独裁プロジェクター(計画者)
わたしは目の前の独裁者に冷たい視線を送った。
しかし、彼は動じることなく手元の世界地図でチェスを楽しんでいる。
「もう、やめればいいのに」
そう独りごちると、彼は柔らかな微笑を洩らし、アメジストの大きな瞳を瞬かせた。レースカーテンから射す陽光が少年の横顔を照らし出す。淡い栗色をした肩に届く髪、襟首と袖に施されたゴシック調の刺繍が美しい黒い服。
神が創造した中でも、最たる美を授かった少年。
「ボクが動かさなければ、世界は何も変わらない。神の意向だ」
「……世界のために、動かすの? その、人殺しチェスを」
少年の手が休まることはない。表情を微動だにすることもなく、滑らかに答えを口にする。
「ヒトが殖えると、世界が呼吸を止めてしまうから」
「――独裁者! 偽善者!」
わたしは臆せず言い放った。
少年の手の内に拡がる世界が、あまりにもちっぽけに見えて。哀しくて。
そして、わたしもその中の駒でしかない。
彼の唇が弧を描いた。
ここは、箱庭。
神様が支配する、箱庭。
世界の趨勢を選定する、"最後の審判"が行なわれる場所。
ねえ、と少年が歌うように言った。
わたしは何も言わない。
少年がこちらを振り返る。
「そろそろキミの出番だよ、クイーン」
人類滅亡計画は、そろそろ終盤を迎える。
敵のキングが、クイーンによって地図上から転がり落ちた。