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──…遠のく意識を呼ぶ音。
真っ暗な視界の中、俺は右腕を伸ばして音の元凶を探した。
音と振動を放つ元凶を掴み、俺は耳元へ其を押し当てた。
「──…もしもし…。」
「もしもし、桜井陸様の電話番号でお間違いないでしょうか?」
苛立ち孕む口調とは対照的に、淡々と紡がれる言葉に俺は漸く瞼を開いた。
ベッドが寝転がったまま、棚に置かれた目覚まし時計に目線を向けて溜め息を1つ吐き出した。
「はい。」
「桜井陸様、ご本人でお間違いありませんか?」
「…はい。何ですか?」
当たり前だろうと言いかけた言葉を呑み込み、俺は言葉を返した。
「いつもお取引有り難う御座います。私、アイクルの佐仲と申します。──…桜井様、返済期日四月八日だったのですが、入金の確認が取れませんでしたので、御電話差し上げたのですが。」
「──…あ。」
小さく上げた声に向こうも察したのか、小さく咳払いをした後で淡々とした口調で言葉を続けた。
「──返済期日の超過、となっているのですが返済は本日可能でしょうか?」
「ち、ちょっと待って下さい。」
俺は勢い良く起き上がり、脱ぎ捨ててある上着から財布を取り出した。
札はない。
小銭は缶珈琲が二本買える程度。
「──…ちなみに幾ら、ですかね?」
「はい。返済期日の超過となってますので、それも合わせますと一万と六千円になります。」
無い。
「あー…、分かり、ました。あの、今日中には。」
「有り難う御座います。何時頃、か。目安などがあれば。」
「……えっと…、ちょっとハッキリしないんで、取り合えず今日、で。」
「分かりました。それでは四月九日。今日のお振込、御待ちしております。お忙しい中、失礼いたしました。」
プツンと切れた後、俺はベッドに再び横たわると棚に置かれた箱から煙草を一本取り出し、くわえると火を先端へ点けた。
紫煙が立ち上る先の天井を見上げ、俺は一つ吐息を吐き出した。
「………どーしよ。」
俺は昨日の愚行を思い返していた。