図書館と本と謎 前編
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現在、公立大図書館に来ている。勿論私と晴麻の二人でだ。
私たちの巻き込まれた事件はそうそう公言できるものではないと判断したのだ。説明して信じてもらえるかも分からない上、下手に変なところにまで話が通ってしまうと色々と危険なのである。
どちらにしろやりたい事も多いのでいっそという事で大図書館に来た次第だ。
ここは、私たちの住む街から少し離れたところにあり、気軽に来ようと言えるような所ではない。かと言って一生に一回二回しか行かないような所かと聞かれたら別にそんな事もないのだけれど。
例えるなら電車一本で行けるけれど態々毎週行くなんて事もなく年に五回くらい行けば良いだろう、みたいな感じだ。みたいなというよりは私たちの街から大図書館もそんな感じなのだが。
ここには何の本でも揃っている、と言われている。真偽の程は分からないが、私自身は本当の事ではないかと思っている。
「来たはええねんけど何探すんだって」
「何って……異界の事とか?」
そう答えれば晴麻は呆れるように息を吐いた。苛々したが、構っても無駄だと館内に向き直る。
天井が見えないほど高い。壁一面は本棚になっているようでそこにギッシリと規則正しく詰め込まれた本の中に、私たちの探しているような情報があるのだろうか。あったとしてもそれを見つける事が出来るのだろうか。不安はあるが、それでもやらねばならないだろう。
「ちょい待っとってな、検索してみるわ」
晴麻が右手を前にかざして意識を集中させるように目を閉じる。
そして、大きく息を吸ったかと思うと細く細く息を吐きながら手をゆっくり閉じていく。グッと握りこんでそれを胸に当てると手の中にある何かを押し当てるようにして開いた。
「あっちらへんやと思うわ」
そう言って彼が指差したのは伝承のコーナーだった。
「宗教とかじゃなく?」
「ない思うな。勝手に書かれてても燃やしてそうやしね、記者もろとも」
「そう言や、そうだな」
苦笑いで留めて晴麻の示した場所へ向かう。伝承のコーナーは一階の端の方にあった為簡単に行き着く事ができた。
「そう言えば、態々魔法使わなくても検索の機械を使えば良かったんじゃないのか?」
先程何となく思った事を告げれば晴麻は視線を僅かにこちらに向けた。
「題名とか明確なテーマが分かればそうするんやけどな、ざっくりだと魔法の方が楽なんよ」
別に私を産んだ親を恨むつもりもないが、魔法が使えるとやはり便利だなと羨む気持ちはある。恨むと羨む、一文字あるかないかで大きな違いだ。
伝承のコーナーに着くと晴麻は迷うと事なく一冊の本を手に取った。
「精れい伝説……?」
本の表紙には、そう書かれていた。
表紙は革で出来ているようで古臭い重厚さのようなものを感じる。あまり黒ずんでいないところを見るとあまり手に取る人がいないのだろうか。
晴麻が表紙を開く。中の紙は綺麗な白でとても保存状態が良い事が分かった。
「何でこれ」
「分からへんけど」
二人して疑問符を浮かべながらも読み進めていく。
文字も何となくデザインが施されていた。
精れいとは、自然の力を司っている者たちの事らしい。
炎、水など複数いる事は分かっているがそれらが幾人いてそれぞれどんな見た目なのかも分かっていない。随分可笑しな話である。そもそも人と数えるのかどうかは分からないが。
分かり易い話、炎や水のボスとか長とかそんなものがいる、そんな事がその本には書かれていた。
「いや、何でこれが検索結果なんだよ」
「いやな、異界に行ったやろ? あん時の雷がどうしようもなく気になっとったみたいで」
頬を掻きながら言う晴麻に苦笑いしつつ考える。その雷が気になった結果がこれという事は、つまりはそういう事なのだろう。何故彼が雷を気にしたのかは置いておくとして。
「まあ、と言う事はだ。あれは雷か何かの精れいだった、て事か?」
「せやね、それで殆ど正解やと思うわ」
取り敢えずもっとしっかりと読み込もうという事になった為読書コーナーへと場所を移した。
一冊しかないので隣に座って晴麻が捲る事にし読み進めていく。
精れいとは、世界を創造したと言われており今も尚自然の力を司っている。
しっかりと姿を確認されたことはない。だが精れいではないかと言われていた人は歴史上存在する。
衰退、暴走すると世界にも影響が出る。例としては、炎の精れいが衰退すれば氷河期になり、水と木の精れいが同時期に暴走すれば植物の発育異常が起こる等。
精れい同士の力は個々ではなく繋がっている為、力の似ている精れいが暴走すれば暴走し衰退すれば衰退する。
これらの情報は殆どが推測である。
本の内容は凡そそのようなものであった。
推測だけでここまで書けるのか甚だ疑問ではあるが、宇宙の果てまで行った人間がいないのに孫宇宙がどうの等と言う説もあるのでそういうものだろうと割り切って考えたほうがいいのだろうか。
晴麻も私と同じように何事か思案しているようで、難しい顔をして本と睨めっこを続けている。
「席、ご一緒してもいいですか?」
