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あと一時間。
「…はあ…。」
俺はどうする事も出来ず、ベッドから立ち上がると手立ても、策も無く、ただ着替え始めた。
家に居たところで何も変わらないと外出を決めた所で、外出した所で何が変わるわけでもなかった。
「──…出掛けるの?」
「あ、ああ。」
自室の扉を開けた先に母親の姿があり、俺は目を背けた。
そんな俺に母親は言葉を投げ掛けるも、その顔は見れなかった。
「そう。──…どうでも良いけれど、バイト代入ったんでしょう。少しは家に入れるとかしてくれないかしら?先月も、先々月も、ちょっと待ってばかりで結局貰ってないんだから。」
「…っ、わ、分かってる。」
「──…全く、いつまでもフラフラとしてないで、真面目に就活でもしなさいよ。母さんや父さんだっていつまでも面倒みられる訳じゃないんだからね。」
「……。」
「また黙り込んで。黙り込んだら全部済むなんて事はないんだから。とにかく、少しは家に入れなさい。」
聞き飽きた説教の後、母親は俺の顔を見て溜め息を吐き出した。
大きく、心底嫌と言わんばかりの溜め息を吐き出した。
「…っ。」
俺は拳を握り締め、家から逃げ出す様に履き潰したスニーカーに足を突っ込み、自宅を後にした。
閉まる扉の向こう側で、母親の声が微かに聞こえた。
──なんで、あんな子に──
パタンと閉じられた扉を背に、俺は奥歯を噛み締めた。
「…知らねえよ。」
吐き捨てた言葉は誰にも聞こえる事も無く、俺は宛も無く歩き出した。