007 自信過剰のクソ無敵悪魔
「ひとまず見た分はこれで全部かな」
それは凄惨極まる光景だった。
血だまりと死体で飾られた中に、彼は立っている。
殺戮を命じられたサイボーグは次々と現れる山賊を時に素手で、時に手斧で一人残らず絶命させた。
途中、動物を狩るべくコテージから離れていた数名が異常を察知して戻ってきたが、弓矢を手にしていた彼らも仲間たちと同じ運命を辿ることは避けられなかった。
「あとはコテージの中を改めて終わり……」
ソルドはドアが開きっぱなしになったコテージの中を軽く覗いてみる。
木造の部屋の中には外の血みどろが嘘のように、乱雑ながらも生活感のある静寂が横たわっている。
「リーダー格っぽいのがまだ見つかっていないんだよな。ウォルクの話じゃ、銀貨を上納させている頭領が居るって話だったが」
わざと声に出して言うことで隠れているかもしれない大親分の動揺を誘うも、反応は無し。
「……出てこないなら、見つけ出すまでだ」
返り血まみれのサイボーグはコテージが汚れるのを一切気にせずに中へ入った。
とりあえず一階を軽く見て回るが、多少荒れている以外に異常無し。荒れているのも、敵襲に対応したからなのか元から散らかっているのか判別がつかない。
「ギャアギャアギャア!」
「ん?」
いきなり動物の声がして、サイボーグは声のした内階段の方を向いた。
「二階か……」
ソルドは森の中だと動物の鳴き声などの余計な音は遮断していた。
それくらい普通に動物の声がする環境だが、今の声は確実にコテージの中だった。
「籠の中の鳥、ってやつかな」
元居た世界では滅多に見ることの無かった鳥にまつわる慣用句を呟きつつ、サイボーグは階段で二階へ。二階廊下の両脇で開け放たれたドアから部屋をひとつずつ覗いていくと、二段ベッドや倉庫などがあるだけで人の気配はしない。
念のため電子鼓膜の収音感度を高めてみるが、奥の部屋から聞こえる鳥の声のせいか、価値のある情報は手に入らない。
(こういう時、選択的ノイズキャンセリングと収音感度を両立できないのがもどかしいな……まあそんな芸当ができるのは軍用クラス。俺が手を出せる値段でも流通状況でもなかったワケだが)
こんな環境で運用できているだけありがたいと思考を切り替えつつ、ソルドは仕方なしに廊下の突き当りにある部屋……つまり鳥の声がする部屋へと向かった。
「ギョアアア! ヨイホウコク! ワルイホウコク!」
部屋のドアは半開きで、ゆっくりと押し開けて入ったサイボーグに向かって執務机の上に置かれた籠の中の鳥が鳴き喚く。
「ケジメ! ケジメ! セイサイ! セイサイ!」
「……声の主はお前か、カラフル鳥さんよ。人語を喋るとは驚いたな」
ソルドが鳥を電子義眼でスキャンしてみると、電子記憶にたまたま保存していた絶滅動物データベースが引っかかった。身体の色など細部が異なるが、オウムという名前の鳥の仲間のようだった。
「オウムね。よく聞く音を鳴き声として覚える、と。ただし、覚えた鳴き声を披露するのは仲間同士の……てことはっ!?」
この部屋でオウムが鳴き喚いていた意味を悟ったソルドは素早く後ろを振り返った。
そこに居たのは、最悪なことに、二人。
「そ、ソルド? 良かった、無事だったのね」
外に待機していたはずなのに、なぜか。
本当になぜかホッとした表情で佇んでいる没落令嬢ステラ。
その後ろ、ドアの陰に潜んでいた山賊の頭領は、既に逆手に持ったナイフを掲げている。
「ステラ避けろ!」
「えっ? うぐ」
ステラの胸に光を鈍く反射する刃が沈み込む。
山賊の頭領は分かっていた。
自分に送られた刺客らしきこの男からは逃れられないことを。
それでもギリギリまで隠れて逃げおおせる希望を追うつもりだったのに。
目の前に、獲物が現れてしまったから。
一矢報いる可能性の方が、逃げるより大きくなってしまったから。
「はははっ! ざまあみ」
ステラの背中から取り付いてナイフを突き立てた山賊の頭領は、ソルドが執務机の上に置いてあったのを投擲した拷問用とおぼしき短刀に眼球ごと脳を貫かれ、勝ち誇りながら絶命した。
