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ワールド・エラー  作者: 立花六花
デュアライズ編・起
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誤った世界

この物語は、簡単に言えばファンタジーとサスペンスと群像劇を掛け合わせた様なものです。なろう小説によくあるチート能力はありますが、あまり無双しません。異世界は一切ありません。主人公マンセーとかありませんし、ステータスとかもありません。異世界チート系が好きな方は、回れ右をする事をお勧めします。


設定も雑かもしれないですし、文章も下手です。けど、是非見てくれると嬉しいです。

 現実とアニメは違う。

 現実とゲームは違う。

 現実と漫画は違う。

 現実には、ご都合主義なんて存在しない。

 ハーレムにもならない。

 可愛い彼女も幼馴染みも居ない。

 異能力なんて無い。

 人間を脅かす謎の生物なんて居ない。

 そうだ。それが現実だーーいや、現実だった。


 『人を死に至らしめる者』ーーシビトの出現。

 シビトとは、昔からこの世界に存在し、人間の負の感情を(かて)として生きてきた化物。しかしその姿は、これまでは目に映らず、人間は奴らの存在を知らないでいた。知らずに、奴らの食物にされていたーーという設定。正確には、本当に奴らが昔からこの世界に存在していたかは、わからない。


 シビトの姿は、人間と同じく二足歩行。四肢があり、指の本数もしっかり五本だ。

 シビトの影が、人間の影とほぼ同じ様に映ると言っていいくらい、その容姿は酷似していた。

 ただ違いがあるとすれば、全身が、気味の悪い漆黒(しっこく)瘴気(しょうき)に似た様なもので出来ている事と、全身に嫌悪感を走らせる、禍々しくも美しい、(くれない)に輝く一つの瞳くらいだ。


 しかし幾ら姿が人に似ているからと言って、シビトが決して賢い訳ではない。

 一部例外を除き、シビトには学習能力というのが一切存在しない。あるのは人間の感情を喰らうという、捕食本能くらいのものだ。


 シビトの食事の仕方は特殊で、まず初めに、強い負の感情を抱く人間を、特殊な力を用いて洗脳する。

 そうして操られた人間は、奥底にある心の闇を強く刺激され、超えてはならない一線を、自らの足で超えてしまう。

 犯罪を何度も繰り返し、もう洗っても綺麗にならないくらいに心が(けが)れると、次にシビトは、その人を自殺へと誘導させる。

 首吊り。服毒。飛び降り。手法は様々だが、とにかく、そうして誘導して、自ら死へと至ったその人間の魂を、シビトは喰らう。


 一時期、自殺者がかなり増えた事があった。その原因は、単に社会景気の良し悪しでは無く、負の感情を抱く弱い心を持つ人間が増加し、シビトの数が大きく増えた事にある。


 全世界の人間が負の感情を抱かなければ、シビトは餓死(がし)していくのでは無いか。何処かで、誰かがそんな事を口にした。しかしそれは当然笑い話で、精々飲み会や合コンでの話のネタにしかならない。


 この世界で、負の感情を持たぬ人間なんて居ない。もし仮に居たとして、その人は物事をポジティブにしか捉えられない異常者(アブノーマル)だ。

 誰にも笑顔を絶やさず、常に明るく前向きな人間を、学校や会社で見かける事もあるだろう。しかし彼らは、他人の目線が届かない場所だと、まるで別人の様になっている。彼らは普段、人前でピエロを演じていただけなのだから。

 今の厳しい社会の中で、普段通りの自分で居ると、すぐに居場所を失う事になる。それを避けたいが為に、自分を(いつわ)り、今の地位に立ち続ける。失う事への恐怖から逃げるために、彼らはそういう人間になった。そんな人間に、負の感情が無い筈がない。


 結果、人間という存在が居る限り、シビトもまた存在し続ける。それはまさしく、光と影の様に。

 無意味だとわかっていても、人間にとって脅威であるシビトには、立ち向かわなければならない。

 世界政府は、シビトを狩る者ーーカリビトを育成する為の学園、通称『イーター学園』を、半年も掛からずに世界各国に設立させた。日本でも、現在の首都である聲凪の中心に、一校建てられていた。

 カリビトは大きな危険が(ともな)うが、多額の給料が配給される。よって学園入学希望者の数は、予想を遥かに上回った。

 シビトを狩る(すべ)を教わり、学園を卒業すると、立派なカリビトと証明され、対シビト専用の武器を持つ事を許される。

 卒業生は皆、学園の後援により、就職が有利に進む。よって大半の人間は、立派な社会人となる。

 その中のごく僅かだが、優秀な成績を収めて卒業した生徒は、日本国内で最強の、シビト殲滅部隊ーー『A(アンチ)S(シビト)』に所属する事になる。

 単に就職や金銭目当てで学園を卒業した者とは違い、純粋にカリビトを目指している人達の、憧れと言ってもいいだろう。


 そんなASに、最初な所属する事になった卒業生。つまりは『一世代目(ファースト)』の中で、最も成績が優秀だった二人が、ASの隊長と副隊長を務める事になった。


 隊長を務めたのは、風切羽(かざきりばね)椎名(しいな)。文武両道、才色兼備(さいしょくけんび)大和撫子(やまとなでしこ)で、在校時は学園の生徒会長を務めていた。

 男女共に人気の高い彼女が隊長となるのは、恐らく誰もが予想出来た事だろう。


 副隊長を務めたのは、安中(やすなか)音也(おとや)。彼は今も尚破られていないと言う、歴代トップの成績を収めて卒業した生徒。その名を知らぬ者は、学園在籍者の中には、まず居ない。彼もまた、副隊長に選ばれるのは、誰もが予想出来ていた。


