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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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自警団との対峙

 朝食が終わりティータイムにしようと、レッタが皿をカートに乗せて厨房に戻ってしばらくすると、レッタの服装が変わっていた。

 確かに昨日の服のままでは、どこもかしこも汚れたり破れたりしており、見栄えが悪かった。

 特に外に行くわけでもなく、アリアには見られず、キルトランスに至っては意識すらしない状況では、着替えは後回しになってもおかしくはなかった。

 しかしスカートが破れ、彼女の太ももが見える状況だ。

 普通の女性であればすぐにでも着替えただろうが、そうしないところを見るとレッタは細かい事にはあまり気にしないのか、もしくは羞恥心が薄いのか。

 だが意外にも戻ってきたレッタの変化に、キルトランスがすぐに気が付いたのだ。

 「レッタ。先ほどと何か変わったか?」

 予想外の言葉にレッタは顔を赤らめた。

 どうせキルトランスは人間の服などに興味はないだろう、と(たか)をくくっていた。

 だがいざ、それを見抜かれると、レッタがキルトランスに対して何とも思ってなかったとしても、妙な気恥ずかしさがあるのだ。

 「え、あ…う、うん…。さすがにあんな汚れて破れた服のままじゃマズいしね…。」

 と言いながらくるりと回ったのは、全部ちゃんとしたよ、というアピールだろうか。

 「ごめんなさい。私じゃ気が付けなくて…。」

 申し訳なさそうに言うアリアに、レッタは慌てて取り繕った。

 お茶を用意しようとカートからポットを持ち上げた時に、庭の方から大きな声が聞こえてきた。

 レッタが慌てて窓際に走り、カーテンの隙間から外の様子を伺う。

 「あ、ヤバい。自警団の連中だ…!どうするキルトランス?」

 カーテンを閉めてキルトランスの方を見る。

 キルトランスはすぐに「ホートライドか?」と尋ねた。

 「うん、ホートライドもいたけど、団長と他にも十人くらいいる。全員完全武装してる。」

 珍しくレッタが慌てた様子をしている。アリアもどうしたら良いのか分からずにオロオロとしている。

 キルトランスは昨夜のホートライドとの会話を思い出した。


 ――もし私が来たらアリアとレッタを連れて出てきてほしい。――


 あの男は信用できるように感じたキルトランスは行動を起こした。

 「エアリアーナ。レッタ。すまないが一緒に外に来てほしい。」

 少女たちは困惑する。

 「どうするおつもりですか?」

 「何か策があるの?」

 だがキルトランスは(かぶり)をふって答えた。

 「いや、特には無いが、そういう約束なのだ。ホートライドとの。」

 少女たちはしばらく黙っていたが、

 「分かりました。」

 とアリアが答えて立ち上がった。慌ててレッタがそれに寄り添って腕を握った。

 「キルトランス様に従います。そのかわりに一つ約束してください。村の人たちを傷つけないと。」

 「…向こうが襲ってこない限りは、約束しよう。」

 アリアの願いにそう答えたキルトランスは廊下に向かった。

 レッタがアリアに付き添いながらも玄関の方へ先導した。

 玄関のホールに立った時にキルトランスが

 「私が先に出よう。二人とも後ろにいてくれ。」

 と言って玄関の前に立ったが、そこでしばらく立ち止まった。

 応接室の扉の取っ手と形が異なったからだ。

 後ろにいたレッタがその様子を見て、しばらくしてハッと気が付いてキルトランスの元に走り寄って錠前を開けた。

 「…ありがとう。」

 レッタは少し笑いながらアリアの元に戻った。

