図書館と本と謎 後編
前後編のバランスの悪さ
精れいの連鎖性。その言葉がどうしても頭から抜けなかった。恐らく、晴麻も。
「真人くん、最近何か夢を見なかった?」
何を尋ねられるかと思えば、そんなことだった。夢なんてよく見るものではないのか。
だからこそ、その質問の中に隠されているであろう「特別な」と言う単語の存在を感じた。
特別な状況で見た特別な夢。それならば心当たるのは一つしかない。つい最近に晴麻にも話していた為、彼の方を向けば視線がかち合う。
「はい、見ました」
しっかりと、サラさんに向き合って言った。やっぱりかと言いたげな瞳が私を
見つめる。
「うんうん、そうかそうか。じゃあ、そろそろなんだね」
嬉しそうなのに、どことなく悲しそうに見えた。もうそろそろ、一体何のことなのだろうか。
「何の、事ですか?」
そう問えば、サラさんは気にしなくても良いよと笑った。やはり、哀愁が漂っている。それでも、彼女が気にしなくても良いと言うのならば気にすべきことじゃないのだろう。
「いつか、分かるから。君の恐らく何もかもがネ」
そのいつかが、遠くない未来であることは何となく分かった。
自分の何もかも、知りたいようで知りたくない。それを知った後に自分が背負うものの大きさを想像すると、漠然とした不安が私を押し潰そうとしてくる。
「分かりました」
決意の表情は、まだ作れなかった。
「うん、今はそれで良いと思うよ。もし何もかもが分かった時、それでも真人くんと晴麻くんが友達だったら私も嬉しいな」
含みのある言い方。彼女にも、同じ様な事があった、漠然とだがそう感じた。
「質問、良いですか?」
俯いて問う。それに応えるように彼女が笑った気配がした。
出会ったばかりではあるが、サラさんは笑顔がよく似合う人だと思う。
「サラさんは幸せですか?」
「……うん、幸せだと思うよ」
私も晴麻も、それに対して反応を返すことが出来なかった。
「私ね、皆を守りたいって思っているの。それが叶っているのだもん。幸せに決まっているよ」
寂しそうなのに、彼女は幸せそうに見えた。
真人の存在を知って、俺と離別する。そう言った彼女が理解不能だった。それでも実体験のように語るものだから何も言えなかった。
お互い一緒にいすぎて他にここまで仲の良い友人もいない。だからこそ一生馬鹿やっていくつもりではあったし、そうなのだろうと思っていたのに。
「何年一人でいてはるん?」
仮定の話として、もしも真人が精れいだとしたら? 早速、俺の中では真人精れい説が確固たるものとなっているのだ。
「女性に年齢の話はナシだよ。まあ、何でも質問して良いって言ったしネ」
彼女はさっきと打って変わって、意地悪そうにニヤリと笑って言った。
「二千年くらいかな」
彼女はそれだけの年数、もしくはそれ以上の孤独を感じていたと言う事だろうか。
驚愕して、同時に恐怖した。
有益な情報か否かは置いておくとして、随分と色んな事を知れたと思う。
精れいは、本当にいた。それだけでも十分過ぎる程ではあったかもしれないが、他にも今のところは味方でいてくれるらしいと言う事が知れたのも大きい収穫だろう。
帰りの電車内、精れいの話を大声でする訳にもいかなかったので、かと言ってする話もなく終始ほぼ無言であった。
真人も、少なからず何かを確信しているみたいに見えた。
定員を遥かに超えた車内は、それを補うようにヒンヤリとしていおり、人と触れているところは暑いのにそれ以外は寒さを感じるほどで、こう言うのが体調不良に繋がるのだろうと思った。
ふと窓の外を見れば、家々が走り抜けているように感じる。本当は逆なのだが。
車内の光が地面に写って、それが並走しているように見えて、なんだか不思議な感覚だった。
キラキラと輝く町並みの中で、今の俺たちと同じ悩みを持っているのは何個あるのだろうか。せめて、こんな悩みを持っている人がいると考えているのは、何個あるだろう。
まあ、そんなものないのだろうと広告に視線を移したところで、俺たちの目当ての駅名を流す声が聞こえた。
まだまだ続きます
マコっちゃんとハルはズッ友だょ……