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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女と慌ただしい最初の日
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人間界のタタカナルの村にて

 キルトランスはアルビの空を滑っていた。

 アルビとは魔世界・天世界から見た人間界であり、人間たちが俗称としてこう呼んでいる。


 この世界の空は軽いな…。

 雲も少ないし、何よりもこの太陽と呼ばれる天上の光源が…熱い…。

 ドラゴン界にはあんな厄介なものは無かった。そのせいでたまに木陰で休まないと鱗がカサカサする。

 初めてこっちの世界に来たときには、まずその眩しさに眩暈(めまい)がしてゲート出口の森の中でしばらく座り込んでしまっていた。

 転送の宮殿もドラゴン界から比べれば明るかった方だが、世界全体が明るくなっていて、こんな感じで一方向から強烈に射すことはなかった。

 人間界に行ったことのある奴の話は聞いた事があって、だいたいが口をそろえて居心地の悪い場所と言っていたが、なるほどその通りだな。

 このおかげでこの世界に入ってから、何度か川や海に飛び込んでは、体を湿らせて一息つく破目(はめ)になっている。


 キルトランスはこのアルビに到達した後、しばらく休んで行動を始めた。

 調査項目はいくつかあるが、主に天世界の連中の動向を探る事ばかりだった。

 せっかくの人間界なのに人間を見なくていいのかと思ったが、担当官からもそのような話は無かった。

 しかし、ドラゴンニュートの長老は別れ際にこう言っていた。

 「せっかくの偵察なのだから、王宮への報告なんか最低限怒られない程度にしておけばよい。それよりも、人間を見てきなさい。存外面白い生き物だと思ったわい。ワシは、な。」

 そうなれば元々、知的探究心が無いわけではないキルトランスが興味を持たないわけがない。

 一族では怠け者みたいに思われているキルトランスではあるが、単に興味のある事と無い事への反応が極端なだけなのである。

 こうしてキルトランスはまず人間の居そうな部分を、空から探し始めたのだった。


 それにしても…人間と言うのは面倒な生き物だ。

 まずは人数の少なそうな街を見つけた。そこに降りてみたら、人間たちは一斉に隠れてしまって誰とも会う事は出来なかった。

 まあ、魔世界だって絶対的な強者が来たら、弱者は声を押し殺して隠れたりするものだ。以前聞いた人間の強さを聞いた限り、私が現れたら隠れても仕方ない。

 しばらく街をウロウロしてみたが、諦めて別の場所へ向かった。

 今度はものすごく人の多い都市を北側に見つけた。街に壁があったり城のようなものがあったので、王都なのだろうと思って近寄ってみた。

 そうしたら今度は魔力を使う者がワラワラと出てきて、こっちに大量に魔術を使いまくってきやがった。私はまだ何もしてないのに…。

 まあ、もちろんあの程度の魔術は気にしないが、明らかに敵意むき出し過ぎて、話を聞いたり生活の様子を見れるような状況ではなかったな。

 ちょっとイラッとして吹き飛ばしてやろうかとも思ったが、意味もなく人間世界に重度の介入をするのは王宮から禁止されているから我慢した。

 とまあ、こちらの世界に来て三日目だが、今のところどこでもこんな感じで上手くはいってない。

 途中何人か魔世界の奴らを見かけたが、地上を歩いている奴らは無視していたし、空を飛んでいる奴らもさりげなく遠回りして避けてきた。

 なんというか、必要以上に関わりたくはないのだ。中には人間界で仲良くなる奴らもいるみたいだが、俺はそういう鬱陶(うっとお)しい関係は持ちたくない。一人の方が気楽だ。

 そこまで思ってふと考え付いたが、それでは人間界の観察が出来ないのではないのか?

 ふむ…よし、次の街では少々我慢してしっかりと関わってみよう。

 そう思いながらふと下を見ると、左の山脈の(ふもと)に広がる平原の中に小さな街が見えた。

 海と山脈に挟まれた平原を貫く小さな川が一本見える。鱗も少し乾いてきたし、ついでに川にも入っておこう。

 あの程度の街であれば、いきなり攻撃してくるような規模でもないし、逃げられるような臆病者の街でもなさそうだ。

 でも刺激をしないようにゆっくりと近づいてみよう。


 そう決めてキルトランスは緩やかに空を滑り下りはじめた。

 眼下の街が少しずつ近づいてくる。



 ここは村の中央広場。

 中央の井戸を起点に、いくつかの屋台や店があり、人々が行き交っている。

 南の方では漁師たちが今朝取ってきた物であろう新鮮な魚が並び、一部には近くの川で釣った魚も混じっている。


 「鮮度抜群の魚だよ!買うなら今のうち!」

 「今日は上天気だ!昼過ぎたら干物にしちまうぞ!」

 漁師と思わしき男と妻らしき女が、潮で焼けた声を張り上げて客を呼ぶ。

 「あはは、じゃあ干物になったら買おうかねぇ。」

 前を通り過ぎる恰幅(かっぷく)の良い中年女性が、足を止めずに振り返りからかう。

 「なに言ってんだい!生で食えるチャンスを逃すなんてバカな事言ってんじゃないよ!ほら買った買った!」


 東側には交易の商人と思わしき一団が地面にムシロを敷き、自慢の品々を広げ村の男たちは真剣に品定めをし、子どもたちはその珍しさに純粋に瞳を輝かせている。


 「このエンチャは何に使うんだい?」

 と手にしている小さな瓶をしげしげを見ている男。

 「お!お兄さんお目が高いねぇ~。その小瓶は西方の泣く子も黙る魔道帝国ガヴィーターでも一流のキャスター様が丹精込めて製錬したウォーターポットさ!」

 ガヴィーター帝国と聞いて子どもたちは目を輝かせ、男たちは少しだけニヤついた顔をした。

 中には眉をひそめる者もおり、ガヴィーターへの気持ちの複雑さが人それぞれである事が(うかが)い知れる。

 「なんとこの小瓶一つでコップ五十杯分の水が出せる逸品!」

 「これさえあれば旅でも仕事でも楽になること間違いなし!」

 商人はこれを期とばかりに商品の売りをまくし立てる。

 男たちはしげしげと小瓶を見て思案顔。子どもたちは買ってもいないのに大喜び。

 そこに少し離れた場所から、男の妻らしき女から怒号が飛ぶ。

 「ま~たくだらんおもちゃ買うんじゃないよ!この間だって、よく分かんないキューブ買って火事になりかけたじゃないか!!」

 周囲から爆笑がうまれ、男は苦虫を噛み潰した顔で小瓶を商人に返し、子どもたちは男を指さして笑った。


 一方の声を飛ばした女の近くのおばさんたちは、そんな子供じみた男たちを呆れ顔で横目に、必要な食料品を買うのに真剣な目つきをしている。その真剣さにおいては、先ほどの男たちと大した違いはない。

 そこには穀物や保存食、中には北の山脈で採れたであろう果実もあった。


 このように村の中心の市場は非常に活気があり、人々は明るく生きていた。

 俯瞰(ふかん)で見れば村の規模は五百人程度であろうか。規模こそ大きくはないが、アルビ全体で見れば比較的恵まれた部類の豊かな地域にある村だ。



 「なんか飛んでる…。」

 この村の物語はこの露天商の一人、あまり客来ずにぼんやりと空を眺めていた、古物商のおばさんの一言から始まる。

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