表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オフライン・アーカイブス  作者: みここ・こーぎー
7/9

07 チェイン

 リペルソン島へと向かう。


 できるだけ加速したいが大きな隙間のあるエネルギープールも回復させなければならない。本当なら一秒でも早くシャベルを助けに向かわなければならないのであろうが、さすがにエネルギーが空の状態で到着したところでなんの意味もない。むしろこちらが足手まといになるだろう。


 つまり、状況的に判断するのであれば「シャベルを助けに行く。しかし準備をしていかねばならないので、その準備時間でシャベルが死んでしまってもかまわない」ということになる。


 ……ネガティブすぎる。


 駄目だ。

 何かとても強く壁を殴りたい気分だ。

 落ち込んでいく。


 少しでも感情の隙間ができるとまずい。

 死にたい、とまではいかないが「もっと俺にできることがあったのではないか」と思う。


 さっきのレッドコヨーテ――ミトラ戦でもそうだ。

 もしかしたら懐柔された振りをして隙を見て武装解除できたのではないだろうか。

 あんなふうに無残に死ぬことはなかったのではないだろうか。

 もしかしたら何かの幸運で死んでおらず無傷かもしれないが、さすがにあれだけのことがあったあとでそれは虫が良すぎる。仮にそうだったとしても今は海の底だ。気密性が保たれていてもあと何時間程度でしか生きられないだろう。それまでに助けはくるのだろうか。何かの間違いで無傷、または数時間は持つような命であったとして、それからラーヴァナか地球統一連邦の救助が間に合うという考えは都合が良すぎる。

 生きている可能性、というものがあるだけで現実的ではない。

 それならばまだホワイトラビットの搭乗者のほうが生存している可能性が高い。あの撃墜の仕方であれば十分に脱出できるはずだ。俺はそれを見てはいないが、それこそ可能性としてはありえる。


 大きく頭を振った。


 集中力を使って加熱した脳みその冷却中にくだらないことを考えるな。


 リペルソン島到着時にエネルギープール全快、そしてできるだけイグナイトの速度を高い状態にするために少しずつスラスターの出力を上げていく。

 ……そういえば先ほどは反応が悪かったイグナイトの操作系であるが、今は問題ないくらい回復している。もしかしたら低下しているかもしれないが、どちらにせよ俺にはわからない。その程度だ。


 上昇していくエネルギープールを見ながらこういったインターバルを挟んでの戦闘はイグナイト一号機のほうが優れているといえるだろう。仮にソワカの二号機だった場合はこんな速度で飛べていない。確実に遅れている。ただレッドコヨーテの撃墜は早かったかもしれないので、やはりトントンといったころか。


 しばらく同じ速度で飛行を続けていると、エネルギープールが九割に達した。

 あとはスラスターに発生エネルギーをすべて回して加速する。


 出力が二割り増し、というとあまりに大き差を持たないように感じていたが、良く考えたらつぎ込んだ分だけ等加速するわけでもないので具体的に数値にできないが、やはりこれは他のイグナイトレプリカと比べるとかなり大きなメリットなのだろうとようやく納得する。具体的にはよくわからないが、エネルギーチャージが早い、と思う。

 こうやって余剰時間を使っての事前準備が早く終わる。早く終わることで次の行動もすぐに済む。この連鎖がこのイグナイト一号機のメリットなのだ。

 二号機や三号機と比べ局地戦は後れを取っているが、エネルギープールの回復が早いので全体的に性能が高く見える。上手く操作したら他のイグナイトよりも二割増しで準備完了し、二割増して次回攻撃が早くなるのだ。弱いわけではない。むしろ頭二つ分高く見える。


 ここまでボロボロになってようやくこの機体のメリットを理解した。

 次はもう少し上手く戦いたい。


 リペルソン島の上空が見える場所までやってきた。

 すでにレーダーには多くの敵性クライムエンジンが見える。数としては三十二機だ。一個大隊に当たるだろうか。さすがに地球統一連邦やラーヴァナの編隊構成など知らないが、同じ性能の機体同士であれば絶望的を通り越して現実的な地獄、その一丁目だ。


