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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第三章】ドラゴンと少女と村の人々
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治癒魔術とアリアの眼

 翌日、ホートライドは少し遅めの朝食を持ってやってきた。

 その顔は疲労の色がありありと浮かんでおり、応接に着くとそのままソファにひっくり返ってしまった。

 キルトランスはてっきり昨日の魔獣騒ぎの影響だと思い彼を心配したが、アリアとホートライドの会話から、ただの二日酔いだということが判明したのだった。

 「もう…また団長様の無茶な呑み方に付き合っていたのでしょ?」

 少し怒ったような呆れたような表情で言うアリア。その手には彼の買ってきた軽食のバスケットが抱えられている。

 酒を呑んだ事も酔った事もないキルトランスは、二日酔いというものを理解できずにホートライドに尋ねた。

 「え~っと…お酒って呑みすぎると、次の日ものすごく体が重くて頭が痛くなるんです…。」

 ひっくり返って頭に手を当てたまま説明するホートライドの姿は非常に説得力があった。それを聞いたキルトランスは「そんな毒のようなものをなぜわざわざ飲むのだろう…。」と疑問には思ったが、きっとこれもアルビの習慣や儀式なのだろうと思って、あえて何も言わなかった。

 ただ、そうまでして飲むお酒の味というものは、いずれ少しだけ味わってみたいものだとも思ってはいたが。

 「回復をした方が良いか?」

 キルトランスが訪ねると、喜びの声と共にホートライドは飛び起きたが、その反動の痛みにこめかみを押さえて床にうずくまった。

 「…これも治せるのか?!」

 声は苦しそうだがその口調には希望と期待が(あふ)れていた。だがそんな彼の期待などものともせずに、いつものように冷静に答えるキルトランス。

 「さて…それは保証は出来ない。なにせ、その二日酔い、とやらを治した事がないのでな。魔力や魔術でどうにかなるものかすら私には分からないからな。だが、とりあえずやってみる事は出来るぞ。」

