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殺人少女  作者: 羽毛 布団
1/2

子ノ刻「発覚」

初めまして。


まず、この小説を開いて下さって誠にありがとうございます。

この度初の小説を投稿することに致しました、羽毛布団です。布団いいですよね。


こういった場所への投稿は正真正銘初めてでございますので、どうか寛容な御心でご覧頂けたら幸いです。


至らぬ点等多々あるかと思います。その場合はどうぞご遠慮なさらず指摘してやって下さい。



では、本編へどうぞ。


『人』とはなにかーーーー。


ある者は言った。人とは罪の権化だと。脆く儚く、神に縋り救いを乞わねば正道を見出せない弱き者であると。


ある者は言った。人は支配者だと。他の生物とは隔絶した、叡智と謀略を兼ね備える強き者であると。


ある者は言った。人は善の体現者だと。命を尊び、他者の為に身を捧げることができる優しき者であると。


ある者は言った。人は悪の体現者だと。利と快楽を求め、他者を貶める卑しい者であると。


どれだけ論説を積もうと、解は無い。真理は姿を見せない。それは人間の想いが千差万別であるからだ。答えは出ない。寧ろ、それが真理であると言っても差し支えない。


ーーーーならば、『人でなし』とは?


大多数はこの問い掛けに、残虐非道な人間や冷酷無比な人間を思い浮かべる。悪辣な犯罪を犯す者は総じて『人でなし』と評されるし、飢餓に苦しみ食べ物を強請る子供の前を素通りする者も同様だろう。


だが、それは飽くまで平和な世界での話だ。犯罪が横行する場所ではそれが日常となり、作物の不作が続くと自らの食い扶持を保つのが精一杯だ。物乞い程度には目も向けなくなる。


そう、人でなしを人でなしたらしめる要因はただ一つ。『異端』であること。『異端』であるが故に恐怖され、蔑視され、隔離される。自身の命を顧みず、他人に食料を振りまく人間など異常以外の何者でもないのだ。それは、生への渇望を否定しているのと同義であるのだからーー。






〜殺人少女〜

序章







西暦2030年。

人類は、再び戦争へ踏み切ろうとしていた。


そも争いの種など、幾らでも落ちていたのだ。

不況は募り、物資は枯渇し、格差は広がり、だがそれでも人は増え続けた。均衡を保っていた今までが奇跡と言える程、とっくに世界は限界を迎えていた。


度重なる民族対立。加速する独立宣言。それを鎮圧する先進諸国。資源の奪い合い。様々な要因が、国を、世界を破滅へと追い込んでいく。


勿論日本も例外ではない。高齢化は進み、財政は圧迫される一方。元々良くなかった近隣諸国との関係はさらに悪化し、小さな軍事衝突も既に起こっている。今はまだ小国同士の諍いが表面化しているに過ぎないが、これから米国、ロシアの大国二つが本格的に軍を動かせば、どう足掻いても第三次世界大戦の勃発は免れない状況。最悪は核戦争にまで発展する可能性だってある。


ーーしかし、国と国がどれだけ緊張状態にあっても、人々の生活はそう簡単に変わらない。日常を紡ぎ、生を謳歌しようと躍起になる。

それが、普段通りを装う事で戦争の恐怖から目を背けている事に誰一人として意識せぬままにーーーー。





「…………ん」

深く沈み込んでいくような微睡みから、(ガイ)は目を醒ました。

「よっ、起きたか」

聞き覚えのある声が正面から響いた。頭を上げ、周囲を見渡す。

整然と並ぶ学習机、談笑する少年少女達の声、白や黄色で埋め尽くされている黒板。

「寝てたのか、僕……」

「おう、ぐっすりとな」

ここは、紛れもなく教室だった。

イタズラっぽく笑う友人を睨みつけ、核は背筋を伸ばす。眠気が晴れていく心地よい感覚。どうやら、随分と眠ってしまったようだった。

明宏(アキヒロ)、態々待ってたのか?」

「いや?今日は週番だったからさ、任務をこなして10分くらい前に帰ってきたんだよ」

「……いや、それ待ってるじゃん。起こせよ」

「はっはっは、まあ細かい事は気にすんなって」

カラカラと笑う明宏。核は付き合っていられないとばかりに席を立つと、鞄を手に取り早足で出口へと向かう。

「あ、待てよ。俺も帰るからさ」

「それはいいんだけど」

扉の前で核は振り返る。嘆息し、口を開いた。

「黒板消せよ、週番」

「あ」






櫻井(さくらい) 核。私立皐月高校に通う高校二年生。

細身、或いは貧弱とも評される体躯。日本人らしい黒髪黒目。身長165センチ。中性的で、それなりに整った顔。対人能力に乏しく、必要以上の謙遜も慢心もしない。それが核の、彼自身に対する自己評価である。

