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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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邪気ある者

 遅くまで続いたジャルバ団長とモルティ副団長の話し合いは、団員のほとんどが酔いつぶれて酒場が静かになった夜半まで続いた。

 団員たちの呑みっぷりは豪胆たるジャルバ団長をして、話し合いの途中からお代が気になって話し合いに集中出来ないほどであった。

 だが彼らの興奮ぶりは、裏を返せば昨日から緊張し続けた彼らの心労の表れでもあったのだ。

 その功は(ねぎら)われて(しか)るべきであろう。


 そして話し合いはと言えば、あくまでも治安維持規則にのっとって魔物の排除するべきだ、と訴えるモルティ副団長に対して、ジャルバ団長はこっそりとキルトランスが自警団に協力する意思がある事を伝えた。

 するとモルティ副団長はしばらく絶句していたが、ようやく態度を多少軟化させた。

 彼だって命知らずの野蛮人ではない。好き好んで明らかに命を落とすだけの戦いに身を投じたいわけではないのだ。

 今まで外敵だと思っていたドラゴンが味方になってくれると分かれば、生真面目な彼であっても、そちらの方が次善であることは理解できるのだ。


 「まあ、でもほらよ…御伽噺(おとぎばなし)に聞いた『ドラゴンの守護せし街』ってやつに、オレらのタタカナルがなるかもしれねえんだぜ?ちょっと面白くないか?」

 だいぶ酔いが回って少々目元が怪しいジャルバ団長が、同じようなペースで飲んでいるのにも関わらず顔色一つ変えないモルティ副団長に愉快そうに話す。

 それでも、まだキルトランスの事を信用できない彼は、複雑そうな顔をしていた。

 彼の長い前髪は常に片目を隠しており表情が読みにくい。もっとも普段から割と無表情な男なのではあるのだが。

 「ま、あと二日過ぎれば、お前もキルトランスに会えるようになるんだから、その時にお前の目で真偽を確かめればいい。」

 「まあ…そうですね…。」

 そう言うと、モルティ副団長は突然机に頭から落ちると、そのまま動かなくなった。

 それを見届けたジャルバ団長は、大きくため息をつくと、ニヤリと笑って「…オレの勝ちだな…。」と呟くと、それを最後に大きないびきをかき始めた。

 モルティという男は別に酒に強いわけではない。

 ただ何かに気を張っている間であれば、どんなに呑んでも顔色一つ変えないという特技を持っている。

 しかし気を緩めればその反動で一気に酔ってしまうという欠点を持っていた。

 つまりこれは、彼の中でも一応の納得をして安堵したという証左に他ならない。

 その様子を見てジャルバも一安心して眠りに落ちた。薄れゆく意識の片隅で、ここの払いどうしようという事がかすめたが。



 翌日、陽が昇って遅い時間に、ジャルバ団長とモルティ副団長は共に村長の家を目指した。

 ホートライドたち残された団員たちは、戒厳令解除の知らせと、ドラゴンへの警戒を最低限に縮小されるという旨を、村人全員に通達するために村の中を奔走した。

 しかし村長との面会は拍子抜けするほどあっさりと終わった。

 昨日ホートライドが村長の方が説得が楽だとは予想していたが、もはや説得というレベルでもない報告だけで済んでしまったのだ。

 きちんと整頓された小奇麗な部屋の、中央の椅子に座った初老の人が良さそうなふくよかな老人、村長を前にして自警団の二人は経過報告と対応策を伝えたのだが…。


 「で、そのドラゴンは居座るつもりなの?」

 「ああ。本人としてはしばらくタタカナルに…オレガノ邸に住むつもりだそうだ。」 

 「え~、怖いなあ…。排除は無理っぽい感じ?」

 「村長さんの前でこう言いたくはないが…正直、自警団総力戦でも全く歯が立たないと思う。」

 「なんとまあ。じゃ、怒らせない方がよいな。」

 「会って話してみた感じでは、そんなに短気な魔物には思わなかった。よっぽど変な事をしない限りは怒るような男には見えなかったな。」

 「そっかあ…じゃあ放置しておくしかないのね。」

 「今のところはそれが上策かと思う。」

 「わかったよ。じゃあオレガノ邸の警備はお主ら自警団に任せる。村の者にも説明して安心させてやってくれ。」


 そんな簡単なやりとりで事態は収拾してしまった。モルティ副団長はあまりの呆気なさに不満すら抱いた。

 面会は終わり二人が退出すると村長は腰をゆっくりと上げて、二人が玄関から出ていく様を二階の窓辺から見下ろした。


 「やれやれ…オレガノの魔女の娘が悪魔を呼び寄せおったか…。忌々しいガヴィーターの汚らわしい血を入れた報いが、ついに村を襲ったのだ…。」


 そう一人で呟く村長の目は無機質で、その瞳がどこを見据えているのかは分からなかった。



 この時代、先天性の障害者が産まれると、それは母の(ごう)のせいとされ世間の風当たりは強かった。

 そのような赤子は産まれた直後に殺されるか、村の外に捨てられるのが一般的であった。

 ただ、エアリアーナは視覚障害であったために気が付くのが遅れた事と、オレガノ家がタタカナルでも有数の豪商であったために村人も強く出ることができず、腫物(はれもの)を触るような存在になっていた。


 キルトランスによって起こった事態は、あらぬ方向からアリアへ悪意が向く結果になるとは、この時誰にも気が付かなかった。

 それは一人の老人の胸の中に秘められていたからだ。

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