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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女と慌ただしい最初の日
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フィロストラトス

 今にも命の炎が消えそうなほど衰弱しているようなレッタを抱き起しながらも、ホートライドは大声を出すことをためらっていた。

 未だに事情が分からないからだ。


 再び時は少々(さかのぼ)り、夕暮れ時。


 周辺の家の中で交代で見張りをしていた団員が「アッ!」と声を上げた。

 数名の団員が弾かれたように窓の(ふち)に集まって慎重に外をのぞく。この家からはオレガノ邸の玄関の眺望が良く、監視にはうってつけの場所であった。

 そしてそこからは、ゆっくりと開けられた玄関の扉からレッタが歩き出しているのが見えた。

 その動向を固唾(かたず)を飲んで見守るホートライド。

 その足は今にもレッタの元に走り寄って行きたそうにしていたが、グッと(こら)えて任務を優先した。

 陽も落ちかけ薄暗くなってきた玄関先で、レッタの表情は読むことは出来ない。

 しかし歩き方を見る限り、怪我をしていたり体調が悪かったりする様子は見えない。

 先ほどと同じように何らかの交渉だろうか?と団員に緊張が走る。

 だがその緊張を余所にレッタは平然と家の門をくぐった。

 解放されたのか?!

 団員たちに推測が乱れ飛ぶ。隣の家に潜伏している団長はどう対応するのだろうか?

 安堵と新たな緊張の中、ある中堅団員がボソッと言った。

 「ホートライド、行かなくていいのか?」

 その言葉に驚いたように振り返るホートライド。その団員の顔はニヤニヤと笑っていた。

 不愉快と言えば不愉快なのだが、ホートライドは黙って立ち上がり黙ってその団員に一礼すると、早足で玄関に向かった。

 本来、任務中の彼が勝手に持ち場を離れれば、後々叱責の対象になるのが普通だ。

 だがあの団員は暗に「俺がなんとかしてやるから行けよ。」と言っていたのだ。


 道に出てレッタに駆け寄ろうとするホートライド。しかし驚いたことに、彼女はすでに村人に囲まれていたのだ。

 こういう時の近所のおばちゃんの行動力は恐ろしい。自警団よりも数段フットワークが軽いのではないのかと思う。

 しかしそうなってしまうと村人の手前、喜び勇んで駆け寄るという事を躊躇(ためら)ってしまう性格の男がホートライドであった。

 どうしたものかと少々思案していたが、中の様子を尋ねると言う任務を絡めた風を装っていけば問題ないではないかと思い付き、近づこうとしたその矢先、突然レッタが走り出した。

 慌てて呼び止めようとするが、その声はどうやらレッタには届かなかったようだ。

 走り寄ろうとして呆然(ぼうぜん)とするホートライドに、気づいた村人たちがこちらに振り向いた視線を感じて、彼はいつもの自警団の若きホープの顔に戻った。


 「…彼女はなんと言ってた?」

 努めて冷静な顔で尋ねると、村人たちは困った顔をして

 「それが…よく分かんないのよ…。」

 「みんな心配して話してたのに、急に走り出しちゃって…。」

 「きっと怖かったからおうちに帰りたかったんだろうねえ~。」

 「そうだよね。でも無事で良かったねぇ。」

 などと無秩序にはやし立てる村人たち。それらを適当に相槌を打ちながら、彼女の走り去った方向を見れば確かに彼女の家の方角だ。

 最初の接触の後、団員の伝令がレッタがオレガノ邸にいる事を両親に伝えに行った。ご両親はたいそう心配な顔をしていたとの報告もあった。

 レッタと早く話をしたかった気持ちもあったが、まずはご両親との再会を優先させてあげよう…。そう思って心を落ち着かせたホートライドは、再び心に鞭打って任務に戻ろうとした。

