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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第六章】ドラゴンとメイドと魔鉱石
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ヴィラーチェのおつかい

以前あった小編を、時系列を本編中にして再構成しました。

中身は同じなので既に小話3話を読み終わった方は再度読む必要ではございません。

 ヴィラーチェの村人への浸透の早さは驚くべきものがあった。

 キルトランスをして多少不機嫌になるほどの早さに、彼女の外見が大きく依存していたのは言うまでもない。

 やはり顔が人間に酷似しているのは、心理的な壁を取りやすいのだ。

 数日も経てば、彼女一人で村を飛び回っても驚かれないようになった。

 もっとも子供たちは彼女の捕獲をしようと追い掛け回していたが。

 当初キルトランス達は、子供に襲われていると勘違いした彼女が、魔力で反撃をするのではないかと恐れた。

 しかし予想に反してヴィラーチェはそれを楽しんでいるようであった。


 雨が上がって数日経ち、道のぬかるみもようやく消えた頃、アリアは体調が優れないのか、ベッドでぐったりとしていた。

 そしてその隣にはレッタが付き添っている。ヴィラーチェも心配そうにアリアの隣でゴロゴロと遊んでいる。

 イルシュはと言うと、そんなの知った事かとばかりに、今日も村へと出かけて行った。行先はおそらく自警団本部であろう。

 彼女は「情報収集」いう名目で、自警団と一緒に村を歩き回って顔を広げたり、酒を飲んだり、戦闘訓練に付き合ったり、酒を飲んだりしている。

 最初は帝国軍人と警戒された彼女であったが、私服に着替えて出歩いたりと商店の人達とも交流をしたおかげか、彼女もまた驚くべき速さで村への浸透を果たした。

 それは諜報員としての力なのか、彼女の生来の性格なのかは分からないが。


 一人で散歩をしていたキルトランスは、家に戻ってくると空の応接室を見てからアリアの部屋に向かった。

 部屋に入ろうとしてドアノブに手をかけようとしたら、先にレッタが扉を開けて顔を出した。

 「入ってくんな。」

 いつものレッタである。キルトランスにとっては。

 「エアリアーナはどうしたのだ?」

 冷たいレッタの態度にも慣れたものだ。無視して話を続ける。

 「ちょっと体調が悪いだけ。数日したら治るから気にしないで。」

 そう言って扉を閉めるレッタ。締め出されたキルトランス。

 このような事、過去にも何度かあった。

 それ故に「ああ、またか」と納得して大人しく自分の部屋にでも戻って寝る事にした。

 どうもエアリアーナは体が弱いのか、しばしばこのように倒れて数日部屋から出てこない事があるようだ。

 振り返った時に、ふと微かな血の香りがしたが、それもまた毎回の事であった。


 「もう…またそんな態度をとって…。」

 ベッドに横になったアリアがため息をつく。

 「だからと言って部屋に入れるわけにもいかないでしょ。」

 悪びれずはっきりと言うレッタ。

 「別に動けないわけじゃないのですから、部屋に籠らなくても…。」

 抗議のようにベッドから体を起こしてみせるアリア。

 「なにやらよく分からないですけど、人間のめ…めんま?は大変だね~」

 「女、ですわ。」

 「お・ん・な、ですね。」

 「ん、しか合ってないわよ。」

 人間に似た容姿だがヴィラーチェもドラゴン族の端くれ。男女ではなく雌雄と言う。

 そしてヴィラーチェは「この状況」を少女たちから説明されたが、彼女は理解が出来なかった。少女たちはその事実に驚愕しつつも、やはり彼女もまたドラゴンなのだと再確認した。


