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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第七章】ドラゴンと魔女と帝国騎士団
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自警団の報告書

 翌日、本部で村の巡回から戻ってきたモルティ副団長から、ジャルバ団長は報告を受けた。


 建物の被害 十二軒

 村の設備の被害 六ヶ所

 負傷者 四名

 死者 一名


 五十発の火球を受けてこの程度で住んだのは僥倖(ぎょうこう)であろう。

 運悪く被害を受けた場所も、簡単な補修で済むものばかりで、場所によっては多少焦げただけであった。

 もっとも、タタカナル村が田舎であったために建物が密集していなかったという面もあり、加えてヴィラーチェの迅速な消火活動のお陰だという事は言うまでもない。

 負傷者も軽度の火傷と、慌てて転んだ程度であった。そちらはキルトランスにすぐに治療してもらったので、明日には治っているであろう。


 唯一の死者、村長。

 ジャルバから村人へ「村長は帝国騎士団(パラディン)によって殺害された」と公表した。

 ただ、彼がエアリアーナを魔女として、帝国に密告していた事が原因であるとは公表しなかった。

 それを知るのはあの日、近くにいた団長と副団長、そしてキルトランスだけであった。

 後の村内の心情を考えれば、公表しない方が穏便に済むであろうというジャルバの配慮であった。

 だが村長の死体は、キルトランスの魔術によって帝国軍と同じように原型を留めていなかった。

 それでも村長の、いや、元村長であった男の葬儀は後日しっかりと行う事になっている。

 村長の奥さんは嘆き悲しんで床に伏した。彼女と仲の良い村人たちが今も連れ添っているだろう。

 村長は彼の祖父の代から慣例的に世襲になっていたため、工房地区に別居していた村長夫婦の長男が、暫定の村長として就任した。後日正式に村人の集会で着任するであろう。

 年齢は三十路(みそじ)(なか)ばと少々若いが、工房地区の連中からの信頼はそこそこあるから、おそらく反発は起こるまい。


 村人達の事件後の心情はやはり一筋縄ではいかなかった。

 帝国軍が魔女狩りのために軍を派遣した事は、自警団の口から漏れ瞬く間に村人に知れ渡った。

 元々迷信深く、隣国ガヴィーター帝国を忌み嫌っている村人は、「それ見たことか。魔女の娘なんぞを放置しとるからこうなったんじゃ。」と批判したが、多くの村人はエアリアーナの味方であった。

 中にはドラゴンが二人もいるから帝国に狙われたんだ、と叫ぶ者もいた。もちろんそれも間違いではない。

 だがここでヴィラーチェの迅速な消火活動が功を奏して、村人の多くが彼女を(かば)った。

 まして五百人という帝国軍を一人で壊滅させたキルトランスに関しては、自警団総出で擁護(ようご)に回った。

 元々昔からあった帝国への反感を多少利用した点は否めないが、それでもなんとか村内の秩序は保ててはいる。


 だが、先に手を出したのが帝国側とは言え、ミナレバ駐屯地の兵の三分の一を壊滅させ、皇帝陛下の代理人と呼ばれる帝国騎士団(パラディン)を五人も殺した事実はどうしようもない。

 まだ数日は大丈夫であろうが、すぐにミナレバで異常を察して帝都に知られるのは時間の問題であろう。

 その前に何らかの手を打たなければ、更なる戦禍を呼びかねない。

 これが直近のジャルバ団長と新村長の課題になるであろう。

 余談であるが、戦場となった村の西側の惨状に関しては、ヴィラーチェの土の魔術によって、肉片は全て土に還った。おかげで今は、凄惨な現場であったそこには、何事も無かったような平和な草原が戻った。


 そして昨日、オレガノ邸で起こった事は色々と驚かされた。

 意識を回復したホートライドと目を覚ましたエアリアーナからの話を聞くに、彼女のマントは騎士の攻撃を防ぎ、ホートライドに至っては実力で撃退したのだ。

 魔力を伴った超絶剣技をもって十人前と言われる騎士の力。それを倒すことが出来ないとは言え、無傷で避けたのだ。

 だが当のホートライドはその時の記憶がほとんど残っていなかったために、何をどのように避けたのかは不明であった。

 ジャルバは以前から彼の回避能力を買っていたが、今回の件を考えると彼のそれは騎士にも引けを取らないものだと分かった。

 ホートライドは剣技さえ伴えば、この村に留まるべき男ではないのかもしれない。そうジャルバは頭の片隅で思った。

 もっとも詳細な部分は、昨日自宅に送られ、今日も昏睡から覚めないレッタから補間しないと分からない。

 ヴィラーチェとキルトランスから聞いた話であれば、レッタは数週間ほどの体力を「前借り」した状態だそうだ。

 それほどまでに重篤な、下手をすれば死亡するほどの傷を負っていた事は、後にレッタの母親が慎重に脱がした胴衣(ボディス)を見れば一目瞭然であった。深く切り裂かれたそれは、彼女の細いウェストの三分の一ほどに達していた。

 ただ、すでに体調自体は小康状態に落ち着いているので、恐らく今晩か明日には目が覚めるであろう。


 モルティ副団長が書いた報告書に目を通しながら、ジャルバ団長はジョッキをあおった。

 「これ、一件落着…じゃねえよな?」

 隣に座って黙っていたモルティ副団長が平然と答える。

 「はい。村の方はともかく、対帝国側としてはむしろ問題が大きくなったかと。」

 平然と答えたにしては少々物騒である。

 だがモルティは元々、ラクメヴィア帝国への感情が良くはない。内心では帝国に一矢(いっし)報いた事を喜んでいるのかもしれない。

 ジャルバは懸念した。

 帝都はともかく、駐屯軍壊滅の噂は遅からず近隣の都市に流れるであろう。

 そうなればキルメトア南部各地で(くすぶ)っていた反帝国感情が再燃しないとも限らない。もちろん帝国側が最も懸念している部分もそこであろう。

 シャクノー共和国とラクメヴィア帝国の戦争は五年も続き、その被害は数十万人にも及んだと言われている。そんな惨劇がまた再発して欲しいとは、いくら戦いが好きなジャルバと言えども願う訳がない。

 そもそも彼は一対一のしのぎの削り合いが好きなのであって、殺しが好きなのではないのだから。

 だが圧倒的な魔力で他国を制圧してきた帝国軍を、一人で跳ね返すほどの力を持つ者が現れたらどうなるか?

 それは想像に(かた)くない。

 「ですが、良い機会かもしれません。」

 ジャルバの懸念を知ってか知らずか、モルティはぽつりと呟いた。

 「物騒な事言うんじゃねえ…。」

 空になったジョッキを置いて、ジャルバは大きくため息をつく。


 創造神でもないジャルバには、これからこの世界がどのようになるのかは分かるはずもない。

 もっとも、創造神にも分かるはずがないのだが。

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