 だがしかしイグナイトならば問題ない。


 俺は陣形フォーメーションを組んだ赤、青、黄、緑、黒の敵性ボンバーに遊撃用のちょっと強い銀色ボンバーを含めた三十機をざっと見定める。特にカスタマイズされたような妙な機体はいないようであるので多少は楽観視すると、その奥に座するイエロージラフと――


 そして、|イグナイト三号機だ。


「シャベル、楽しそうだな。ロリとの抜き差し関係を天秤に地球統一連邦に反旗を翻すことにしたのか?」


 状況的に止まらざるを得なかった。

 人型状態ソードマウントに変形する。十分に離れた距離で。

 巨大戦闘艦と呼ぶべきその姿は陽光を輝かせているイエロージラフだ。そしてその隣にシャベルのイグナイト三号機がある・・

 なんといえばいいのか、明らかにイグナイトのものではないバリアユニットのようなもので全身を覆っている。

 こういうのは始めてみるが、おそらく……


 シャベルは敗北し、捕獲されている。

 そう考えるのが妥当だろう。


「いや、俺もそういう気はなかったんだけどね。どうしてもって言うもんだから、ちょっと悩んでいるんだ。どうしたらいいと思うかな?」


 イグナイト三号機を覆っているものは、イエロージラフの捕獲用のバリアネットのようなものだろう。違うのならなんだよって感じだ。イグナイトの装備にああいうものは存在しない。


 携行火器は中型のビーム砲を選択すると左手に装備、右手にしかビームソード用のビーム発信器が搭載されていないのでこっちは空けておく。流体金属装甲を毟って中盾ミドルシールドを装備してもいいが、半バリアユニットみたいなもので一度変化させると装甲に戻せない。変形時に投棄するか邪魔な空力カウルとして括り付けなくてはならない。そういうことが得意なやつもいないことはないが、俺はあまりやりたくない。盾を装備したままでは回避機動が行いづらい。


 状況を見定めるために一時的にホバリング停止したが、どちらにせよ俺がやることはひとつだけだ。


 シャベル――


「子供の股ぐらに鼻先を突っ込んでな!」


 数の少ない大型のロングレンジミサイルを使用する。

 背中から前方斜めへとミサイルが射出された。


 残数のある火核ミサイルシードに流体金属装甲を少量流し込み兵器包装ミサイルパッケージして大型ミサイルが作成し背部スラスターの汎用レールに並べていく。逐次生産を行い、帯状にミサイルを取り付ける。


 加速性、最大速度、抗弾性、威力、範囲すべてをとって最高の代物だ。これ以上の威力になると無敵範囲攻撃ボムしかない。ビームソードよりも威力が高いというちょっとふざけたミサイルだ。

 ただし、二十発しか積み込めない。

 現実と比べると限りなく多いが、ことこのゲームに関してはこいつの補給は不可能なのでワンプレイで二十発しか撃つ機会がなく一番使いどころが難しい。これは続編でも変わらない。妙にライフの多い中ボスに撃つのが一番賢いのではないだろうか。


 上手く逃げろよ、シャベル。


 本来であれば放射状に発射して近接信管を利用しながら全滅させるべきなのだろうが、そのすべてをイエロージラフに向けて発射した。

 あの捕獲バリアがどの程度の強度なのか、威力になるのかわからないが一撃一秒でイグナイト三号機が破壊されるようなものではないはずだ。イエロージラフを集中攻撃してしまえばシャベルを追撃できず捕獲バリア以上の攻撃は行えないだろう。捕獲バリアが攻撃揮発しまえばこっちのものだ。シャベルはボロボロになるであろうが逃げ出せる。


 一秒で二発を発射するロングレンジミサイル。

 さすがに遅い。二十発すべてを撃ちつくすには十秒かかってしまう。俺は五射目以降を諦めて投下射出コールドローンチで放つ。帯状のミサイルがバラバラと零れ落ち、イエロージラフを先端に見据えると点火して高速推進していった。