「ごほごほっ!? い、痛い……!」
「傷を確認させろ」
ソルドは床に手をついて咳き込むステラの身を起こし、仰向けにして抱きかかえた。
そして彼女の胸元を、ナイフが突き立てられたまさにその場所を軽く触って貫通していないことを確認し、安堵の息を吐く。
「あの場所で待機していろと言ったはずだ。なぜここまで出てきた」
「だって……ご、ごめんなさい……あなたが、心配になって……」
冷静に問うサイボーグに対し、抱きかかえられた没落令嬢は痛みと恐怖に涙を流しながら応答する。
「コテージに入っていくのが見えたけれど、ずっと出てこないから……他の山賊はあっという間に倒してしまったけど、もし不意打ちされていたらどうしようって、思って……!」
「それであんたが不意打ちされてちゃ世話ないだろ……」
「ごめん、なさい」
ソルドは呆れを隠さず、再び長い息を吐いた。
だが同時に、静かに泣き続ける少女から目を逸らす。
「だが俺の不手際でもある。鳥なんぞに気を取られて安全確認を怠っていた。俺はあんたの護衛で、あんたのことは最優先で守るが、ちょっと義体化しているだけのただの人間だ。あんたには悪魔と契約をする覚悟があるんだから、せめて人間との約束くらいは守ってくれ。でないと、俺もあんたを守れない」
「……」
「……何だ、顔を凝視したりして。俺の話は理解できたか?」
「あっ、え、ええ! 分かった。ごめんなさい、これからは勝手な行動は慎むわ」
ステラは無自覚に放心状態になっていたのを誤魔化すため、涙を拭い、ソルドの身体を押しのけるようにして立ち上がった。
何か、胸元に痛みとは違う違和感がある。
恐怖とは別の理由で、鼓動が早まっている。
涙でのぼせたのとは違う意味で、ちょっと暑い気もする。
このまま考え続けているとあっという間に妙な結論が出てしまいそうだったので、ステラは急いで何か話題を考える。
「と、ところで。さっきわたくしは刺された気がするのだけど、どうして無事なのかしら。もしかしてあなたが何か悪魔の力で刃を止めたとか?」
ステラの感覚としては、刃が突き立てられた箇所はズキズキと痛むがそれだけだ。
胸元から覗き込んでみても、素肌が赤く擦り剝けているだけで刺されたというより殴られたような傷になっている。
そんな咄嗟の疑問に対し、ソルドは「簡単なことだ」とあっさりめの返答をした。
「あんたが着ているその服は元々俺の防刃スーツだ。絶対安全とはいかないが、切りつけられたり、突かれたりしても致命傷を負いにくい素材でできている」
「ぼ、防刃……鎧でなくても刃物を防げるものなのですね」
「この世界で言えばチェインメイルが近いか。ほら、兵士とかが着ている鎖で編んだ鎧だ。アレを軽量化したものだと思ってくれ。まあこの世界には無いだろうが、銃弾に対しても多少効果があるから安心しろ。あと雨くらいは弾くからあんまり濡れない」
「このお服、そんなに仕掛けのあるシロモノだったんですか。ただの着やすくて暖かいお服だとばかり思っていましたのに……」
もしかして、この男。
わたくしのこと、結構しっかり心配してくれていたんだ。
そ、それって。
なんて気の迷いが生じた数秒後、没落令嬢はあることに気づく。
「あれ? わたくしが着ているコレが刃物を通さないのは良いとして……じゃあ、あなたが今着ているその農民服にはどんな機能があるんです?」
「機能? 特別なものは何もないぞ、当たり前に。普通の農民服だ。斬られれば切れるし、突かれれば貫通する、普通の服だ」
「じゃ、じゃあさっきまで戦っていた山賊にもし不意打ちを受けていたら……」
「義体化していない部分に食らってたらヤバかったかもな」
「じゃあやっぱり心配するべきだったんじゃない! バカ! この、自信過剰の、クソ無敵悪魔!」
「それ、罵倒のつもりなのか……?」
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