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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第六章】ドラゴンとメイドと魔鉱石
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イルシュのお守りと女子の会話

 買う気もない冷やかしをやめて、少女たちは露店を離れて再び歩き出す。

 「お守り?」

 雑踏の中、レッタは先ほどヴィラーチェが言っていた事を思い出して尋ねた。

 「そうですよ。」

 肩乗りヴィラーチェが答える。

 「白黒ねーちゃんは周りが見えなくて危ないので、身を守るお守りをあげようと思ったのです。」

 その言葉を聞いてイルシュはふと思った。


 なんか最初はキルトランスがお礼を言うのにビビったけど、ヴィラーチェが友達(?)のアリアに何かしてあげよう、って気持ちがある事が当たり前に思えるようになったな。

 私たち人間とこいつら魔族って、たいして違わないのかもな。外見と実力が違うってだけで。

 人間だって同族なのに殺し合いの歴史はずっとあるし、その結果が私のいる軍隊だ。

 しかも私をここに送り込もうとした奴らだって、裏じゃキルトランスにやられればいいなんて魂胆だ。

 帝都に帰れば貴族の連中は、相変わらずの蹴落とし合いだろうな。市井(しせい)にだって犯罪は溢れまくって、野党・強盗当たり前。

 かと思えばお姉さまの様に、自分を犠牲にしてもアリアのために尽くそうとする素敵な人間もいれば、このトリみたいに大して恩もないのに盲目の子のためにお守りをあげようとする魔物もいる。

 …なんだかなあ…。


 「ありがとうございます。ほんとにお気持ちだけで嬉しいですよ。」

 アリアは自分の肩に乗る、会って間もない異邦人の気持ちが嬉しくて微笑む。

 「魔術のお守りなんてあるの?」

 レッタは後ろについてくるイルシュに尋ねる。

 「え?ああ…もちろんあるよ。」

 考え事をしていたイルシュは少し驚きつつも答える。最近では聞いたことが無い事はイルシュに尋ねる人が増えた。

 片田舎の村から出た事のない小娘と、帝都から来た軍人では知っている知識の量が違うのだ。

 「魔力軽減のお守りは、軍なら割と持ってる奴もいるな。」

 そう言いながら彼女は(えり)を開いて、胸元から小さなネックレスを取り出した。

 さすがのレッタとヴィラーチェも思わずその胸元を見てしまう。

 「こっち見ろよ。そっちじゃねーよ。」

 呆れながら取り出したネックレスの先を揺らす。

 「でっかいです!」

 「意外と小さいわね。」

 「お前ら感想はどっちかにしろよ。話が噛み合わねえじゃん。」

 ちなみにヴィラーチェは胸の感想。レッタはネックレスの先にぶら下がっていた石の感想である。

 揺らす彼女の指先には大豆ほどの黒光りする石があった。

 「おお、魔鉱石のお守りですね。」

 二人は興味深そうに覗き込む。

 「軍に入る時に親父がくれたお守りだ。こんな大きさだけど結構な値段はしたらしいぜ。」

 そう言いながら、ふと思いついてアリアに話しかける。

 「アリア。見るか?」

 そう言いながら彼女の手を握る。

 「え、よろしいのですか?そんな大切なものを…。」

 戸惑うアリア。

 彼女は何となくキルトランスの首輪の事を思い出したからだ。高価なお守りは他人が触ってはいけないものだと思っていた。

 「いいよ。別に減るもんじゃ…ないよな?」

 ふと心配になって魔力の先輩ヴィラーチェに尋ねる。

 「たぶん大丈夫ですよ?」

 「たぶんって…。」

 そう言いながらもアリアの手を胸元に引き寄せる。ヴィラーチェが言うのだから大丈夫なのだろう。たぶん。

 恐る恐る指しだすアリアの指先が石に触れる。そしてその大きさを確かめるように触った。

 「確かに…お豆みたいな大きさですね…。」

 最初は控えめに触っていたアリアであったが、どうやら大丈夫だと分かり、しげしげと指先でその不思議な感触を確かめている。

 「ほんの少し暖かい…?」

 石だと思って触っていたアリアは、生まれて初めて触るその不思議な感触に不思議そうな顔をしている。

 「な?こんな大きさの魔鉱石でもけっこうな値段したんだ。さっきの卵くらいの魔鉱石なんて家一軒買えるくらいの値段だぜ?」

 「そんなものをくださいとか言ってたのね…。」

 レッタはイルシュの言った金額に驚き、呆れながらヴィラーチェを見る。

 「私も触ってよいですか?」

 レッタの視線などお構いなしに、イルシュのお守りをしげしげと見る彼女。

 「大丈夫なのか?魔族が触ったら発動とかしないよな?!」

 急に不安になるイルシュ。

 確かに「魔力から身を守る物」であれば「魔が触れたら発動」してもおかしくは無い。

 「…きっと大丈夫ですよ。」

 少し考えたが、考える途中にはすでに触っていたヴィラーチェ。

 「おいおい…。」

 「ほら、大丈夫だったです。」

 「結果論じゃねーか!」

 目の前で口げんかしながらもヴィラーチェが尻尾の先で軽く撫でる。

 「ははあ。風と土…あとは火も少し入ってるみたいですね。」

 ふむふむと肯きながら一人で納得するヴィラーチェ。

 「え、そんな事まで分かるのか?!」

 驚いたのはイルシュのみ。魔術に縁のないアリアとレッタには、それがすごいのかすら分からなかった。

 「はい。そんなの簡単です。」

 人間よりも上回った能力があった事に優越感を持ったヴィラーチェが胸を張る。

 「でもイルシュは触らせてくれて優しいです。」

 「どういう事?」

 前置きのない突然の賛辞に意味の分からないイルシュ。

 すると彼女は初めてキルトランスと会った時の様子を説明した。

 多少誇張されたり、彼女の主観であったりしたが、大よその事実は正しかったと言えよう。


 ヴィラーチェ「キルトランスは首輪触ろうとしたら怒ったです。」

 イルシュ「私なんか質問しても答えてくれなかったぞ。『大事なものだ』ってだけだ。」

 レッタ「今でもアタシが触ろうとしたら怒るしね。」

 アリア「そうなんですか?」


 「「「え?」」」

 「…?」


 アリアの言葉に少女たちが訝しげな顔をする。予想外の反応に少し焦るアリア。

 「ど、どうされました?」

 「あいつ、アリアには触らせてくれるの?!」

 詰め寄るレッタ。

 「ドラゴンニュート族の誇りって聞いたのに、人間なんかに触らせるなんておかしいです!」

 憤懣(ふんまん)やるかたないヴィラーチェ。

 「どうでもいいわ。」

 どっちでも良さそうにお守りを胸元にしまうイルシュ。

 少女たちの話題はお守りからキルトランスについてに移ってしまったようだ。



 広場を一通り回り終わってアリアたちを見つけたキルトランスは、合流しようとして近づいたが、彼女たちの話を聞いて黙って距離を取った。

 そして自分に火の粉が降りかからないように、一足先にオレガノ邸に飛び立ったのであった。

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