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──昨日。
「いやぁー…、今日は出る気がする。」
煙草をくわえて俺は意気揚々と、とあるパチンコ店に足を運んでいた。
家での居場所なんて無い。
恋人もいない。
友達だって多くない。
バイト代が入ったその日に、俺は勝負に出た。
「んー。どうしよっかね。どの台にしようか。」
財布に入った給料。
七万。
札が入ってるだけで、何の気無しに強気になれる。
そう、この七万が今日この場所で二倍三倍になっていくんだ。
──…一枚、二枚。
朝一で行った事もあり、みるみる内に札は溶けていく。
働いていた時間を、あの疲労や苦労は軽々と機械に吸い込まれていった。
「チッ。何なんだよ…っ!」
回しても回しても、当たらない。
右手から左手へ変えてみたり、
台の端を叩いてみても、
リールは無慈悲に当たりを呼ばず、金だけを連れ去っていく。
「糞台だ!糞台!やっぱ、パチスロはダメだな。ダメダメだ。パチンコパチンコ。」
財布の中を覗き込むと、まだ四枚ある。
四万。
パチンコで連荘すれば良いだけだろ。
簡単だ。簡単。
この前だって、逆転で三万勝ちとかあったし。
「いざ、出陣!ってか。」
──…二時間。
「……!」
自分自身でも分かる。
今の俺は目を血走らせて画面に食い付いているであろう。
俺の財布の最後の一枚。
それが今消え去ろうとしていた。
(当たれ!当たれ!当たれッ!)
液晶の中の図柄は虚しくも揃わず、もうゲームオーバーと幾ら持ち手を捻っても玉は出なくなった。
「──…は?」
俺は首を傾げた。
給料日当日。
たかだか数時間で俺は給料を全て吹っ飛ばした。
財布の中を隅々まで見ても、もう何もない。
所持金、八百円。