父親が小学生の頃に他界。そして母親は仕事で家を開けることが多く、事実上核は一人暮らしだった。それが寂しいと思ったことは無いが、無味乾燥な生活であったことは確かだ。

「いやあ、それでさあ……」

夕焼けに染まった街並みを尻目に、核と明宏は雑談しながら歩いていく。明宏のくだらない話を聞き流しながら、ふと、核は昔を想起した。

明宏と知り合う前、核は一人だった。特段除け者にされていたり、虐めを受けていたわけではない。一人が慣れていた核は人付き合いを好まなかったし、周囲もそれを理解し、誰も核の内面に踏み込まなかった。

付かず離れずの関係。それを打破したのが、追川 明宏という一人の少年だった。

高校二年の始業式の日。いつもの様に本を読み耽っていた核に、明宏から声を掛けたのが始まりだ。どんな興味を持ったのか微塵たりとも解らなかったが、明宏は核がまともに取り合うまで話し続けた。何度でも、何度でも。

核は初めこそ邪険に思っていたが、いつまでも付き纏う明宏に、ついに折れた。話掛けられれば真面に返事をするようになったし、自分から話題を振ることも増えていった。明宏が目に見えて上機嫌になっていったのは、今でもよく覚えている。

ーーそれが次第に心地よく感じ始めたのは、いつだったか。今となっては核にも分からない。

粗野だが人付き合いが上手く、皆に好かれる明宏。

寡黙で目立ることを嫌う、一人を好む明宏。

水と油。相容れない関係に見える二人は、歯車の如くぴったりと噛み合った。核は、それが決して悪いものだとは思わなかった。

風が頬を撫でつける。秋も終盤となった為か、酷く冷たい。それが核を回想から引き戻した。

「おい、聞いてるのか?」

「ん?ああ……悪い。なんの話だっけ?」

やれやれとばかりに、肩を竦める明宏。短めの茶髪が揺れた。

「だから、子供の頃の夢に鯨に乗って空を飛びたいって書いた昔の知り合いの話をだな」

「……なんでまたそんな話を」

聞かなくて正解だったか、と心中で呟く核であった。







もう直ぐ家に帰り着く。そんな矢先、明宏が口を開いた。

「そういえば、例のあの場所。すぐ近くだな」

「なんだ、唐突に」

「いや、現場って確かここら辺だったろ?物騒な世の中になったもんだなー」

「……あぁ、それか」

核が言った『それ』とは、このところ世間を騒がせる連続殺人事件の話だった。犠牲になったのは皆50歳程度の男達。せいぜい高収入である以外亡くなった彼らにはたいした関連性もなかった故に、捜査は難航していると核は耳に挟んだ記憶があった。せいぜい逆恨みか、無差別殺人の類だろう。核にはその程度の認識しか無かった。

「ま、気を付けろよ?お前、すぐ近くに住んでるんだし」

「まさか殺人犯だって、こんな根暗そうな金も持ってない唯の学生を狙わないだろ」

「自分で根暗って言うのかよ……」

そしてそれはフラグだ、と明宏が呟いたところで、両者は足を止める。夕日は、もう沈もうとしていた。

「じゃ、俺は今日バイトあるから」

「ん、またな明宏」

「おーう、また明日な」

分かれ道。そこで明宏と別れ、あとは真っ直ぐ歩くだけ。数分も進めば核の家に着く。明宏を見送り、さっさと帰ってしまおうと右足を出したその瞬間、核はソレに気が付いた。何か、布切れのようなものが地面に落ちている。核が腰を屈め、それを拾った。