 これから当面の敵と対峙しなければならないのに、出鼻をくじかれたようで少し恥ずかしかったが気にしても仕方あるまい。分からないものは分からないのだから。

 少し開いたドアを押して、キルトランスは外へと一歩踏み出した。



 快晴の庭は木々や草花の彩に溢れ美しい光景が広がっていた。ただ場違いな完全武装の兵たちがいる事を除けば。

 玄関の軒下を一歩進んだキルトランスは、そこで仁王立ちで止まった。

 別に格好つけている訳でも、勿体付けている訳でもない。

 ずっと暗い室内にいたキルトランスの目が、この明るさに慣れないためだ。

 元来薄暗い世界に住んでいて、その世界でもさらに暗い場所を好むドラゴン族は、夜目が効くぶん明るさには弱い。

 目が慣れるまでは、ここにいた方が安全だとキルトランスは判断したのだ。

 庭に分散していた兵が、一瞬で団長の元に集まって臨戦態勢を取った。

 美しい庭に鎧の音が、不釣り合いな無粋な音をまき散らす。

 少しずつ真っ白な視界が落ち着いてきて、ようやく輪郭が見えてきたところで、キルトランスはホートライドの姿を探す。

 全員が兜をかぶっている中で、ホートライドは兜を外していたためにすぐに彼だと認識できた。

 そして全員が抜刀して構えている中で、彼だけは剣を(さや)に納めている姿であった。

 少なくとも彼だけは、敵意が無い事を表そうとしているのが見てとれてキルトランスは安心した。

 この後どうなるのかは、彼のお手並み次第と言ったところだろう。


 足元をしっかりと確認しながら、キルトランスはもう一歩踏み出した。

 団員たちはビクッと身を(すく)めながらも一段と構えを深くした。

 そして彼の後ろからレッタがアリアを伴って現れると、団員たちにどよめきが走る。

 少なくとも予想通り、人質の無事が確認されて団長は胸を撫で下ろした。

 これで昨夜に隣にいるホートライドが、必死に団員を説得した「人質は絶対に無事です」という言葉が事実だったことが分かったのだ。

 「良かったな、ホートライド。首の皮がつながって。」

 「はい。ですからもう少しだけ、私の案のままにしてください。」

 二人はキルトランスの方を見据えたまま小声で会話をした。


 実は昨夜、深夜の強行突入を唱え始めた自警団に対して、ホートライドは必死で説得した。

 「伝説によればドラゴンは夜目が効く」と言って、夜の戦闘はむしろ自警団に不利になると。

 そして行方不明になったレッタは、アリアの家に戻っていると主張した。

 一時的に持ち場を離れた事に関しては「どこか屋敷の内部を(うかが)える場所がないかと探していた」と説明して懲罰(ちょうばつ)を逃れたのだ。

 そして、屋敷を伺っている時に裏木戸から誰かが走り込んだのを見た、という嘘をついて、それがレッタだと言い張った。

 幸いな事に、レッタとアリアの仲の良さは村人誰もが知るところであり、アリアが解放されていない今、レッタが彼女のために命を賭して戻ったとしてもおかしくはない、と団員たちは納得してくれた。

 そしてレッタが戻ったという事は、少なくとも彼女が屋敷を出た段階では、アリアが無事であったという事だ。

 屋敷の中の安寧(あんねい)を知っているホートライドからすれば、隔靴掻痒(かっかそうよう)の説得ではあったが、粘り強く説得をして、「翌朝に正面突入」という結果に落ち着いたときには、すでに空は白みかけていた。

 そして先ほど煙突から煙が上がったのが確認されて、それが屋敷の中の二人は無事だという知らせの狼煙(のろし)となって、団長が侵入の号令をかけたのだ。

 これら一連の作戦を立てる事の対価として、ホートライドは自分の首を賭けたのだ。

 団員の一部には、執拗(しつよう)にドラゴンを(かば)おうとするようにも見えるホートライドの言動に疑問を持つ者もいたが、多くの者は人質の命のために敵を刺激しないように必死なのだろう思っていた。

