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014 犬みたいなもの(まだ合法)

「あそこに見えるのがワシらが今から入る坑道の入り口だ」


 ソルドたちが銀山に到着した翌日早朝。

 ソルド、ステラ、ヴィーナを連れたトーガンは、岩肌に穿たれた大きな横穴を指差して言った。

 その入り口は木組みで強度を確保してあり、松明も設置されている。そして同様の穴はそれ以外に右奥、左奥の岩肌にも穿たれていて、周辺一帯を切り開いた広場丸ごとで採掘現場なのだと分かる。

 なお、今日は他のドワーフたちの作業は休憩となっている。流石に彼らがリアルタイムにツルハシを振るっている横をすり抜けて調査するわけにはいかないからである。


「あれは二回前の作業を始めるさらに前だから……二週間前だな。ドルエンは現場を見ると言って、真ん中の第一坑道へと消えたのだ」

「ちょっと待って。入る瞬間は見ていないのだったよな。幾つもある坑道のうち、どうして真ん中に入ったと分かる? 貴様、まさか……」

「ワシは嘘などついてはおらんよ。第二、第三坑道はまだ深くまで掘っておらんのでな。奥までキッチリ確認済みというだけさ。ホレ、お前さんらはこれを被りな」


 トーガンはソルドに向けて二つの物体を投げた。

 キャッチしてみると、それは金属板を頭のサイズに加工して編み藁のあごひもを通した簡易ヘルメット。ソルドはそれをステラに被せ、あごひもを結んでやった。

 そして彼自身も「あごのところがチクチクしますわね」などと文句を言う没落令嬢を「あんたの身のためだ。文句を言うな」とたしなめつつ、簡易ヘルメットを装着した。

 なお、女騎士ヴィーナは元から(ヘルム)があるのでそれを被っている。


「あの、入る前に質問をひとついいかしら」

「なんだお嬢ちゃん。言っておくが、不満は受け付けんぞ。そもそもの話どーしてもソルドと離れたくないと言うから連れてきただけで、お前さんを坑道に入れるのには正直反対なんだ。そんな兜もどきのひとつで安全を買えるとも思えんしな。だがドルエンがそいつをつけていなければ坑道に入れないというルールをーーー」

「違います! この頭防具に文句があるのではなく、もっと気になるものについて聞きたいのです!」

「ああ、すまないが坑道内に(かわや)はねえぞ。入り口まで戻るか、その辺で野」

「だから! わたくしのお話を聞いてくださるかしら! ク……お排泄物の話よりもそこの檻の中身の方がよっぽど気になるでしょう!? ソルド! あなたもそう思うわよね!? ちょっとアレを見てごらんなさいよ!」

「あ、ああ」


 怒り心頭のステラに気圧され、ソルドはその指差す先に視線をやった。


 ツルハシなど、採掘道具を置いた物置小屋のそばに積み上げられた大型犬用の檻。

 なぜ採掘現場に犬の檻があるのか、ソルドも確かに気になってはいたが、トーガンの話を優先してその中身までは確かめていなかった。


(……なるほど)