 それでもホートライドはお願いをした。効き目の不確かなものに(すが)るほど辛いのか、と思うと先ほどの呑みたいと言う気持ちも少し()えてしまった。

 治癒(ちゆ)を頼まれたキルトランスは立ち上がり、再びソファーに横たわるホートライドの前に膝を折って(かが)むと、魔力の注入を始めた。


 レッタ、ホートライドと人間に対しては三回目の治癒となり、キルトランスはだいぶコツを掴んできた。

 初めて魔力注入をレッタに行った時は、加減が判らずにおっかなびっくりといった感じで、まるで針でつつくような細かい魔力注入をしたものだった。

 人間に対しては三回目、しかもホートライドは二回目である。そうなれば多少なりとも大胆になるのは致しかたないのかもしれない。

 それでも多少は手加減して魔力を注入していく。話を聞いた限りでは、どうも水に関係するものであろうと推測したキルトランスは、水属性の魔力を少し込めてみた。

 一分ほど魔力を籠めた時にホートライドが目を閉じたまま声を出した。

 「すごい…どんどん楽になっていく…。」

 心配そうに様子を伺っていたアリアも喜びの声を上げる。

 「こんな感じでどうだろうか。」

 かざした手を外してキルトランスは言う。

 「すごい…さっきまでの頭痛と疲れが嘘みたいだ…。」

 だが喜色満面のホートライドは飛び起きようとして床に足を着いた瞬間に膝から崩れ落ちた。

 「え…?!なんだこれ…。」

 アリアが心配そうに尋ねる。

 「どうしてしまったのですか?」

 「回復のためにホートライドの体力を使った。」

 さも当然のように言って自分のソファに戻るキルトランス。

 「だから今は少し体力が落ちているはずだから、無理には動かない方がいい。」

 キルトランスが諭すとホートライドはゆっくりと立ち上がって再びソファに腰をかけた。

 「どういう事なんですか?」

 問いかけるホートライドと不思議そうな顔のアリア。

 仕方なくキルトランスは魔力の治癒に関して二人に説明する事にした。


 説明をしていくうちに二人の疑問も少しずつ解けていくようだが、その時ホートライドがポツリと言った。

 「魔力も万能じゃないんだね…。」

 「うむ、そうだ。そもそも魔力も体力と同じように無限ではない。使えば疲れるし、魔力が尽きて死ぬこともある。」

 キルトランスは淡々と続けた。

 「じゃあ、キルトランスさんは今、魔力を消耗して疲れているんですか?」

 少し悪い事をしたという感じで、申し訳なさそうにホートライドが尋ねるのを、まるで意味が分からなないと言わんばかりに答えるキルトランス。

 「いや、全く疲れてない。」

 その言葉に驚くアリアとホートライド。

 「え?じゃあこの前の庭でデカい火の玉を出した時はどうなんですか?!」

 先日の事を思い出して矢継ぎ早に尋ねるホートライド。村の隅々まで届いたと言われたあの大爆発を起こす魔力はいかほどのものか?という素直な疑問であった。

 「あの程度でも別に疲れはしないな。ただ魔力を消耗したという感覚はあるが。」


 ホートライドは絶句した。

 下手をしたらあれ一つで村の中心部は焦土になるほどの炎の魔術を使ってなお、全く疲れないと(うそぶ)くのだ。

 あんな人間から見たら大魔術と言えるほどの技を、本当にいくらでも乱発できるのだとしたら、ラクメヴィア帝国の皇帝が住む帝都イルラティオであろうと余裕で壊滅できるかもしれない。

 ホートライドは昔話のドラゴンに滅ぼされた都市という話が嘘ではないのだと思い知らされた。

 しかも風の噂で聞いた、数百年前に北キルメトア大陸北東部にあると言われる魔物の魔術で地形が変わったという話も、あながち誇張ではないのかもしれないと思った。

 改めて目の前のドラゴンがまごう事なき魔族最強の一角の存在であるという事を思い出し戦慄すると同時に、彼がこの村の味方であり続ければどれだけ心強いかとも思った。


 思案していたホートライドが、ポツリと漏らした。

 「アリアの眼は治せないのかな?」

 その言葉に彼女は息を飲んだ。ふいに手に力が籠ったために、彼女の持っていたバスケットがギシリと(きし)んだ。

 キルトランスが治癒魔術を行ったのは今回が初めてではない。ただ、それにも関わらず彼女自身もその発想には至らなかった。

 それはある意味自然なのではある。彼女にとって、眼は生まれた時から見えなかったので、怪我や病気だとは思っていなかったのだ。だから「治す」という発想に至らなかった。

 その斬新なホートライドの発想にアリアは少し驚いたのだ。

 だがそんな降って湧いた希望にキルトランスは淡々と現実を突きつける。

 「その眼は生まれつき見えないものなのか?」

 「はい。」

 「…その場合は治らないと思うが…。」

 その言葉を聞いてホートライドが少し残念そうなため息を漏らす。

 「そう…ですか…。やっぱり魔力は万能じゃないんですね…。」

 その冷酷な事実になぜか当人であるアリアよりもホートライドの方が落胆していた。

 「そうなんですね。ちょっと残念です。」

 それとは対照的に少し笑って応えたアリアが印象的であった。

 落ち込むホートライドにキルトランスは治癒魔術の追加説明をした。

 治癒魔術は魔力と体力を併用した超代謝と超回復であり、元から無い物は生成されない。

 例えば腕を切り落とされた者がいたとすれば、その場でなら接合できるかもしれない。しかし生まれつき腕が無い人に腕を生やすことは出来ないのだ。

 「そうなんだ…。ごめんね、アリア。」

 「ええっ?!なんでホートライドさんが謝るんですか?!」

 謎の謝罪を受けて困惑するアリア。

 「そういう訳で、恐らく君の眼を治すことは出来ない。すまないな。」

 謝る割にはあまり恐縮する様子もなく言い放つキルトランス。

 だがそれもそうであろう。事実は事実であるし、彼は医者でも治癒師でもないのだ。彼女を治せない事に責任を感じる必要性はないのだから。

 「もう…やめてください二人とも…。」

 そのアリアの声は残念がっていると言うよりは少し怒っている感じであった。

 「別に私は困ってませんし、皆さんのおかげで幸せに生きていますから、可哀想な人を見るような言い方をしないでください。」

 その言葉を聞いてハッとするホートライド。

 先天性の盲目の彼女からすれば今の状態が普通であり、今の生活様式全てが彼女にとっての普通なのだ。

 不便不都合というものは正常が失われた時に気が付くものであって、それが当たり前の状態の時には気付きにくいものだ。病んで分かる健康のありがたさ、と同じと言えよう。

 彼は自分たちが目が見えることを当たり前として、見えないアリアを無意識のうちに(おとし)めていた事に気が付き、己の浅慮(せんりょ)を恥じた。

 見下した同情など侮蔑(ぶべつ)と変わらないのだから。

 「アリアは強いね…。」

 心の底から漏れた呟きにキルトランスもうなずく。初めて会った時から彼女の心の強さ、高潔さには気付いていたのではあるが、それを改めて認識したというだけではあるが。

 しかし二人にそう言われて恥ずかしそうに下を向くアリア。

 「と、とりあえず朝食にしましょうか…。」

 そう言ってバスケットを差し出すと、みんなで遅い朝食兼昼食(ブランチ)の準備を始めたのだった。

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