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「──…フフ。いつ見ても、面白いわね。人は。」
高層ビルの屋上から眺めた景色。
そこから見える人波は、面白い。
歩く人々の顔は見ていて飽く事はない。
意気がって我が物顔で歩く者。
絶望的な表情で俯きながら歩く者。
何が楽しいのか笑みを浮かべて歩く者。
「長くて百年位。短い時間、ね。──…フフ。だからこそ、色々あって面白いのだけれど。」
女は笑む。
歩む人々を眺めて、不敵に。
「──…永遠を求める事も許されず、生まれ、老いて、死して、朽ちる。その限られた時の中で、成長、退化、繁栄、衰退を繰り返す。…未完成なモノだからこそ、ね。」
女は立ち上がると背中まで伸びる黒髪に触れ、黒のドレスを翻して人波へ背を向けた。
「ン、とは言え、変化が無ければ飽きてしまうわ。──…そろそろ見つけるとしましょうか。」
歩き出した女は楽しげに笑む。
これから始まるであろう事を思い浮かべ、楽しげに。
「"鐘"の持ち手を。」
女は呟き、姿を消した。