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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第七章】ドラゴンと魔女と帝国騎士団
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消えたホートライド

 「なにっ?!」

 構えられた火球は自警団ではなく、弧を描いて村の方へと放たれた。

 あまりの予想外の事態に呆気にとられるジャルバ。

 次の瞬間、轟音と共に村から火柱が次々を上がるのが見えた。

 自警団の若者たちから悲鳴が上がる。

 それはそうであろう。当初、帝国軍はキルトランスを討伐に来たものだと思っていた。

 だがそれは勘違いだと言う事が分かった。目的はたった一人の少女、彼らの言う魔女、盲目の少女アリアを捕らえるためだ。

 しかし、ただそれだけの為に五百人も派兵したのはおかしいとジャルバは思った。

 なぜなら彼らの真の目的はタタカナル村の掃討だったのだ。それならば必要十分な兵力だ。

 なんのために?理由は分からない。そしてジャルバにはそれを考えている暇はなかった。

 次の瞬間、彼の隣の冷静なる男が叫びながら走り出した。

 「自警団!消火活動を開始!」

 モルティを初めとした団員たちは一斉に(やぐら)に向かって走り出した。自分の村を守るために。

 一歩出遅れたジャルバが踵を返したその瞬間、モルティが振り返らずに叫ぶ。

 「団長!そこはお任せします!」

 その言葉に足が止まった。そう。今、彼の背後には変わらず驚異が存在するからだ。

 それは約四百の兵と百の魔導兵。そして三人の騎士。

 対するはジャルバ・ミランドール。そしてキルトランス。たった二人の軍勢だ。

 ジャルバはふと気になり肩越しに振り替えって櫓を見た。

 櫓の上にいるはずのホートライドが居なかった。彼もまた消火活動に向かったのだろう。

 だがそれは彼の見当違いであった。

 ホートライドは火球が打たれるよりも前に、その場から消えていたからである。



 ホートライドは櫓の上から軍を見渡して絶望していた。

 団長たちと敵の隊長との話は櫓までは聞こえてこない。だから彼は軍の本当の目的が魔女狩り。つまりレッタの親友であるアリアを殺す事が目的だとは知る(よし)もない。

 この兵力、自警団でどうにかなる数ではない。戦えば数分もかからず全滅するであろう。

 その後、村はどうなる?こいつらに蹂躙(じゅうりん)される事は間違いあるまい。

 焼かれ、奪われ、踏みにじられる。

 その事態を回避する可能性。それが事の発端でありながら一縷(いちる)の望み、キルトランスの力である。

 自警団は彼の力は知っている。一匹ですら自警団が苦戦する魔獣、その数匹を一撃の下に伏せる魔力。

 だが五百人の軍勢相手ではどれほどまで通用するのか。

 伝承ではドラゴン討伐を目論んだ人間の軍は(ことごと)く敗れている。

 だが魔物討伐に精通していると言われている帝国騎士団(パラディン)が三名いるのだ。

 もちろん、噂に聞いたものだけであり、実際の戦いを見た事があるわけではない。

 もし彼が破れでもしたら、この村は、村人たちは、そしてレッタ…。

 彼の頭にふと意中の少女が浮かんだ。快活にして優しき少女が。

 気になって振り返り、彼女のいるであろうアリアの家の方を見た。


 その時であった。遠く離れたオレガノ邸の近く。

 家々の隙間を縫うように、そして針の穴を縫うような奇跡的な視線の隙間の先の路地。

 そこを歩く小さな二人の人間の姿を見た。

 本能的に違和感を感じた彼はその瞬間を見逃さなかった。

 明らかに見たことのない人であった。村人は外出しないように通達してある事もあり、間違いなく村人ではないであろう。

 そして彼らが着ていた物。それは鎧であった。

 自警団は自分を含めて全員が西の櫓に集まっている。そんな状況で鎧を着ている余所者(よそもの)が、アリアの家の近くを歩いている。

 これは何かがおかしい。もしや敵の尖兵が極秘に村に侵入している…?

 そう思い至った瞬間、ホートライドは櫓から飛び降りていた。

 (レッタ…!!)

