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初話

 暗闇にぼうっと、明かりが灯る。

 その僅かな明かりに、片膝を立てながら読み物を読む少女の姿が映し出された。


 「おや、いらっしゃい」


 少女が読み物から目を離し、此方を見やる。

 思わずはっと、声を呑む。

 少女が此の世の者とは思えぬほど妖艶で、美しかった。


 「わらべやへようこそ」


 少女が、ついと立ち上がる。

 肩から羽織っている着物が畳に擦れる音が耳に入った。灯りがゆらりと揺れた。


 「此処は【わらべや】貴方の求めるわらべうたを、当店では提供しております」


 少女は妖艶に微笑む。歳に似合わぬ婀娜っぽさが、より少女の美しさを際立たせていた。


 「夕焼小焼の、赤とんぼ 負われて見たのは、いつの日か」


 少女が急に歌い出した。急な行動に少し驚いたが、鈴を転がしたかの様な無邪気な歌声に、思わず聞き入った。


 「十五でお嫁に行った姐やは、お嫁に行った後、どうなった?」


 突然の少女の問い。かくんと首を曲げ、此方を見ている。あまりに突然過ぎて、あ、う、としか答えられない。少女は、ふ、と笑うとまた、歌い始めた。


 「(からす)なぜ()くの 烏は山に 可愛(かわ)い七つの 子があるからよ」


 さっきとは違う歌を少女が歌い出した。その歌も聞いたことがある。よく夕焼けの下、母が手を繋ぎながら歌ってくれていたのを思い出す。


 「ねぇ、可愛い七つの子って、七人の子? それとも、七歳の子?」


 そう言われてみると、確かにそうだ。この歳になってからその歌の奥深さに気付く。


 「どんな花より たんぽぽの 花をあなたに おくりましょう」


 いつの間にか、少女が目と鼻の先の近距離に立っていた。

 黒曜石の様な光の無い闇色の瞳にじっと見つめられ、吸い込まれてしまうような錯覚に陥る。


 「たんぽぽの花言葉、あなた知ってる?」


 何処から取り出したのか? 黄色いたんぽぽを数本束ねた花束を差し出された。それを受け取ろうと私は手を伸ばす。腕が動かない。何故だ? 反対の腕も動かない。いや、腕だけではなく、身体全体が動かない。何も動けず、少女を見つめることしか出来ない私を見つめる少女はまたふ、と笑むと、たんぽぽの花束を、私の手に握らせた。その少女の行動に抗うことが、私は出来ない。


 「(うた)を忘れた 金糸雀(かなりや)は (うしろ)の山に 棄てましょか いえ いえ それはなりませぬ」


 少女は歌う。くるくると回りながら。くるくると踊りながら。


 「何故、金糸雀は唄を忘れてしまったの? 本当に忘れてしまったの?」


 手渡された黄色いたんぽぽがもぞりと、生き物のように手の中で動き出した。


 「わらべうたには、先人達の様々な思いが籠められている」


 手の中のたんぽぽがもぞりもぞりと姿を変え、黄色い龍となり、身体に巻きついてくる。花びらが、床にはらりと落ちる。


 「それは慈しみであり、哀しみであり、怒りでもある」


 床に落ちた黄色い花びらを、少女はゆるりとした動きで拾い上げる。


 「わらべやに来たからには先人達に対し、三つの劇を差し出さなくてはならない」


 黄色い龍は身体をぎちぎちと強く締め上げ、呼吸を、血管を、生命活動を、ゆっくり、ゆっくりと、嘲笑うかのように締め上げていく。


 「一つは喜劇、一つは悲劇、そしてもう一つは、狂劇……」


 何処から現れたのか? 少女と同様に、此の世の者とは思えないとても美しい、少女によく似た青年が少女の背後に立っていた。


 「お前の」

    「貴様の」

 「求める歌は、何?」


 首がみしりと音を立て、意識が薄れていく中で、ああ、思い出した。みしりと骨が軋む。たんぽぽの花言葉、それは


 【別離】


 黄色い花びらが散った時、ばきりと首の骨が折れる音を、私は確かに、最期に聴いた。

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