 村人に「彼女は建物の中について何か言っていたか?」と尋ねると、談笑していたおばさんが「さぁ?大丈夫だって言ってたけどねぇ。」と他人事のように言った。

 それに違和感を感じて周囲の村人たちを見渡すと、皆この事件が一件落着したような表情で話しているのだ。

 だが単にレッタが解放されただけであって、アリアもドラゴンも以前そのままであり、事態は大して好転しているわけでも無い。

 「みなさん、情報ご提供ありがとうございました。」

 少しだけ語気強めに言うと、村人の視線がホートライドに向いた。

 「ですが、まだ屋敷の中にドラゴンがいてエアリアーナさんが人質になっている事には変わりません。」

 その言葉で少し笑顔の戻っていた村人たちの顔が再び曇る。少々良心が痛んだが事実は事実である。

 「ですから皆さんはもう少しだけ家の中に戻って静かにしていてください。皆様のご協力に感謝いたします。」

 そう言って深々と頭を下げた。

 「やれやれ、ガルんちの小倅(こせがれ)もいっちょ前に言うようになったのう。」

 「はやくドラゴンを退治してくれよ。そのための自警団なんだろ?」

 「早くワシんちも自警団から解放してくれよ。ただでさえ狭い家が男むさくて堪らんわい。」

 だが村人たちは好き勝手に言ってその場を解散した。


 頭を下げたままのホートライドの胸の内に、何かモヤモヤとしたわだかまりが浮かんで、心の中に少しずつその爪を喰い込ませていく感覚が離れなかった。



 そして時は今に戻って、ホートライドは腕の中で荒い息をするレッタを見つめていた。

 つい先ほど無事な姿でオレガノ邸を出たレッタが、なぜこんな短期間でこのような姿に…?

 レッタの身に何が起こったのか分かるはずもないホートライドは、ひとまずレッタを隣の家に入れて介抱しようとした。

 だがホートライドが彼女を抱きかかえて立とうとした時に、レッタが弱々しい声を発した。


 「アリア…アリアのところに行かないと…。」


 その一言で全てが理解できた。

 そして彼の心中に留まっているモヤモヤの一部が判明した。

 そうなのだ。「あの」レッタがアリアを放置して逃げだすはずがない。

 ホートライドだからこそ知っている。

 幼い時から二人は友達であり、ずっとアリアの世話をして彼女の影のように付き添ってきたレッタが、「たかが」ドラゴンに襲われた程度の事態で、我が身かわいさに一人で逃げ出すような事があるはずがないのだ。

 つまりレッタはアリアを助けるために、再びこのドラゴンに占拠されたオレガノ邸に舞い戻ってきたのだ。

 その道中で何が起こったのかは分からないが、友の命を救うために艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて戻ってきたに違いない。

 「レッタ。頑張ったな。でも、もう大丈夫だ。まずはお前を…」

 彼女の惨状を見かねたホートライドは、彼女の手当てをするべく立ち上がろうとした。

 しかしレッタは、どこから湧いてきたのかが不思議なほどの腕力で、ホートライドを押しのけようとして地面に再び落ちた。

 背中の袋が地面に落ちて中身が少しこぼれ出た。それらは服であった。

 ホートライドの思考が混乱する。


 え?もしかして自宅に着替えを持ちに帰っただけなのか?

 ドラゴンにアリアを人質に取られた状態で、レッタが「着替えを取りに戻りたい」って言って屋敷を出た?

 そんな理由でドラゴンが解放してくれたのか?


 分からないことだらけである。

 しかし眼下の少女は這いずりながら裏木戸を目指している。

 ホートライドは迷った。この状況でどう行動するのが正解なのかを。

 自警団としてはレッタの保護が最優先なのかもしれない。わざわざ釈放された人質を、敵の手に戻してやる道理はないからだ。

 だがレッタと旧知の仲の男ホートライドとしては、レッタをアリアの元に送ってやる事が正義に思えたのだ。

 どうする俺…内心自問自答するホートライド。


 「アリア…待ってて…すぐに行くから…。」


 譫言(うわごと)が彼女の口から絞り出された瞬間、ホートライドは周囲を慎重に見回すと、レッタを小脇に抱えてシーツの袋を肩に担ぐと、忍び足で裏木戸に向かった。


 幸いなことに裏口の監視は、先ほど広場の方から聞こえてきた、悲鳴の原因調査のために団員を向かわせていて、この場に残っていたのはホートライドだけだった。

 まだ団員たちは戻って来てはいないが、戻ってくるのは時間の問題だろう。

 誰にも見られずにレッタを連れていくには、この瞬間しかないとホートライドは判断したのだろう。



 こうしてホートライドとレッタはオレガノ邸の中に入ったのだった。

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