 少女の笑い声が脳裏に浮かぶ。

 櫓からの監視、それを命じられたことも忘れてホートライドは馬に飛び乗った。

 そしてオレガノ邸に向かって馬の腹を蹴った瞬間、彼の背後から無数の火球が放たれたのであった。



 たった二人の軍勢で帝国軍を迎え撃つ覚悟を決めたジャルバ。だがその隣のキルトランスは未だ困惑していた。

 彼もまた、軍の狙いは自分だと思い込んでいた。そしてその目的がアリアだという事に衝撃を受けていた。

 アルビでの「魔女」という概念はよく分からないが、少なくとも彼の思う限り、そのような要素を持ち合わせていない一人の健気な少女、エアリアーナ・オレガノ。

 そんな少女を狩るべくこんな軍な動員されたことも理解に苦しんだ。

 そして追い討ちをかけるように空へと放たれた火球。

 てっきり自分が狙われるのだと思っていたために、完全に虚を突かれてしまった。

 だがそれ以上に理解に苦しんだのは、なぜ彼らが同じ人間であるタタカナルの村を攻撃したのか。目的はアリア一人ではなかったのかという事である。

 もちろん魔世界にいた頃から、アルビでは人間同士でもいがみ合い、殺し合いをしている事は知っていた。

 しかし、今この状況で帝国軍が辺境の村と戦争をする理由が分からないのだ。

 今のキルトランスにとっては、とうの昔に有名無実化してしまった魔世界の偵察の掟、「人間界への直接的干渉は極力避ける」をふと思い出した。

 もし、これが単なる人間同士の戦争なのであれば、果たして自分が干渉することが正しいのかどうか。

 村で世話になっている手前、魔獣の退治程度であれば気にせずこなしてきたが、人間同士の戦い、戦争ともなれば話は別だからだ。

 その時、少し場違いな情けない声で意識を現実に戻された。

 「き、騎士様!お話が違いますぞ!」

 村長の声である。相当に焦っているのか、いつものつかみどころのない話し方とは違っていた。

 「魔女を捕らえるというだけのお話であったはず!これでは私の村が焼けてしまいます!」

 その言葉を聞いたジャルバが舌打ちをした。

 「そういう事かよ…。」

 「どういう事なのだ?」

 キルトランスが尋ねた。部外者であった自分にはその辺の事情は聞かなければ知りようがないからだ。

 「いいように利用されたんだよ。細かくは言わねえが、元々この辺りの地域は帝国とは仲が悪い。」

 「だから帝国の連中は、理由をつけてこの辺を潰したかったんだろうよ。」

 憎しみのこもった声で吐き捨てるジャルバ。

 「帝国のお偉方の意向なんざ知らねえが、魔女とドラゴン、この二つもあれば辺境の村一つ潰すには十分な理由なんだろうさ。」

 「…冤罪ではないか?」

 納得できないキルトランスが問う。

 盲目の非力な少女と、敵対しないドラゴン。それを軍が討伐するなど当て擦りもいいところではないか。

 だがジャルバは否定すらしなかった。

 「そうだよ。冤罪だろうがなんだろうが、それっぽい理由が欲しかっただけだ。」

 そう言って歯軋りをするジャルバ。

 だがキルトランスの中では一つの納得は出来たようであった。

 「なるほどな。つまり私は知らぬうちに(いわ)れの無い罪を着せられたわけだ。」

 「そういう事だ。」

 「ふむ…。ならば自力で払い除けるまで、か。」

 少し力の(こも)ったキルトランスの声を聞いて、ジャルバがようやく口許に笑みを浮かべた。

 「そういうこった。オレの権限で許可してやるぜ。」

 そしてはっきりとした声で宣言をした。


 「タタカナル村のキルトランス殿は…自分の身を守る権利がある…!」


 その時であった。

 「五月蝿い男だ。これは皇帝陛下の御意志である。静かにしておれ。」

 足元にすがり付き抗議をしていた村長に向かって騎士の男が言い放った。

 その瞬間、村長は静かになった。

 なぜなら彼の背中から剣が生えたからだ。

 そしてその剣がひっこむと、村長は静かに倒れた。

 心臓を一突き。即死であった。

 「やれやれ、大人しくしておれば良かったものを。」

 隊長が鼻で笑った。

 キルトランスはそれを見ても何とも思わなかった。元々関係のあった相手でもなければ、どちらかと言えば苦手な人物であったし、そもそもアリアに罪を(なす)り付けた男なのだ。

 村長という立場であるから、村人からすればそれなりの人物であったのかもしれないが、キルトランスからすれば何の思い入れもない赤の他人でしかなかったからだ。

 それでも少し視線を隣のジャルバに移した。彼の様子が気になったからだ。

 だが彼もまた無感動にその様子を眺めていただけであった。

 彼の心中は分からない。だが護るべき村人を売り、結果的に現在の惨状を招いた張本人なのだ。恐らく彼もまた、村長であった男に味方をする理由がないのであろう。

 なぜなら、ジャルバ・ミランドールは村を護る自警団、その長であるからだ。


 少し緊張の解けた様子でキルトランスが帝国軍に向かって話しかけた。

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