これは一度もって帰らなきゃ! 黄金バナナは、あったって証明するのよ!」

 

 少年の純粋な食欲に対して、少女はすかさずツッコミを入れる。彼女にとっての悲願だったのだ。

 

 「じゃ、もう一房ぐらい……」

 「それもだめ! 底なし谷の狼に言われた事忘れたの!?」

 「そ、そんな怒らなくても」


 少年はうろたえる。だが、これも長い旅の間に何度もあったことだ。少しだけおかしくて笑う。それを見て、少女はむっとする。

 そんなこともありながら、二人はもう少しだけそこで樹を見ていた。それは冒険者としての達成感を味わっていたいからか。それとも歴史の功労者としての実感に酔いしれたいからか。それは、二人にも分かっていない。


 太陽が昇れば沈むように、どんな事象にも終わりはある。只、少女はその事を寂しく思う。王国に引き返せば黄金バナナを王に献上し、盛大に祝われるだろう。そして、少年との長かった旅は終わる。

 

 二人は引き返す。今まで歩んだ道を。終わる為に、はじまりへ行くのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