黄金バナナ、発見!
バナナは木ではないそうです。ちなみに一度しか実をつけないそうです。
黄金バナナ。それは珍味で有名なバナナである。ある者はそれを追い求め、秘境探しへ。またある者は多額の借金をしての大捜索。
しかし、誰も、そのバナナを見つけることは叶わなかった。
――黄金バナナは、架空の食べ物なんだ。
自らを慰めるような誰かの言葉は、黄金バナナを追い求めていた人々の心に突き刺さった。
もう、誰も見つけることができない。いつしか伝説の食べ物と呼ばれるまでになったそれは、未だに多額の賞金がかけられている。
とある大陸の西の果てにある秘境。それは中央王国を最後の拠点として出発し、永遠に広がる草原、火を吹き上げる砂漠、底の見えない谷、竜の住まう川、生き物のいない凍土、雲を超える山を越えたその向こう側に、ぽつんと存在する丘。
そこに二人の少年少女が居た。
「な、なあ……あれもしかして……」
「うん、あの木……」
二人は丘を登っていく。丘の上の樹を目指して。
樹には、実、と呼べるものがなっている。二人は近づくにつれ、その実の色を認識する。
黄金色。
「――!」
二人はますます息を飲む。そして、明らかに高揚している。
さらに近づき、丘の頂上へ。二人は樹を見上げる。
「でっけー木……」
「正確には木じゃないけどね」
少女の指摘も少年の耳には入ってきていない。
「よし、揺らすぞ」
「……本気で言ってるの?」
少年の突発的提案に、少女は少し呆れる。だが、彼女は少年のそういう所を見て、ついてきたのだ。
しぶしぶ、だが内心わくわくとして。
「しょうがないわね」
そう言いつつ、少女は少年の手をさりげなくとり樹の根元へ向かう。
二人で、手を樹に添える。
「よし……それっ」
樹は、微かに、だが枝は大きく揺れる。
その内の一本の枝から、黄金が落ちてくる。
それは二人めがけて落下し、二人でとっさにキャッチする。
「これが……」
「黄金バナナね……!」
黄金に輝くそれは一種の芸術品のようであった。まばゆい輝きは見る者を惑わせる。それでいて、食べ物として強烈な食欲をそそる。
「うまそう……」
「綺麗……」
同時に発した言葉は同じものに対してだが、異なっている。
「食べる気なの?」
「……だめなのか」
「あたりまえでしょう! これは一度もって帰らなきゃ! 黄金バナナは、あったって証明するのよ!」
少年の純粋な食欲に対して、少女はすかさずツッコミを入れる。彼女にとっての悲願だったのだ。
「じゃ、もう一房ぐらい……」
「それもだめ! 底なし谷の狼に言われた事忘れたの!?」
「そ、そんな怒らなくても」
少年はうろたえる。だが、これも長い旅の間に何度もあったことだ。少しだけおかしくて笑う。それを見て、少女はむっとする。
そんなこともありながら、二人はもう少しだけそこで樹を見ていた。それは冒険者としての達成感を味わっていたいからか。それとも歴史の功労者としての実感に酔いしれたいからか。それは、二人にも分かっていない。
太陽が昇れば沈むように、どんな事象にも終わりはある。只、少女はその事を寂しく思う。王国に引き返せば黄金バナナを王に献上し、盛大に祝われるだろう。そして、少年との長かった旅は終わる。
二人は引き返す。今まで歩んだ道を。終わる為に、はじまりへ行くのだ。