プロローグ
生まれながらにして格差のある社会。
有栖川遥は母子家庭。カラダの弱い母親は働けず、生活保護を受けていた。
地球の温暖化が進み、世界の国々は枯渇しかけの資源を巡って、日々、地球上のどこかでは絶え間なく戦争が起き、桜の花のように儚く命が散っていた。
国の庇護で生きる有栖川家。
国の甘い囁きが、兄である有栖川龍平を志願兵にした。
そして、自ら命を絶った。防衛隊は兄の明確な自殺の原因を隠蔽し、軍規に乗っ取った戦死ではないコトを盾に補償を拒んだ。
兄の死に疑問を持った遥は究明の為に防衛隊に志願。
歳は18歳ーーー・・・
国に御霊を預けた時から
普通の女性としての幸せは捨てた。彼女は初恋すらまだだ。
多分、人を愛さないだろう。子供は産まないだろう。そう彼女は自らの腹を括っていた。
この国、世界の情勢は厳しさを増すばかりで、今の時代の貧困層の若者達を否応なしに戦場へと駆り立てた。
この地球全体が、戦火に包まれる日も近いかもしれない。
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4年後ーーー・・・
遥の戦闘機は一通りの訓練を終えて、基地に向かって急降下していた。
身体に負荷がかかるGの力を、耐Gスーツがやわらげていく。
このGの力に失神してしまうパイロットも居るが、失神に対する耐性は心臓から頭の距離に大きく関係している。
その論理で行けば、男性に比べ、162センチの小柄な体型である遥の方が有利で失神の確率も低いといえる。
普段は大柄で屈強な男性隊員達に、「チビ、チビ」と馬鹿にされているが。
Gの世界においては誰もが羨む体型だ。
彼女が乗り込む戦闘機は先刻、導入されたばかりの最新型ステルス機・F-20
連日の過酷な訓練で体力に自信にある遥も少しバテ気味であるが、空中戦を想定した模擬訓練に気は抜けない。
実戦において敵に隙を突かれれば、たちまち劣勢に陥り、撃墜されてしまう可能性が高い。
今の各国の戦闘機の性能システムに大差はない。ドックファイトとなれば、パイロットの技量が物を言う時代。
しいて言えば、実戦経験を積んだパイロットが優位なのだ。
遥は海の向こうに見える陸地にある管制塔を目指して、減速させていった。
遥のTacネームはアリス。
苗字の有栖川にちなんだ簡単なの付け方。
他のメンバーには馬鹿にされているが、遥はとても気に入っていた。
上官であり、男性として初めて意識した伊集院紡が名付け親だから。
遥はこの胸のときめきが恋だとは気付いていなかった。