不意に聞こえたのは、澄んだ女性の声。どこか雷を彷彿とさせた。
本から顔を上げて見てみれば、二十代前半くらいに見える女性が立っていた。
晴麻は染めた痛々しい金髪を後ろで括っているが、彼女は綺麗に光を反射する黄色がかった茶髪を横の高い位置でリボンを使って一つだけ結んでいた。
ニコリと笑ったかと思うと、もう一度私たちと同席しても良いかと尋ねる。
「あ、はい。どうぞ」
なぜか緊張しつつ答えると、彼女は礼を述べて私の正面の席に着いた。
「はじめまして、こん間はどうもありがとうございます」
つい先程まで下げていた視線は彼女の方を見ており、矛盾だらけの言葉を向けていた。
「何言ってんだよ、晴麻」
そう言って晴麻を見るが、彼のアンバーはまっすぐと彼女に向いていて動かない。
対する彼女は何かに疑問を抱いてるような素振りもない。何か、分かっているのだろうか。
「お礼なんて、良いのに」
そう言えば、彼女は本を持っていないように見える。そうなると、もしかして私たちと話をしに来たのではないかなんという仮説が立てられるわけで。
「せやかてそうもいきませんて。俺たちの命の恩人になるわけやし」
晴麻が、チラリとこちらを見た。
もしかして、彼女が。自分の中で何かが繋がった気がした。
「精れい、ですか」
自分でもその言葉に質問としての意図がなく驚いた。
彼女は無言で笑っただけだったが、普通に答えられるよりもよっぽど分かり易かったと思う。
「サラって、呼んで欲しいな」
そして小首を傾げてから彼女、サラは言った。
「日向真人くん。君、面白い魔力を持っているみたいだネ」
「お礼を聞きに来た訳でもないやろ。何か、あるんとちゃうんか?」
「波岡晴麻くん。流石、鋭いネ。でも君、私は歳上なのだから敬語で行こうよ」
サラと名乗った雷の精れいは、ニコニコとこちらを見つめている。何となく居心地の悪さを感じつつも好機だと思った。
真人も恐く感じているであろう予感、この先も何かに巻き込まれていくだろうと言う事を俺も感じていた。
それも、精れいに関係がありそうな気がするのだ。
だから、ここに彼女が来たのは好都合だった。大図書館なら何かしらあるだろうとは思っていたが。
「仕方ないですやん。諦めてくださいて」
苦笑いで答えれば、彼女はまあ仕方ないかとあっさり諦めた。元々兎や角言うつもりもなかったようだ。
「まあいっか。それより、聞きたいことあったらいくらでも聞いてよ」
こっちも質問したいことあるからおあいこでしょ? そう言って机に肘をつく。
俺も、恐らく真人も、何から質問すれば良いのか考えあぐねていた。色々と聞きたい事が多すぎて、何から聞いていけば効率がいいのか。
意を決したように、真人が口を開いた。
「精れいって、何ですか?」
精れいは人類少なくとも俺たちの味方か否か、凡そそのような意味だろう。
サラはキョトンとしたように真人を見てから、質問の意図を察してか一言だけ答えた。
「分からない」
俺たち次第であり彼女たち次第である、そう言う事なのだろうか。俺たちが自然を壊すようなことがあれば牙を剥くし、彼女たちが単純に俺たちを気に入らなくてもそうなる、そう言いたいのだろうか。
「じゃあ、今の貴女は」
続けて、また真人が問う。
彼女がヒラヒラと手を振ってどっちだと思うと笑うと、真人は良好そうですねと返した。
「まあ、今の所はネ。でも木とか土はどうなのだろう?」
一通り唸っても答えは出なかったのだろう、サラは続けてくれと促した。
真人もまた考え込んでしまった為、暫く無言が続く。サラも聞きたい事があったのではないかとも思ったが、今質問しないのはタイミングを見計らっているだけなのだろうと言う事にして思考を続ける。
この間の雷について、先程真人に言ったようにとても気になっていた。
あの至近距離にいたのであれば、多かれ少なかれ俺たちに何らかの影響が出ても可笑しくはなかった。痺れて動けなくなるとか、最悪電気ショックで死ぬとか。
それに、ピンポイントであのケルベロスに当たったのも可笑しい。あそこには俺たちやケルベロスよりも大きな木が沢山生えていた。それこそ上を見上げても空があまり視界に入ってこないくらいには。それなのに、ケルベロスに当たったのだ。
もしかしたら、彼女は自分の事を俺たちに知らしめたかったのだろうか。そう考えることも出来た。
「サラさんは、俺たちに存在を示したかったんやないか思うんやけど、どうかいな?」
「そうだネ。今考えてみるとそうだったのかもしれないネ」
では、その時は違ったというのだろうか。質問する前に彼女は続けて言った。
「あの時は、ただ単に真人くんの魔力に惹かれただけだったのだと思うよ」
先ほど読んだ本の精れいの連鎖性と言う項目が浮かんだ。何だ、真人が精れいだとでも言うのか。
そんなことあるわけがないだろう。彼の親は良い人ではあるが至極普通だ。そもそも真人が普通の人間であることは、長年付き合ってきた俺がよく知っていることではないか。
「それじゃあ、私も質問しようかな」
立てた肘に頭を乗せて彼女は笑った。
最初に比べて文字数が少なくなっていってるのは仕方のないk((
後編に続く、です