「……落し物?」

手に取ったそれは、紺色のハンカチ。広げてみれば、端の方に小さく刺繍してあるのが見て取れる。

「あいつのか……」

明宏、と書いてあるハンカチ(落し物)をどうするか。核は数秒迷った後、家路とは逆方向へ走り出した。近くにいるうちに、さっさと届けてしまおう。そう考えて。




この選択が、核の人生の全てを変えていくことなど露にも思わずにーーーー。






「…………?」

ハンカチを届ける為、明宏を追う途中。ふと、視界の端を誰かが通った気がする。核はそう感じて、何となく視線を右へと動かした。


ーー皐月山、と呼ばれる小さな山がある。既に廃業したが、ちょっとした動物園があったり地元では有名な場所だ。そこへ続く道の途中。中肉中背の、スーツを着た初老の男が道路を外れ、こそこそと山の方へと入っていくのを核の目が確かに捉えた。

「…………」

身なりの良さそうなスーツ。挙動不審な態度。市街地ではなく、人気のない場所へ向かうその理由。

核に好奇心を齎すには、充分だった。

ハンカチを返すのは明日に回し、尾行しよう。そもそも明宏のバイト先すら知らないのだ。核はそう自分に言い訳し、山道へと足を踏み入れる。木の葉の擦れる音が、核を歓迎した。





「くそっ」

思わず悪態をつく。周囲に人の気配はしない。暗闇のせいで、目視など以ての外。核は一人森の中に立ち尽くす。

ーー尾行を始めてから二十分も経った頃。核は男を見失っていた。

後をつけた当初こそ問題は無かったが、太陽が落ち、視界が暗くなると、そこからはもう何も見えなかった。山の中ということも相まって、いとも簡単に男に撒かれてしまった。風でざわめく木々の大合唱が、核の落胆と苛立ちを増幅させた。

もういい、帰ってしまおう。素直に明宏を追えばよかったかな、と後悔しつつ、踵を返そうとした、その時(・・・)

「ーーーーーー!」

遠くから薄っすらと、だが確実に、人の声が聞こえた。

木の葉の揺れる音に混じって、何を言ったのかまでは分からない。そうでなくても、音源が遠過ぎる。場所がはっきりとしない。

だが、引き返すという選択肢は既に消失していた。半ば勘を頼りにして、引き込まれるように核は暗闇の中を進んだ。


五分ほど彷徨っただろうか。核が辿り着いたのは、一つの寂れた施設だった。

「ここは……」

核は記憶を呼び起こす。朧げにしか覚えていないが、確かここは児童達が訪れる遊戯施設だった筈だ。今は見る影も無いが、昔は子供で溢れていたのだろう。遊具の一部が、朽ちたまま残っていた。

確信は無いが、この場所から声が聞こえた気がする。核は自身の直感を信じて、壊れた扉の隙間から中へ入った。

「………………」

施設内は酷く散らかっていた。

其処彼処にゴミが散乱している。机や椅子、木材、ゴムタイヤ、果てはドラム缶まで棄てられている。不法投棄の温床となった玄関が遍く侵入者を拒んでいる。

しかし、どういうわけか申し訳程度に足の踏み場が確保されいた。つい最近(・・・・)誰かが(・・・)無理矢理(・・・・)押し退けて(・・・・・)通ったか(・・・・)のような、不自然な道が奥へと続いていた

耳を澄ましてみても、物音一つしない。意を決して、核は奥を目指す。

出来るだけ声を押し殺し、割れた硝子や木屑を踏まないよう注意を払いながら、真っ暗な道を忍び足で歩いていく。

施設は外観からしてそう広くはない。直ぐに突き当たりの曲がり角に到達した核。割れた窓から月明かりが差し込んでいる為か、視界が少しだけ明瞭になった。この先を見て何も無ければ帰ろう。そう思考して、最奥へと進む。

そしてーーーーーー。





「ーーーーーーーー」


惨殺死体が、そこに在った。





床一面を覆い尽くすどす黒いナニカ。指先ひとつ動かさない、彫像のような男。その首が、大きく抉れている。誰がどう見ても、紛うことなく、死んでいるーー。


瞠目。僅かに呼吸が荒くなる。非現実的な光景に眩暈を覚える。初めは驚愕。そして恐怖が、核の心に濁流の如く押し寄せた。


ーーーーなんだ、これ。

しかし(・・・)


ーーーーなんで、僕。

核は、死体を目にした現実に驚愕を覚えたわけでも、惨たらしいソレに生理的嫌悪を覚えたわけでもなかった。


ーーーー何も感じないんだ?