 レールで発射する固定射出ホットローンチのほうが加速度が高い。そして迎撃されづらく命中精度が高いのだができないのであれば仕方ない。

 あとロングレンジをすべて発射した後で小型ミサイルもばら撒いておく。ボンバーくらいしか落とせない火力であるがそれ以外であれば大量積載できるので効果は高い。


 あと少しで一撃貰うところで緊急回避を行うと戦闘機状態で右へと回り込んでいく。


 携行火器は潰して装甲に回した。

 結果的に無駄な行為だったのかもしれないが、敵と相対して武器のひとつも準備できないやつにはなりたくない。やはり盾はあまり好ましくないな。


 ロングレンジミサイルが直撃する――


 ――ただし、ボンバーにだ。


 確かボンバーは有人機だと覚えているが、正気かよ!


 狭いミサイルコースに手近なボンバーが割り込んで自身を盾にイエロージラフを守る。もちろん同じように駆けつけようとしたやつもいっしょに巻き込んで死ぬ。力強い赤と橙の黒煙と、そして強烈な黄金色の閃光が何もかも飲み込んだ。


 その連鎖が続く。


 誘蛾灯に群がる羽虫のようにボンバーが次々とミサイルに特別攻撃カミカゼを行っていく。イグナイトのそれと違って返ってくることはない。本当に、爆発していく。ばくはつ、ばくはつとくりかえす。


 なに、やってるんだ、こいつら。


 結果的に、俺の攻撃は最高の効果を引き出した。


 一瞬でボンバー大隊が全滅して、イエロージラフも大したことはないようだが、いくらかダメージを受けている。


 イエロージラフへのミサイル直撃は見ていなかった。

 それどころじゃなかった。

 なぜ、ミサイルを防御したんだよ。命で。


 右旋回の途中だったがいつのまにか予定のコースから外れている。

 イエロージラフが変形を行い人型状態へと移行した。格好の隙であったが、なぜか攻撃を行えるテンションは得られていなかったので、攻撃はしなかった。


 イグナイト三号機の捕獲バリアは解除されておりイエロージラフから離れている。



 なぜか、俺は足を止めた。


 変形して、人型で少し遠くからイエロージラフとイグナイト三号機を見やる。


 離れている。

 心なしか、俺から離れている気もする。


 イエロージラフはゆっくりとこちらを向く。


 装飾巨大剣を持った重甲冑の黄金騎士。

 それ以上に形容するべき言葉がない。太陽の光をよく反射してプリズムが伸びる。緑発光の二つ目デュアルセンサーがこちらを見ている。両手で構えた巨大剣グレートソードが剣呑な雰囲気を漂わせ、今にも襲い掛かってきそうな気がする。ある場所にあればそれは荘厳で豪奢な守護神とした佇まいであっただろうが、この状況と俺の精神状態ではそれを夢想して堪能できるほどの落ち着きがない。


 手にした巨大剣の両刃から細かい波状のダメージウェーブが出ている。大きくはない。ただ近づけばやられる。それを振るとそれが伸びて大きな範囲攻撃判定になる。二次元ゲームの縦スクロールなら普通の攻撃だが、これを三次元でやったためにちょっとおかしい当たり判定なのだ。いや、何もおかしくはない。波状攻撃なのだからそうだろうという範囲だ。ただ左右に二回振ったら縦軸すべての百八十度をカバーしてしまい逃げることはできずダメージを受けるという素晴らしい仕様だ。


 百五十メートル以上の巨体を持つイグナイトコピー「リグナイトシリーズ」は巨体であるがために運動性に枷があるが、攻撃の面ではイグナイトと大差ない。もちろん瞬間火力はイグナイトのほうが上であるが、それ以外の敵を追い詰める攻撃に関してはリグナイトのほうが上だ。対策ができていないプレイヤーでは一方的に虐殺される感があるが、そんなのはどのシューティングゲームでもいっしょだ。反射神経だけにものを言わせているとどこかで手痛いミスをする。