 そして没落令嬢に言われるがままに確かめたサイボーグは、すぐに彼女の言い分が正しいと悟った。


 彼の電子義眼の分析結果が視界にオーバーレイされる。

 生物で、おそらく爬虫類で、頭から背にかけてモヒカンのようなふさふさのたてがみがあり、大型犬ほどの大きさがあるが、種は同定できず。


 とまあ、分析結果は要領を得ない。

 だが、それはまさしく一目瞭然であった。


「竜を飼っているのか。確か、この辺りに出没する竜は危険なんだよな?」

「ええそうよ。理由が気になるでしょう?」

「まあな」

「ほらね、わたくしだけではなかったわ。トーガンさん、隠さずに教えなさいよ」

「別に隠すつもりは無かったんだが……」


 得意げな没落令嬢に迫られたトーガンは困り顔で髭を撫で、少し言いよどんでから、言う。


「そいつは、いわば採掘道具なんだ。ドルエンが用意した」

「竜が、道具……? 何に使うのか知らないけど、竜を飼うなんて危険すぎるわ!」

「それは……」

「分かった!」


 話を横で聞いていたヴィーナが手をポン、と叩いて叫んだ。


「貴様ら、さては竜に銀の鉱脈を探させて掘っていたな?」

「その通り。だから竜はワシらの銀堀り道具みたいなもんだ」

「ど、どういうことなのヴィーナさん」

「竜が銀を好むのは知っているだろ? だから下等竜(レッサードラゴン)を飼いならして、どこを掘れば銀が出るのか教えてもらうんだよ。まさしく犬みたいなもんだ」

「それって、でも、良いの……?」

「んー? まあ採掘に竜を用いてはいけないという法律は無いからなぁ……まだ、ね」


 ヴィーナは意味ありげな笑みを浮かべ、気まずそうにしているトーガンの周囲をゆっくりと歩く。


「銀採掘にドワーフと飼いならした竜を使う、ってのがドルエンの新採掘法の正体ってわけか……こりゃー、お姉さんはがぜん興味が湧いてきたなぁ。彼にはぜひとも会わないとねえ」

「な、なんだ。ワシはドルエンの言うようにやっとるだけだぞ。人間の法律なんか知らんし」

「ふぅん?」

「ヴィーナ、駆け引きごっこはやめろ。このままでは日が暮れるぞ」


 ソルドは明らかに真面目なドワーフのおっさんをイジメるのを楽しんでいるヴィーナを制止した。


「で、トーガン。この竜を採掘に使うんならさっさと檻から出そう。あんただって、部下たちをいつまでも休憩させておくわけにはいかないだろ」

「もちろんだ。すぐに用意しよう」

「首輪か何かを着けてリードを持つのか? 犬みたいに」

「そうだ。待ってろ、気を引く用の銀をだな……」


 ヴィーナのダル絡みから解放されたトーガンはどこか嬉しそうに銀の破片を取り出すと、慣れた手つきで檻をひとつずつ開けて中の下等竜に首輪とリード代わりの鉄鎖を取り付けていく。

 首輪がついた下等竜は合計三匹。

 トーガンはそれらに繋がる鎖をまとめて手に持っていたが、ソルドに「ほれ」と差し出してきた。


「お前さんが持っておけ。こいつらは滅多なことでは暴れないが力は強い。お前さんほどの力があれば大丈夫だろうが、万が一のことがあるから気を付けろ」

「分かった」


 ソルドが鎖を受け取ると、大人しくしていた下等竜たちが一斉に彼を見た。

 二本の後ろ足で立ち、前足は翼が退化したもの。電子記憶を参照するに、ラプトル系の小型肉食恐竜や、始祖鳥の復元図に近い印象を受ける見た目だ。

 そんな下等竜たちはソルドに近づいて少し様子を見たかと思えば、その手や足に噛みつく……寸前に、彼の視線から何か殺気のようなものを感じ取ったのか、ゆっくりと口を閉じて再び大人しくなった。


(これが噂に聞く、犬の散歩ってやつか……)


 ソルドが彼の世界で滅んで久しい文化に想いを馳せていると、トーガンが「おおー」と感嘆の声を上げた。


「お前さんはナメられんかったようだな。流石だ」

「このあとはどうしたら?」

「ワシが先導するから、お前さんはその後ろをついてくるだけでいい。竜共はケツでも蹴っ飛ばしてやれば自然と歩き出す」

「竜には案内をさせないのか?」

「そいつらの出番は坑道の奥まで行ってからだ。それじゃ出発するぞ」


 身の丈ほどの巨大なツルハシを持って歩き出したトーガンは、少し歩いてから振り向いて言う。


「お嬢さん方、竜にかじられたくなければ竜の前は歩くなよ。こいつら銀を好むと言ったって、柔らかい尻が目の前にあったら食っちまうかもしれん」

「わ、分かったわ……」


 ふーん、と適当に聞き流しているヴィーナとは対照的にビビッて頷くステラに、トーガンはにや、と静かに笑った。

 一方ソルドは彼がステラをからかっているのだろうとは気づきつつも、あえて指摘はしない。


「ソルド……その竜たち、ちゃんと見ててよね」

「了解」


 今そうしているように、ビビッて彼の後ろに隠れているくらいの方が没落令嬢にとって安全なのだ。

犬の散歩

犬を飼育する者の特権的なふるまい。飼育している犬を連れ歩いて適度に運動させるのと同時に、地域コミュニティとの交流を図る目的で行われる。と、ソルドは理解しているが、彼が生まれた頃にはもう犬が絶滅していたために懐古映画等で描かれているのを見たことがあるのみである。


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読んでいただきありがとうございます!

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