5・澄霞推参!
だいぶ長い長い間ほっぽいてしまって申し訳ありませんゴメンなさい…
ピリピリ震える森の空気に、2人は身構える。
声の主は、姿を現さない。
どこにいるかもわからない。
そんな状態で、動けるはずもなく。
紗介は目を閉じて気配を探り、澪那はキョロキョロと辺りを見回して、『澄霞』を探す。
2人の目当ての者は現れない。
そんな中、またもやあの低い声が響いた。
“お主は…誰ぞや……”
澪那は先ほど名を明かした。偽名だが。
とすれば、残りは紗介だ。
何故澪那が『観音』などという偽名を使ったのか、随分の間相棒として傍にいた紗介が知らないはずもなく。
「俺の名は沙之助だ。
ここは、アンタの縄張りなんだな?」
紗介も迷いなく、偽名を名乗った。
紗介の場合、術者ではないのだが術者の傍に長年いると、どうしてもその癖のようなものがうつってしまうらしい。
そんなことを知ってか知らずか、低い声の主は紗介の問いに答えた。
“その通り。ここは我の縄張りぞ…”
「なら、アンタは知ってるはずだよな?
この山を訪れたガキが、どんどん倒れてるって話。」
「身体の何処かに必ず、糊のような物が付いていたって言う話よ。」
「知ってるよな?」「知ってるでしょ?」
“……………”
2人が代わる代わる、そして揃ってそう尋ねる様を見てか、その声は一時止んだ。
しかし。
“貴様等に答える義理なぞ、指の先ほども無いわ。さっさと失せよ。早う去ね。”
「そう言うわけにはいかないの。」
ざわざわと、ざわめく木々。
突き返すような低い声。
本気で怒り始めたのだろう怪しい気配がその場に漂う。
それでも、澪那は食い下がった。
「私はその子ども達の親御さんから、頼まれたんだから。
親に思われる子ども達のためにも、私がここで引き下がるわけにはいかないのよ。」
そんな澪那の言葉と同時に、スッと目を開いた紗介。
その見つめる先は、ちょうど、澪那を挟んで向こう側の少し大きな茂み。
紗介が身を少し低くしたのを、澪那は見たわけでもなく。
スッと、自然な動きで右脚を一歩引いた。
瞬間、猛烈な風が澪那の目の前を横切った。
否、風ではなかった。
灰色の髪。見慣れた背中。
紗介だった。
紗介が目の前を通ったことに対して何の反応も示さなかった澪那は、そのまま数歩、紗介から離れるように下がると、紗介の背中を見つめた。
紗介が地面を踏み切った瞬間、澪那が一歩下がったために、彼女に激突することもなくその茂みに向かって突進する。
勿論、生身のまま突っ込むつもりはない。
左手を添えてあった腰の刀を、鞘滑りする音さえほんの一瞬だけ聞こえるかのような勢いで抜き放ち、左手もその刀に添えて右から一閃、その茂みを薙ぎ払う。
腕に伝わったのは、枝や葉を切っただけの、軽い手応え。
目の前には何もいない。後ろにも気配はない。
ならば、と見上げた空には、大きな影があった。
突っ込んだ勢いをそのままに、身を丸めて受け身を取って、すぐに起き上がる。
未だに空にいるその影は、日が陰っているために逆光も何もないが、正体がわからない。
影に向かって突っ込むべきか否か。
僅かに逡巡した瞬間、澪那の鋭い声が耳をついた。
「『澄霞』!!“白風の舞”!!」
聞こえてきたその刃のような鋭さの声に、がさりと別の茂みが揺れる。
瞬間、頭上にあった影が何かに突き飛ばされるように動き、近くの大きな楠に激突した。
どしん、という思い音が振動と共に響き、いったいどこに隠れていたのか、木という木から小鳥の大群が一斉に飛び立った。
空を埋め尽くす小さな小鳥の影。
一帯に響く、ひとつひとつでは小さな羽搏き。
そんな圧巻とも言える景色の中、巨大な影を突き飛ばした白い影が、空中を一回転して紗介の前に躍り出た。
長い身体に小さい四つ足。
小さい耳。
前足から伸びる、鎌状の刃。
茶色の目で大きな影を睨みつけ、キィキィと大きな声で叫んだ。
「種族は鎌鼬、名は澄霞!
呼ばれたからには、立派に働かせてもらうよ!」
と、そんなこんなで数回前から名前だけ出てきていた澄霞が姿を現しました。
鎌鼬って好きです何となく。
しかし、本当にこんなに遅れてしまってすみませんでした…
これからは頑張って気をつけます…
次回もお付き合いくださればとても嬉しいです。
読了ありがとうございました。