 イエロージラフがゆっくりと巨大剣を振る。


 右振りだ。

 即座にイエロージラフの左すれすれを目掛けて加速する。巨大剣がこちらに向かうまでにほんの少しだけ時間があるのでその隙に攻撃判定外へと移るつもりだ。


 相手の攻撃速度を計測するためにエネルギープールからスラスターに最大でつぎ込めるだけつぎ込む。もちろんつぎ込める上限値があるのですぐに空になることはない。


 イエロージラフの巨大剣が右振りの終了際ギリギリで範囲外へ抜けることに成功した。


 ……全力出してなかったら直撃していたんですけどこのゲームはマジでどうなってるんですかねほんとにさ。


 奥歯を噛んで閉口すると両生類機動カエルで減速して回り込むとレーザーを撃ち込んでいく。あまり効果的じゃないが相手の装甲も見ておきたい。エネルギープールが潤沢なうちに。

 この考え方はあまり褒められたものではないが、初見相手にはどうしてもこうなってしかるべきだ。あと黄金色の装甲を持つやつがビームやレーザーを反射したという情報もあった気がするからまずは様子見で弱性の攻撃を行いたい。

 ……ぐ、ムシャクシャするくらい駄目な思考パターンだ。だが落ち着け。コンティニューの有無を試すつもりがない以上、これは下策ではない。もちろん上策でもないが、大丈夫だ。安心しろ、根拠はないが。


 レーザーはイエロージラフの背部スラスターにダメージを与えている。

 どうやら問題はないようだ。


 巨大剣の振り速度とこちらの速度とエネルギープールの消費量から適当に割り出した「絶対に安全じゃないしもうちょいマシな場所あったんじゃないかな縦軸とか考慮してないよね仕方ないよねお前の即席演算思考じゃこの程度だよねこの位置取りはさ」みたいな自分の検算思考イメージエンジンから駄目出しをくらう。

 そんな位置取りから常にギロチンに置かれた首を手早く動かして次の安全っぽい場所に首を置く攻撃機動を取りながら着実にダメージを与える。


 こちらが有利、にみえないこともない。


 だが安全マージンが取れない以上、シューターのサガとして危険であることに違いはない。たとえばあの波状攻撃を受けるなりその隙を狙われて大型ビームキャノンを受けたら三割しかない装甲は持たないだろう。持ったら持ったで喜びたいところであるが、それを食らったということはどこかで俺の式が破綻しているので二度目を受ける可能性がある。というか残り一割以下の装甲で高機動戦闘とか俺の神経が磨耗し尽くす。


 エネルギープールが九割まで回復する。


 大型ビーム砲を使用したいが隙がない。正確に言えば隙はないわけではないが、危険性が高いのハイリスクだ。まず大口径の砲身生成に三秒ほどかかる。エネルギー装填にさらに三秒ほどかかる。発射時間を考慮するとさらにもっとだ。十秒ほど時間が必要だ。


 ちなみ対策せずに十秒も無防備だとイグナイトは確実に破壊される。撃墜とかそういうレベルではなくバラバラに空中分解するだろう。


 つまりこの大型ビーム砲はバリアユニットを使用した攻撃なのだ。目潰しをしたあとの攻撃なのだ。相手のメイン兵装を完全破壊してから行う攻撃なのだ。相打ち覚悟で放つ攻撃なのだ。


 どれを選ぶかは自分勝手だ。


 本当に最高のパフォーマンスで使うやつもいれば俺みたいにエネルギープールの余剰回復分が勿体ないという舐めた思考で行うやつもいる。どちらも間違ってはいないが適切に使い分けるのが有効だろう。


 高い信頼性でいえばバリアユニットを使うのが適切であるのだが、勿体ないとか雑な理由で貴重な流体金属装甲を使用してもいいのか悩む。なんだかんだで十秒も守りきるのであれば一割程度は使ったほうがいいだろう。その半分でも可能といえば可能であるがギリギリにギリギリを重ねた作戦は失敗すると社会で教わった。仕事で教わったのでこの身に焼きついた経験だ。俺は同じ間違いはしない。カツカツにするつもりもない。