 ドラゴンは卵生である。



 太陽は頂点に達しようとし、夏の匂いのする日差しは窓からアリアたちの横顔を強く照らしていた。

 「お腹がすきましたよ。何か食べましょう!」

 居候にしては臆面(おくめん)もなく食事を要求するヴィラーチェ。

 「そうね、アリアも体力付けておかないと…。」

 呟くレッタ。アリアの手を握るその手に、少しだけ力が入る。

 今日ばかりは彼女と一緒に行くわけにもいかない。そしてイルシュは家にはいない。そう考えると、必然的にレッタが一人で買い物に行くしかないのだ。

 アリアと離れたくないという気持ちで腰が重くなっていたレッタは、ふと思いつきを漏らした。


 「ねえ、ヴィラーチェ。おつかいに行ってみない?」


 「おお?」

 「え?!」

 アリアが驚き、ヴィラーチェの顔が輝く。

 「ちょ、ちょっと…ヴィラーチェさん一人でお使いはまだ…。」

 難色を示すアリアに少し不満げなヴィラーチェ。

 「ワタシをなんだと思ってるのですか!子供じゃないですよ、お使いくらい出来ます!」

 その幼げな顔と小ささから、どうしても無意識に子ども扱いする人間が多いが、彼女はれっきとした大人。村で言えば長老たちと比肩する年齢なのだ。

 「ほら、そう言ってるし。いいでしょ。」

 ある意味では、レッタがもっともヴィラーチェを対等に理解しているのかもしれない。

 少し考えたアリアであったが、渋々了承した。

 彼女もまたキルトランスと同じ、居候の掟が適応される事になったからだ。


 そしてここからもまた一悶着あった。

 まず「買い物」と言うよりも、「通貨」の概念に乏しい彼女に「お金」の説明をするところから初めて、物とお金の交換をするところから分からせる必要があったからだ。

 ただ、最終的には面倒臭くなって「これ渡して、返してもらったお金はそのまま持ってきて」と投げやりな説明になってしまったのは仕方ない。

 そして次に「何を買うか」だが、なにせアルビの食材の名前を知らない彼女が、謎の単語の羅列を覚えられるはずもなく、結局レッタが全て紙に記して店主たちに見てもらう事になった。


 「それでは行ってくる!」

 品を書いた紙とお金が入った、彼女自身がすっぽりと入るほどの(かご)を足で持つと、意気揚々と窓から出て行こうとするヴィラーチェ。

 それを世間一般では「ガキの使い」と言うのだろうが、改めて言う、彼女は大人であると。


 窓から飛び出したヴィラーチェは、そのまま天高く昇って村を一望した。

 目指すは村の南西、レッタの家がある商業地区。

 好奇心旺盛な彼女はタタカナルに来てすぐに村中を飛び回って、キルトランスよりもはるかに早く色々な場所を把握していた。

 もともと空を飛ぶ種族であるドラゴンは、空間把握能力が高く位置関係にも敏感だ。アリアの家を起点にどこに何があるかを把握するのは得意なのである。

 目標の路地を目がけて、真っ逆さまに滑り降りていく彼女は楽しそうであった。

 「人間っぽいですね!面白いです。」

 人間はおつかいで空は飛ばない。

 余談だが、お金と紙をそのまま渡さず、袋に入れて(かご)に付けたレッタの慧眼(けいがん)は素晴らしいものがある。

 彼女の生来の心使いなのか、アリアの支援から学んだ経験則なのかは分からないが。


 「あら、ヴィラーチェちゃん。こんにちは。」

 路地に舞い降りると、次々と商店街の人々が笑顔で挨拶(あいさつ)をしてくる。

 「どうも!どうもです!」

 満面の笑みで尻尾を振りながら応える彼女は、村人からすれば犬の愛嬌(あいきょう)に通ずるものを感じているようにしか思えないが、彼女はそれに気が付いていない。

 「ヴィラーチェちゃん、今日はおつかいかい?」

 彼女が足で持っている(かご)を見た店先のおじさんが尋ねる。

 「そうなのですよ。レッタに頼まれて一仕事しに来たのです。」

 堂々と胸を張る彼女であった。ちなみに彼女の服は新しくなっていたが、日に日に少しずつ布面積が多くなっていくのは、レッタの策略である。

 「そうなのかい。偉いねぇ。」

 買い物に来た老婆も笑みを浮かべながら褒める。完全に子供のお使い扱いだが、ヴィラーチェは気にしない。

 「で、何を買いに来たのかな?」

 店先の主人が尋ねると、ヴィラーチェは籠を地面に置いて袋を指差した。

 「レッタがこの中に紙を入れてくれました!」

 主人が袋を開けると、中には必要なものが記された紙と、数枚の貨幣が入っていた。


 「なるほど、さすがレッタさん。上手く考えましたね。」

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