 数十年が経ち、ASに所属する人数が四桁を越えようとしていた頃、ある事件が学園内で起こる。

 後に『第一惨劇』と呼ばれたこの事件の犯人は、六人のAS隊員。彼らは強い負の感情を抱えていた為に、戦闘中にシビトからの洗脳を受けてしまい、人を無惨に殺す悪魔と成り果ててしまう。

 惨劇を見ていた人が、口を揃えて「生き地獄だ」と言う程に悲惨なこの事件は、およそ千五百人という多大な犠牲者を出して、幕を閉じた。


 ASは、この事件が原因でその半数が死亡。更にそのおよそ半数が、戦う事を恐れる様になり、離隊。シビトに洗脳をされた六人の世話をしていた、副隊長の音也も、責任を持って離隊した。


 それから数年。倍率が圧倒的に低くなり、多少隊員の質が落ちたものの、ASの数はすぐに元通りとなった。その半数は、あの時の惨劇の恐怖を知らない、所謂(いわゆる)『無知の世代』だった。


 更に数年後。後に『学園崩壊』と呼称されたその事件は、歴史に大きく名を刻む事になった。

 これにより、ASと在校生はほぼ全滅。色濃く残った惨劇の後や、血の臭いにより、学園もすぐに閉鎖となった。


 結果ASは解体され、学園が無くなった事で、カリビトの数が大幅に激減。日本の戦力は、大きく枯渇(こかつ)してしまう。


 そしてーーその『学園崩壊』から、五年もの月日が流れた。


 表面上は争い事が無く、平和な世界。地上を照らすのは、眩い太陽の光。雲一つ無い青空が、いつもと変わらず綺麗で、見ていると心が澄み渡る。

 街の名前は聲凪。全長二千メートルという規格外の大きさを誇る壁に囲まれた、日本全土の約八割を占める、日本最後の都市。

 現在、聲凪で暮らす人は聲凪が首都となる前ーーつまり東京が都市であった『東京時代』よりも、その数は遥かに多い。


 聲凪は全部で六つの町に分別されており、その町その町に、特徴があった。大昔、四十七の都道府県によって区別されていた様に。


 これは、原型を留めずして壊れた、現実世界の中で生きる者達の物語。



 部屋に、目覚まし時計が鳴り響く。それに苛立ちを覚えながらも、時計に手を伸ばし、アラーム音を切った。


 しばらくしてから起き上がり、目を擦る。

 今日は予定があった事を思い出し、意識を完全に覚醒させた。ベッドから降り、着替えを済ませ、愛する嫁と挨拶を交わすと、少女の姿をした怪物のメイドと共に、家を飛び出す。

 こうして、少年のーー安中(やすなか)音也(おとや)の一日が始まった。



 公園の隅に建っている小さな小屋の中で、目覚まし時計のアラーム音が鳴り響く。


「⋯⋯さい」


 重々しく口を動かしたところで、アラームの音は鳴り止まない。


「うるさぁぁぁぁぁい‼︎」


 少女の叫び。同時、目覚まし時計に向けて拳を振り下ろす。


「あっ⋯⋯」


 時計は破砕音と共に壊れ、原型を留めてはいない。


「明日から⋯⋯どうやって起きようかしら」


 そんな憂鬱な気分になりながら、少女のーー霧島(きりしま)アヤカの一日は始まる。



 自然と目を覚ませば、既に家には誰も居ない。と言うよりは、最近はずっと居ない。

 ベッドから降りて、一階のリビングに向かう。


「おはよう」


 その言葉は、独り言として虚しく響いた。

 テーブルの上に置いていたスマホを手に取り、彼女に電話を掛ける。


『お掛けになった電話番号はーー』


 アナウンス音声を耳にすると、すぐにスマホを切って、テーブルの上に戻した。


 こうして、少年ーー里山(さとやま)達也(たつや)の一日は始まる。



 目が覚める。隣を見ると、愛すべき少女の姿があった。

 これまで誰かを愛する事を知らなかった彼にとって、その少女の存在は、自分の命よりも大事。


「おはよう⋯⋯」


 気持ち良く眠っている少女の頭を撫でながら、少年は小声で口にした。


 幸せに包まれながら、少年ーー檜山(ひやま)アリスの一日は始まる。



 某所にある屋敷にて、少女は目を覚ます。

 起き上がり、時間を確認した。

 愛用の扇子を広げ、美しい顔半分を覆い隠す。


「さて、今日はどんな事が起きるんでしょうか?」


 そんな期待を胸に、少女ーー月華(げっか)輝夜(かぐや)の一日は始まる。



 とある屋敷の、とある一室。

 少女はただ、自分が望む自分だけの物語を紡ぎ続けていた。




 さよなら、正しき現実世界よ。

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