猛暑と田舎と蜃気楼 後編
今年の夏は暑いと思ってたら友達は暑くないよねとか言ってました
修正しないで書き終えるぞと勝手に息巻いてたのですが酷い誤字見つけてorzしながら直しました……_(:3 」∠)_
晴麻の魔力探知と私が時々見る人陰でなんとか追いかける。初めはここを知らなかったので滅茶苦茶な道を進んでいるように感じていたのだが、暫く追いかけてみてどうやら何かへの近道を通っているらしいと言う事が何となくだが分かった。
獣道とすら言えてしまう道を通って少し広い道を渡っていく姿は、ここをよく知っている事を感じさせる。
と、人影が止まった。そこは、神社。そう言えばここは他の所にも増して暑い。
暑さに歪む世界の中で更に揺らめいている彼が、ゆっくりと振り返った。
「水の、付いて来たのか」
まるで彼は分かっていたかのような口ぶりで言った。晴麻と恐らく炎の精れいは暴走しているだろうと予想していただけに予想外だった。
「……水?」
「そうだ。日向真人、お前のことだよ」
しっかりと見つめられる。
「随分、理性的に話すんやな」
晴麻の声を隅で聞きつつ、炎の精れいを見つめ返す。何が何だか分からないのに、瞬間色々な事が察せられてしまった。
「まあな、暴走したのは俺の力だけだしよ」
サラさんの言っていた意味が分かった気がした。そう言う、事だったのか。
「精れいの連鎖性が、妙に引っかかってたんだよ。サラさんに、いや雷の精れいに出会った時から」
一度目を瞑って、息を吐けば、今まで感じていた暑さが和らいだ。ような気がしたのではない、本当に和らいだのだ。
「サラさんが俺たちを助けてくれた理由、そういう事なんだろ?」
受け止めるにはあまりにも大きすぎる事実。
日向真人、私はつまり――。
「水の精れい」
瞬間、一気に水の蒸発する音が聞こえて蜃気楼の揺らめきがスウっと消え失せた。
理由を明確に述べてからの結論。実にこの地域の人間らしい順序で真人は問うた。説いたと言っても良いような語調ではあったが。
疑問は仮定になって、確信を経て事実となった。
サラさんも恐らくこの目の前の炎の精れいも、俺を守ることがあってもそれは俺の為では決してない。長い時間の中で彼女らは知り合いを幾人も失くしただろうから少しでも俺と真人に一緒にいて欲しい、その意図に従うだけだろう。
別に自分の身くらいは自分で守れるつもりだ。そこは別にいいのだ。
サラさんは二千歳を超えていると言っていた。炎の精れいも恐らく何千歳と言うところだろう。つまりは、真人もそれだけ生きると言う事だろう。なんて、寂しいのだろうか。
「マコっちゃん……」
自分で思っていたよりも、声が掠れていた。真人が精れいだろうと言う事は分かっていたけれど。
「何だよ、晴麻」
「え、いや、何でもねえよ」
自分が何を言えようか。勝手に寿命を全うして死んでしまうだろう自分が。
続く沈黙の中でふと炎の精れいが声を上げた。先程、一瞬だけ強い水の魔力を感じた後は随分と気温が下がったのだがそれでも未だに彼の周りは濃い揺らめきに飾られている。
「悪い、何か俺が空気を悪くしちまったみたいでよ……」
そう言って続ける。
「俺は炎の精れい、焔って呼んでほしい。まあサラ姉には音読みでエンって呼ばれているけどさ」
精れいは、精れいと言われるのが嫌なようだ。色々と精れいとして嫌なことがあったのだろうと思ったが、俺が考えたところで所詮理解し切ることは出来ない。
「水のが日向真人でそっちが波岡晴麻だったよな」
それと精れいはいつの間にか俺たちの名前を知っているらしい。
「マコ、俺に魔力をぶち当ててくれ」
「え、マゾ?」
「違うわボケ」
焔は空気を変えるのが上手いらしい。良い意味でも悪い意味でもあるが。
彼の御蔭で固く張り詰めていた空気が解けた気がする、未だに気温は完全に下がりきっていないけれども。
「俺とお前は相反する力だから力の相殺が起きるのだよ」
力の相殺。似たような属性の精れいの力は連鎖し強まって、真逆の属性ならば力を消し合うと言う事か。さながら数学の計算式のようだ。
「そういうことなら、分かったけど」
そう言って頬を掻く。魔法の使い方がいまいち分からないのだ。
晴麻を見やれば、合点がいったとばかりに口を開く。
「まず、焔くんを指差してみ」
言われた通りに、焔を指し示す。
「指に力が溜まるのをイメージする」
指先を見詰めるとイメージし易いかもしれない、そう続ける晴麻に従い自分の爪先をじっと見る。視界の端に映った焔が驚愕の表情で私を見ていた。
「次に、どんな魔法を使うかを脳内で再生する。まあ、今回は魔力で良いみたいやし省略するで」
一拍置いて、そしてそのまま晴麻は続ける。ゴクリと唾を飲んだ。
「そして、放つ」
瞬間、焔が膝を付く。同時に彼の周りの蜃気楼が完全に消え失せ、気温も一気に下がっていく。余りに急に下がった為に寒ささえ感じた。
「だ、大丈夫か? 焔……」
苦しそうに喘ぐ彼はどう見ても大丈夫には見えなかったのだが、右手を上げて大丈夫と言った。
「いや、暴走していた分の、魔力使用のツケが来ただけだからよ……。気に、しないでくれ」
そう言ってから、フッと大きく息を吐いて彼が立ち上がった。
「流石にキツイな……。まあ、ありがとよ。マコにハル」
「無事に片付いたみたいやな」
焔曰く、彼はここに祀られているらしい。つまりここに住んでいるに近いということなのだと。
彼もサラさんと同じように俺たちの力になってくれると言っていた。有難い話ではあるが、結局は真人の力になるから俺はそのついでだと言う風にしか感じられなかった。
「そうみたいだな」
何となく行きよりも遠ざかった間が少しだけ寂しかった。
衝撃の事実です
でも分かり易かったのではないかと
見え見えの伏線回収一個目です
まだまだお付き合いくださいませ
あ、感想とか……(図々しい