短編 もしも世界が終わりを迎えたなら
2XXX年、世界は急速に破滅へと向かっていた。
それは唐突に、誰に観測されることもなくしかし、確実に急速に広がっていった。
“世界の終焉”そう世界に一斉に放送されたその日。世界は未曾有の大混乱に陥った。
その時、一人のレポーターがその“終焉”の内容を世界に見せるべく、自身の命を顧みずに現場を独断で中継。
すべての人がその光景に息を飲んだ。アメリカ合衆国シアトルシティ、大都市として有名な筈のその都市はしかし、現在進行形で光の粒子となって消えていた。
『ご覧になっているでしょうか! 今世界は終焉の危機に立たされています。何時何処で、どうしてこのような現象が起こったのか。残念ながらそれは判明していません。しかし、唯一つ、この現象は世界各地で起きており、今も拡大しているという―――――――』
画面の位置が急に地面まで下がる。
グラグラとゆれた画面に映ったのは、光の粒子と成人男性が着用していたと思われるスーツ。そしてマイクだけであった……
やがて、それらも消え、画面に砂嵐が訪れる。恐らくカメラそのものが消滅してしまったのだろう。
これこそが現在世界を終焉へと導いている現象であった。対処法は不明。今もあらゆる機関が究明の為に調査に乗り出しているが、進展の度合いは無し。
ばかりか現場に近寄っただけで機材含め、人員の全てが“消滅”していく始末。
変えられない結末。確定した終焉。
その事実は世界の大混乱の後、緩やかに各人々の心の胸に落ち着いていった。
どうしてそんな現象が起きたのか? 原因は? 理由は? そんな事に意味はなかった。
今も着実に終焉に向かっていく世界で、そんな事は考えるだけ無駄であり、また意味のないことである。
リポーターの文字通り命をかけた放送により、世界のあらゆる人種、人民は各自思い思いの行動に出た。
家に引きこもり、唯只管に恐怖に怯える者。
犯罪に走る者。
家族と変わらぬ毎日を過ごす者。
何食わぬ顔で会社へと出勤する者。
同じく何食わぬ顔で会社を経営する者。
終末を前に享楽に耽るもの。
自殺する者。
恋人と共に過ごす者。
最後まで諦めずに原因を究明しようとする者。
道端に座り込む者。
様々な行動を人々は思い思いに取った。誰も止めない、止められない。
加速度的に進む現象、世界に残された時間は僅か――――――
「なぁ、人って死んだら何処に行くんだろうな」
とある日本の高層マンション、その屋根に二人の人物が背中合わせに座っていた。
その片割れが自身の背中に座る人物に対して、これから自分達に起こるであろう結末についての質問を投げかける。
「………私は馬鹿だからさ。人が死んだら何処に行くかとか、そんな難しいことは考えても分からないけど。私はもし生まれ変わりがあるなら、また人として生まれて、貴方に出会いたい」
すると、もう片方の人物が暫くの逡巡の後に男へと答えを返す。
「そっか。じゃあ、きっと見つけるよ。俺が生まれ変わったら、きっと見つけるから」
「……うん」
そう言って二人は無言となる。
互いの背中には確かに今、此処に存在しているのだと、そう感じさせる確かな温もりがあった。
両手は後ろに回され、きつく握り締められている。
それはまるで、お互い何処に行こうとも一緒だからね。と、そう伝え合っているようだ。
二人は昔から一緒であった。所謂幼馴染という奴で、高校生になるのと同時に離れ、大学生で偶然再び再開することとなる。
それから紆余曲折を経て、男と女は付き合うこととなった。
元から相性もよく、小さな頃には女が男のお嫁さんになる。と言う他愛無い約束事もした仲である。
付き合うようになった二人は、周りが冷やかすくらいにはらぶらぶであり、当人達も満更ではなかった。
それから一ヵ月後、二人の同棲先に例の放送が入る。
初日は何故自分たちは、いや、世界がそんなことにならなきゃいけないんだ! と二人して憤慨した。
二日目はただただ泣き叫んだ。
三日目は二人して何も喋らなかった。
四日目にはお腹の鳴る音で漸く我を取り戻した。
そして、五日目の今日。二人は最後の時は空に近いところで迎えよう、そう決めて屋上に上った。
そして現在。世界の殆どは光の粒子となり消滅し。今日中には全ての幕が引かれることだろう。
二人の目にも30階建てのビルから見える地平線から、光の欠片がじょじょに迫っているのが見えた。
二人はしかし、それを見ても動かない。
無駄だと理解しているのだ。逃げても変わらない。直ぐに追いつかれる。
「ねぇ……やっぱり、怖いよ! どうして? どうして死ななくちゃいけないの? こんな理不尽に、訳も分からず……どうして! ……どう…して……ひっく……っ…うっ……ぅ…」
迫る“死”を前に女が耐え切れなくなったのか、抑えていた感情を爆発させるが、やがてその声音には力が無くなっていき、嗚咽だけが漏れ聞こえるのみとなった。
男はそんな女の手を強く握る。
女も顔は俯いたままだが、強く両手を握り返す。
二人の手はどうしようもないほどに震えていた……
「ハハ……俺だって怖いさ。見ろよ? 手だってこんなに震えてるんだぜ? でもさ、見てみろよ、世界の終わりってこんなに綺麗なんだぜ」
そう言った男の声音には既に恐怖はなく、女はそれにつられて顔を表に上げる。
すると、視界には近くまで迫っていた光の奔流が映った。
周囲の建物の尽くがその輪郭を崩れさせ、光となって空に舞う。よく見ればその光は蝶のような形をしており、その光の波はまるで幾億幾兆もの蝶が羽ばたいているかのようであった。
二人は迫る死を前にその圧倒的に恐ろしく、そして同じくらい美しく幻想的な光景に魅入っていた。
もう間もなく、数十秒もせずに二人も光へと還るだろう、その時。
「なぁ、知っていたか?」
「え?」
「俺って、お前の事が世界で一番好きなんだぜ?」
「……ばか――――」
――――知ってるわよ。そう呟いた言葉は声にならず。
女の瞳から漏れた雫毎、二人は一瞬で光の蝶となり空に昇っていった……
「なぁなぁ! 君! ちょっと待って!」
「え?」
何時かの時代、何時かの国で、一人の男が横を通り過ぎた女性にハッとしたかのように声をかけた。
女性は驚いたように振り返り、同時に怪訝そうに男へと視線を向ける。
男はそれに構わずに女性の両手を握ると、正面から見つめ――――
「約束しただろ? 絶対見つけるって」
「……知ってたよ」
―――――女はその顔に満面の笑みを浮かべた。
end
後書き
現在執筆中の連載作品、昨日からの猛暑でモチベーションが超低下……
気分転換に書いてみました。
特に内容に意味はなく、思いついたのでぱっと書いてみたw
後悔はしない、が。反省はする。
モチベ低下の作者の為に何か感想送って下さると、感謝します^^;