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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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強さを求める者

 ジャルバ団長の不穏な言葉に部屋の空気が静まる。

 アリアもレッタも口をつぐみ、団長を見る。ホートライドは驚きと諦めの入り混じった表情で苦笑いをしていた。

 ホートライドは知っているのだ。ジャルバ団長が強い者が好きだという事を。

 団員に剣の稽古を付けるのは主に団長であり、しょっちゅう他の団員を捕まえては「どのくらい強くなったか試してやる」と称して試合を組んでいる。

 もちろん結果は団長の圧勝であり、タタカナル自警団で彼に勝てる者はいなかった。

 それだけでは飽き足らず、時折村に傭兵団が立ち寄ると、野良試合を申し込んではその旅団の誇る猛者(もさ)を打ち倒していた。

 剛腕にして豪快、強者にして侠者の男。ジャルバとはそういう男であった。

 そんな男が、ドラゴンなどという強者を相手にして、黙っているなんて到底思えない。

 アリアの家にホートライドが向かおうとした時、ニヤニヤしながら団長が「オレも行くぜ」と言った時に、彼は内心そんな予感がしたのだ。


 「どのくらいと言われても…どう表現したら良いのか迷うな…。」

 キルトランスはしばし思考をしたが、困ったように漏らした。

 「まだ人間と戦った事はないし、ドラゴン同士での強さを言ったところで伝わるまい。」

 「だがまあ…恐らく、どの人間と戦っても負ける事はないと思うが…。」

 その言葉は(おご)りではなく、自然と出た言葉であった。

 「そうかそうか。そりゃ面白そうだ!」

 だがジャルバ団長は豪快に笑うと膝を打った。

 男同士の会話に二人の少女は大人しく聞いていたが、アリアは心配そうな顔でキルトランスの方を見ており、意外な事にレッタは不快そうな顔をしていた。


 「いっちょオレ達と腕比べをしないか?」


 全員が一番心配していた言葉が、ついにジャルバ団長の口から出た。

 だがそれに答えたキルトランスの言葉に一同は驚いた。


 「いや、そういう疲れる事はあまりしたくないのだが…。」


 ジャルバを除く三人はその言葉に心底ホッとした。しかし強い相手を見つけた団長は逃がすまいと追撃する。

 「まあそう言うなって。別に本気で戦えってわけじゃないさ。」

 「オレもタタカナルの自警団の団長として一応、異邦人の危険度は知っておきたいのさ。」

 もっともらしい理由を言う団長。その言葉に少し考えるキルトランス。


 「それに戦うのはコイツだ!」

 そう言ってホートライドの背中を叩いた。


 「へぇ?!」

 と間抜けな声で驚くホートライド。同じように驚くアリアとレッタ。

 「な、なんで俺なんですか?!」

 泡を食って問い詰めるホートライドだが、ジャルバは意に介さない。

 「おめえも良い経験だと思って戦えよ。」

 背中を叩きながら立ち上がる。そしてホートライドの腕を掴みあげた。

 「じゃ、ちょっと外行くか。」

 そう言って扉に向かう二人。その背中を見ながらキルトランスは呆れたように「いや…まだ私はやるとは言ってないのだが…。」と呟いた。

 「キルトランス様。どういたしましょう?」

 オロオロしながらアリアが尋ねる。レッタは「やめちゃえやめちゃえ。」と呆れたように言う。

 扉の向こうに出て行った男二人を見ながら、キルトランスは少し何かを思ったようだが、諦観(ていかん)のため息と共に立ち上がった。

 「行かれるのですか…?」

 「え~、あんなバカ男たちの戯言なんか、相手にする必要ないのに…。」

 二人の少女も渋々立ち上がると、キルトランスの後を追った。


 廊下を進むジャルバ団長とホートライド。

 緊張で足が(すく)みがちなホートライドを落ち着かせながらジャルバは思う。彼の中にも一応算段というものがあった。

 強さを知っておきたいというのはもちろんある。だが彼の直観が、どうあがいてもキルトランスに、ドラゴンに勝てるとは思えなかったのだ。

 話の通じそうなドラゴンだから、手を抜いてくれと言えばうまい具合に抜いてはくれるだろう。しかしそれでも勝てる気がしない。そのくらいに圧倒的な強さの予感がしていたのだ。

 別に負けることが怖いわけではない。

 別に不敗神話を持ってる訳でもないし、今までも村人の前で何度か試合に負けた事はある。

 だが今の村の治安を考えると、自警団の団長が異邦者に負けた事を知られる方が、住民の不安をあおる事になりかねない。

 その点ホートライドであれば、若手筆頭という事は村人も知っているが、負けて不安が広がるほどではない。


 そしてもう一つ、彼がホートライドの剣技を買っているという点があった。

 今まで口には出したことは無いが、ホートライドの剣の筋は自警団の中でも突出していた。

 もちろん若い上に、ろくに師匠らしきものもいない我流の剣であり、今の強さではジャルバには到底及ばない。

 しかしその手合せの中に、団長も目を見張る瞬間が増えてきているのだ。

 状況に応じた柔軟な剣(さば)きと、危機的瞬間に見せる天才的な回避能力。その二つが彼の特徴であった。

 ジャルバの戦った事のある中で最も近い太刀筋は、一度だけ戦った王国騎士団の男であった。彼の数少ない敗北相手の一人だ。

 ホートライドは王都に行って軍隊に入り、正しい剣術の師範に着けば、ゆくゆくは王国騎士団への入隊すら夢ではないのかもしれない。

 だが本人はあまり乗り気ではなく、剣の稽古に対しての姿勢も本気とは言い難い状況だった。

 ここで団長を(しの)ぐ圧倒的な強さを相手にして、少しでもホートライドの上達になればと思う部分もあり、彼が剣の道に目覚めてくれれば…という思惑もあったのだ。


 一方、後を追うキルトランスにも思惑はあった。

 正直に言って人間に負ける気は全く無かったが、それでも伝説の勇者にドラゴンが倒されたという話がある以上、(あなど)れるほどの戦力差かどうかを確かめる必要があるとは思った。

 それと今後この村にいる以上は、自警団との接触も避けられないものだろう。だからこそ、こちらの強さを知らしめておいて、無益な戦いを挑まれないようにしたいのが本音であった。

 そのためにはもちろん団長を倒しておいた方が良いのだが、残念な事にホートライドが相手になってしまったために効果は半減かもしれない。

 しかし団長の思惑も分からないではない。

 この男、やはりただの豪放なだけの無頼ではなく、知恵も回るのだろう。ただの戦闘狂であれば真っ先に自分が挑んできたはずだ。


 そう思いながら玄関ホールに着くと、先に出たはずのジャルバ団長とホートライドが玄関前で待っていた。

 二人の少女を引き連れたキルトランスを見ると、ジャルバ団長は少し申し訳なさそうに言った。


 「なあ、やっぱ外じゃなくてここのホールでやっていいか?」

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