 理由は簡単である。

 ホートライドがレッタの事を好きだという事が周知の事実だったからだ。そうでなければ自分の命を賭けてまで、そんな事をしようとは思わないであろう。


 「お前が昨日村を襲ったドラゴンだな?」

 団長が一歩踏み出して声を張る。その声は厳戒態勢のために死に絶えたように静かな村に響いた。

 「襲った…か。それは被害が出た場合に言うのではないのか?」

 当たり前のように落ち着いて返事をしたキルトランスに団員たちが再び色めく。

 実は団員たちの間では、そもそもドラゴンに人間の言葉が通じるのか?という議論すら出ていたのだ。

 だが言葉が通じるだけではなく、普通に会話も出来る相手であるのは僥倖(ぎょうこう)だ。

 一瞬虚を突かれた団長ではあったが、鼻で笑って返した。

 「確かに人的被害は出ていないようだな。まだ。」

 「そうだな。まだ…な。」

 そう応えると、キルトランスはゆっくりと威厳もって、二段の石段を降りて土に足を着けた。

 実はようやく目が慣れてきて、足を踏み外さないようにゆっくりと石段を降りただけなのだが。

 そんな事情を知る(よし)もない団員たちは、にじり寄る恐怖と対峙した。

 レッタは彼の後ろに沿うように石段の手前まで歩いて止まった。

 「人質は無事なようだな。」

 なおも高圧的に言う団長に対して、さすがのキルトランスも少々(いら)ついたが、何事も平静を装って応える事にした。

 「人質というのは、それを盾に何かを要求した場合に言うのではないのか?」

 「…それとも私の知る人質という言葉と、この…アルビの人質とは意味が異なるのか?」

 団長はここで考えを改めるようにした。

 目の前のこのドラゴン、伝説のとおり高い知能を持ちあわせている。少なくとも人間と同等の知能を持っている、と。

 こうなればモンスター退治というよりは、野盗との交渉だと考えた方が良い。

 「レッタ!エアリアーナ!二人とも無事か?」

 団長は視線をキルトランスの後ろの少女二人に移して尋ねた。

 「元気だよー!なんともないしー!」

 笑顔で手を振るレッタ。

 「だ、大丈夫です!キル…こちらの方は何もしていません!」

 あまり大きな声を出す事がないアリアが、大声で訴えるのを聞いて団員たちに安堵が広がる。

 特にレッタの容態を気にしていたホートライドは心底安心した。徹夜の疲労により体から力が抜けそうになるのを、気合いを入れ直してなんとか食い止めると、レッタを見つめ直した。