核は、死体を前に、心を揺らさなかった(・・・・・・・・・)。そのことこそ、核が驚き、恐怖心を感じるに至った原因だった。

人が死んでいるのに、常人ならば嘔吐してもなんら不自然でない状況で、ただ男が殺されたという事実を受け入れている。テレビで見知らぬ人間の訃報を耳にした時と同じく、申し訳程度の動揺も起こさない。

それは、まさしく『異常』だった。

一歩後ずさる。パキ、とガラス片を踏んだ音が、足元で鳴った。


ーーヒュッ、と風を切る音が、耳を掠めた。

「えーーーー」

チクリとした痛みに、意図せず声が漏れてしまう。首筋に冷たい感触を感じて、核は視線を下げた。月光が反射して、ソレが微かに煌めいた。



ーー首筋にナイフを突きつけられた状態で、核は固まっていた。


刃先が僅かに皮膚に食い込む感触。脳が警鐘を鳴らし、脂汗が垂れる。ナイフに合わせていた焦点を、右へ動かす。柄、そしてそれを掴んでいる腕。そしてーー。



「動かないで下さい」



凛とした、だが可愛らしさを含んだ、鈴の音のような声が響いた。

視線が重なる。思わず引き込まれそうになるほど、強い意志を孕んだ眼。その奥には、確かな敵意(・・)が滲んでいる。

暗闇の中でもはっきり美麗であると分かる、あどけない顔立ち。所謂、童顔というものだ。核を見据えるその表情は、子供が背伸びをしているようにも捉えられる。背は核より頭半分以上離れており、腰に届かんばかりまで伸ばされた深紫の髪がその可憐さを際立たせている。

ここが殺人現場であることも忘却の彼方へ、核は少女(・・)に惹かれていた。それは決して恋慕の感情ではなく、至高の作品を得た芸術家のように、少女の瞳の奥、彼女の内に眠る『何か』に魅惑されたのだ。