 思案する。


 やはり大型ビーム砲を使用することを決意する。


 さっきの話を半分ほど齟齬にするが大型ミサイルよりも威力の高い兵装はある。

 この大型ビーム砲だ。

 正確には継続して発射し続ければ大型ミサイルよりも威力は高くなる。要はDPSの問題だ。秒間辺りのダメージを気にしなければかなりのダメージを見込める。


 大型ミサイル用の火核を長距離と命中精度ロングレンジではなく大威力ファイアブラストに使用したらこの辺りはまた難しくなってくる。


 が、ただひとつ言えることとしては、大型ミサイルの作成タイプに限らず二十発も集中発射したらどんな敵でも倒せるということだ。

 当たればな。

 基本的に迎撃される。ファイアブラストなんかボンバーの機銃ですら迎撃されるんだからなんともいえない甘苦いものが口に広がる。


 そのために有用性としてはビーム兵器のほうが圧倒的に優秀ではある。

 そのために大型ミサイルが圧倒的に使いづらいというわけだ。


 人型状態に変形後、バリアユニットを射出する。最初は離して囮として使いイエロージラフに攻撃をしかける。一割分を使用したバリアユニットは前面に半球体型に展開する。俺は小型ミサイルと機銃で牽制しながらゆっくりとスライドして敵とバリアユニットの直線状に位置を修正しながら大型砲身の作成を行う。砲身作成時とエネルギー充填時は機動力はかなり下がるのでバリアの後ろにいたほうが安全だ。


 俺が何かを狙っていることはわかったのだろう。イエロージラフが巨大剣を振る。先ほどの広範囲攻撃と違ってバリアを破壊するように、強くだ。


 凄まじい衝撃がバリアユニットに辺りエネルギーの揮発を促進させていく。

 まだ砲身も完成していないのに当たりが強烈過ぎる。揮発の発光現象が俺の視界を塞ぐ。金色の光で埋められたモニタからイエロージラフの攻撃パターンを予測し、念のためにバリアユニットをもうひとつ射出しておいた。

 本当に念のためであるがイエロージラフが巨大剣の大型ビームキャノンを放ってきたときのためだ。エネルギーチャージの時間を考えるとおそらく問題はないとは思うが、目潰しされている状態だと不安が頭にこびりつく。

 こんなことなら最初から大きくバリアを展開しておけばよかったと思うがそれはもう過ぎたことだ。忘れろ。今やるべきは大型ビーム砲を発射するか、それを止めて逃げるかだ。

 そうなると装甲を二割失ったことになるが、撃墜されていないのであればそれでもいい。


 長身の砲身が作成された。人間でたとえれば砲身が大人の腕周りの太さもある重機関銃といったところか。その真白の砲身をビームソード発信器を介して接続バイパスするとそのままプールしていたエネルギーも回す。圧縮されているのだろうか、不安になる重い高振動音が聞こえ、腕に近い場所に流体金属装甲を使用して作成された炉心のインジケータの赤からゆっくりと白へと変わっていく。


 よし、撃てる!


 発射まであと一秒といったところで展開していたバリアユニットを無敵範囲攻撃ボム化させて正面に衝撃として放つ。仮にイエロージラフの波状攻撃が残っていたとしても今のですべて消滅したはずだ。


 バリアにかかっていた圧で発光していたそれらを取り除いて数秒ぶりのイエロージラフを肉眼で捉えた。


「なっ、んだと……!」


 信じられない光景が広がっていた。

 正面にはイエロージラフが巨大砲身グレートソードをこちらに向けて構えていたのだ。


 俺の、すぐ正面で、もう手を伸ばせば届くほどの場所で。


 すぐにモニタからイエロージラフの熱ステータスを確認する。



 拙いっ……巨大砲身イエロージラフのエネルギーチャージが終わっている!?



 切り取られた思考と時間モーメント

 「死」が汚泥の泡の如く吹き出してくる。


 同時に発射したら、おそらく時間当たりのエネルギー量の多いほうが勝つ。巨大砲身を常に備え続けているやつの専用ビームキャノンと撃ち合って相手のビームごと弾き飛ばせるか。いや、そもそも相殺し合うのだろうか。


 まったく予想していなかった行為に思考がついていかない。





 そして、イエロージラフのビームキャノンだけが発射された。


 俺の視界は金色の奔流に飲み込まれた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