 「よかったな。ホートライド。」

 その様子を見た団長は小さく耳打ちをして笑った。ホートライドは動揺を顔に出さないように努力した。

 団長は一歩踏み出した。ホートライドがそれに続く。


 「全員、納刀!」

 突如、団長が号令を発した。

 団員たちは何事かと一斉に団長の方を向くが、団長が自ら納刀するのを見て渋々と後に続いた。

 「ただし、気は抜くな。」

 その後に続いた言葉に、団員たちは刀の柄に手を置いたまま待機した。

 「まあ武器を向けられたままでは、気分が良いものではないからな。」

 そう平然とキルトランスが言うと、団長は鼻で笑った。

 「お前の味方をしてくれた、後ろの少女たちに感謝するんだな。」

 キルトランスは振り返ると二人の方を見て「ありがとう」と言った。

 だがその姿に自警団が虚を突かれた。

 まさか魔族がいとも簡単に、人間に頭を下げるとは思っていなかったからだ。その認識に関しては昨日のアリアたちとなんら違いはない。

 それほどまでに魔世界の住人とは人間たちにとって、狂暴と不遜(ふそん)の象徴であったのだ。

 「いやいや、キルトランスが何もしてないのは事実だし。」

 へらへらと笑いながら手を振るレッタ。

 「そうです!キルトランス様はむしろ助けてくださいました!」

 必死に訴えるアリア。この二人の様子が事態打開への要となった。

 二人の様子を見た団長は、大きく息を吐いてから笑った。団員たちはどうしたものかと困惑して顔を見合わせた。

 「そうか、名はキルトランスと言うのか。」

 そう言いながら兜を外した。

 中からは短く刈り上げた白髪交じりの髪、しっかりと日に焼けた中年の男の顔が現れた。

 これは戦意が無い事の表明であろうと感じて、キルトランスも内心肩の力を抜いた。

 「そうだ。」

 「オレはジャルバ・ミランドール。タタカナルの自警団団長だ。」

 お互いに名乗りはしたが双方の距離はまだ遠く、握手をするには届かない。

 「お前は何のためにこの村に来た?」

 「人間の暮らしを見るためだ。」

 即答するキルトランスにジャルバは困惑した。

 「何のために…?」

 「ふむ…面白そうだから?」

 その予想外の答えに自警団たちが固まる。しかしその空気を団長は笑い飛ばした。

 「ハッハッハッ…そうかそうか。つまりお前…キルトランスはただの旅人だと言うのか?」

 「そうだ。昨日からエアリアーナに世話になることになった。」

 笑った団長の目は笑っていなかった。視線をアリアの方に移して問う。

 「アリア。このドラゴンの言っている事に間違いはないか?」

 突然話を振られたアリアは驚きながらも答える。

 「は、はい。間違いございません!」

 その答え方を慎重に聞き分けたジャルバ団長は、しばらく目を閉じて考え込んだ。


 そして瞳を開けるとキルトランスを問い詰めはじめた。しかしその目に先ほどまでの(けん)はなかった。

 「人間を襲う気はないのか?」

 「ないな。そちらから襲ってこない限りは。」

 「なぜタタカナルの村を狙った?」

 「空から見つけてたまたまだ。」

 「なぜエアリアーナを選んだ?」

 「村に来た時に唯一、相手をしてもらえたからだ。」

 ジャルバ団長はいくつかの問答を矢継ぎ早に重ねた。それに対して即答していくキルトランス。

 もし何か言い訳を考えたり邪心があれば、どこかで答えに詰まる場所があるはずだと思ったからだ。

 しかしキルトランスはそれらを事もなげにかわしてゆく。

 それはそうであろう、キルトランスに後ろめたいことなど何もないのだから。


 一通りの質問をしてジャルバ団長は止まった。

 この淀みのなさ、どうやら今のところは邪な心は持っていない、と思って間違いはなさそうだ。

 そして安心とは別に、人間と同等の知能を持っている事を恐れた。

 どうやら目の前の異形のドラゴンは、本当に伝説に残っている神の使いと言われていた「それ」に近いのではないのかと。

 しかしジャルバ団長の思考は突如、緊張感のない声によって(さえぎ)られた。


 「ねー団長。その話長くなる?」


 「え?!う、うむ。」

 あまりに虚を突かれて狼狽(うろた)えてしまったが、なんとか威厳は保てた…はずである。

 見るとレッタは、アリアを支えながら石段に腰を下ろし始めた。

 この少女たちは、このキルトランスと言うドラゴンを全く恐れてはいないのだ。

 異形の魔物と一晩を共に過ごしてなお、全く警戒をしていない少女たちの様子を見て、ジャルバは腹を決めた。

 「ところでレッタ。お前の両親がひどく心配していたぞ。戻らないのか?」

 「あ…。あ、う~ん…。」

 レッタはしばし考え込んだ。

 「そのうち戻るよ。でも今はまだ…。」

 そう言い淀む。

 「何かあるのか?」

 「えーっと…アリアが心配だから?」

 話を振った張本人のジャルバ団長が応えに(きゅう)した。確かに友達がドラゴンと一緒に住むとなれば、心配になるのは当たり前なのだが、どうにも緊迫感がなさ過ぎる。

 「と、とにかく親御さんが心配してるから早く戻りなさい。」

 なんだか夜中に村の隅で悪さをしている、悪童を見つけた時のような言い方になってしまった。

 「ねえ、ホートライド!」

 突然レッタがホートライドに声をかけたために彼は驚いた。

 「お母さんとお父さんに代わりに謝っといて。もう少ししたら戻るからって!」

 団員たちはニヤニヤと笑っている。

 「お、おい。ホントに心配…っていうか怒ってるぞ!お前が早く帰れよ!」

 「そこんとこ何とか上手く言ってよー!お父さん相手にすんの得意でしょ?」

 もはや緊迫感など欠片も無い。

 ホートライドとレッタの家は近所で幼馴染だ。家族ぐるみの付き合いもしており、両親とも気心が知れた仲である。

 「いや、そういう問題じゃないだろ。レッタが戻らないとお母さん心配で倒れるぞ?!」

 その様子にさすがのジャルバ団長も気が滅入った。今朝の突入準備に神経をすり減らしたのはいったい何だったのだ。

 「もういい、分かった。」

 ジャルバ団長はそう言ってキルトランスの方に向き直る。

 その時、ホートライドが突然口を挟んだ。

 「ところでキルトランスとやら。」

 全員の視線がホートライドに集まった。


 「お前は魔術が使えるのか?」

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