目線が絡み合い、幾許か。口を開いたのは、またしても少女だった。


「何者ですか」


少女のその問いを聞き、頭で理解し、解を導き、口に出す。それだけの行為が、何故だか上手く働かなかった。

「僕、は……」

口の中が乾いて、舌が回らない。奇しくも、少女には核の態度が、恐怖で動転しているように見えた。

「質問を変えます」

少しだけナイフを握る手に力を込めて、少女は言った。

「どうやってここに?」

言外に、嘘は許さないと脅しを込めながら、再び問いを発する。核は上擦りそうになる声を押し留め、返した。

「……僕は、不審な男を見つけて、尾行していたらここに着いた」

「……」

「声が聞こえて、誰か居るのかって思って。中に入った。それだけだ」

「本当に?」

「……ああ」

静寂が場を包む。何秒にも何分にも感じられる沈黙を破ったのは、少女の方だった。

「信じましょう」

それだけ言うと、ナイフを下ろす。実にあっけなく、核の言葉を信用した。そればかりか、害意はないとばかりに凶器を下ろしたのだ。

拍子抜けした核は、つい疑問を口にする。

「いや……それでいいのか?ここは普通、口止めとか」

「してほしいんですか?」

「いや、そりゃ嫌だけど……」

にべもない少女の返答に、核は肩透かしを食らった気分だった。湧き上がる疑問を押し留め、ひとまず安堵の息を吐いた。

少女は物言わぬ死体を一瞥して、ナイフを腰に下げているポーチに仕舞う。返り血一つない真っ黒な服をはたきながら、少女が言った。

「さて、本来なら問い詰めたいことが多々あるのですが……もう帰っていいですよ」

「は?」

その言葉に、思わず核は間抜けな顔で間抜けな声をあげてしまった。

「ほら、僕警察に言うかもよ?」

「構いません」

「いや……いいの?全部言っちゃうかもよ?」

「お好きにどうぞ」

「ええっと……」

「私としては、死体を前に冷静なあなたが最大の疑問なんですが」

「うっ……」

痛いところを突かれて、核はたじろぐ。

そもそも本人にすらどういうことなのか分からないのだ。説明のしようがなかった。話を逸らそうと、核は咄嗟に口を開いた。

「君はどうして、人殺しなんかしてるんだ?」

今度は少女の方が目を見開いた。


「ーーーーディフェクター、という言葉をご存知で?」


逡巡の後、少女が言ったのはそんな質問だった。

核は首を傾げる。それは記憶にない故の意思表示ではなく、どうしてそんな事(・・・・)を聞くのか、という純粋な疑問からであった。

「それって、英語のディフェクターでいいのか?離反者とか、亡命者って意味だろう?」

「ええ、確かにそうです。広義的には、ですが」

「広義的には……?」

それはどういう意味か問おうとして、核は口を閉ざす。これ以上は教えられないと言いたげに、腕を組んで壁に凭れながら核を睨む少女に気付いたからだ。

怖い顔をしているようだが、外観のせいでどうも伝わりにくい。核は内心で苦笑した。

「では、出来れば今日のことは忘れて下さい。好奇心は猫をも殺す。身に沁みたでしょう?」

「……ああ、これ以上にないってくらいにな」

「よろしい」

もう会うことがありませんようにーー少女はそれだけ言うと、そそくさとどこかへ行ってしまった。

「…………」

当然場に残るのは、核ただ一人。遠くで、梟がひと鳴きした。

「……帰って、寝よう」

今日一日で経験した出来事が多過ぎて、脳の許容量が軽くオーバーしていた核が出した結論はーー現実逃避だった。

横目でチラリと、物言わぬソレを見る。矢張り、核の中に嫌悪感は浮かんでこない。倫理観の一部が丸ごと削ぎ落とされたような、そんな違和感に苛まれながら、施設を出ようと歩き始めたその瞬間ーー左足が、何か硬いものを踏みつけた。

「なんだよまったく……」

特に意識もせず拾い上げーーーー核は口を引き攣らせた。


鹿子崎(かこさき) 桜』。ソレの表面にはそう彫られていた。


落ちていたのは、一般にロケットペンダントと呼称されるもの。開閉式になっており、中には写真を入れることが可能だ。

さて、どうしてこんなものが廃れた施設の奥に放置されていたのか。

ずっと前に誰かが落としていった?しかし、ペンダントは磨かれているかの様に綺麗だ。埃すら被っていない。ならば、かなり最近誰かが落としたことになる。ゴミを放棄しに来る際に落とした?いや、それはあり得ない。棄てるだけならこんな深部を訪ねる必要は皆無。この場所に落ちていたのはおかしい。

つまりこのペンダントは、物言わぬ屍となったそこの男か、或いは先程の少女のものである可能性が非常に高いわけだ。

そして、『桜』という名前。誰が聞いても女性の名前と考えるだろうーーぶっちゃけ、殺人犯(あの少女)が持ち主である以外に考えられない。

核は、今すぐこれを放り投げて脱兎の如く逃げ出したい衝動に駆られた。いや、当然そうするつもりだった。



しかし、現実はそう甘くいかなかった。



暗闇の隅で、カサリ、と物音が響いた。

「ひっーーーーーー!」

ビクン、と身体が跳ね、情けない声が漏れる。足下からじわじわと登ってくるような冷たさが核を包んだ。

他に人が居る?それはさっき否定したばかりだ。ならば、野生動物が迷い込んだ?そうだ、そうに違いない。核は、恐る恐る音の方へ顔を向けた。


「ーーーーチュウ」


そこに居たのは、何のことはない。ただの鼠だった。

……これが、或いは猫なら、犬なら、はたまた他の動物なら、胸を撫で下ろすだけで事は済んだのだろう。


だが(・・)



「ーーーーーーーーーー」



核は、鼠が大の苦手だった。






「はあっ、はあっ……」

気付けば、核は公道で膝に手をついていた。

無我夢中で走り続けた。どこをどう通ったかなど、核はまるで覚えていなかった。

汗が身体中を滴り落ちる。額のそれを拭い去り、核は顔を上げた。

「………………あ」

そして、手に持ったそれに気が付いた。

あの場所で拾った、銀色の小さなペンダントに。




「これ、どうしよう…………?」





つづく


ここまで読了して頂き、感謝の極みです。


いかがだったでしょうか?まだまだ謎に包まれたお話ですが、もしつづきが読みたいと思って下さる方が一人でもいらっしゃるのなら、それだけで書いた甲斐があるというものです。


感想や批評など、つけて下さるなら恐悦至極でございます。何より私の文章力アップにな(以下略



どの程度更新するかはまだ判りませんが、これからどうぞよろしくお願い致します。

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