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第3話 何者でもない僕と伝説の祈戦士


知らない天井を見ている、と思った。


白い天井。蛍光灯は消えていて、代わりに天井の隅で小さな常夜灯だけがぼんやりと光っている。光は弱いのに、目に刺さるみたいに眩しかった。


まばたきをすると、まつげの影がゆっくり動くのが見えた。


──生きてる。


胸のあたりが、じんじんと痛い。

息を吸うたびに、内側から焼かれているみたいな熱さが広がる。

肺じゃなくて、もっと奥。心臓の少し上あたりに、何か硬いものが埋まっているような違和感があった。


「っ……」


声を出そうとして、喉がうまく動かない。

乾いている。頭の中も、どこか遠くに置き忘れてきたみたいにぼんやりしていた。


最後に覚えているのは、怪物から飛び散った黒い破片が胸に飛び込んできた感覚だ。

怪物の体から砕け散った破片が、黒い雨になって降ってきて、その中のひとつだけが、まっすぐこっちに向かってきた。


逃げられなかった。

逃げようともしなかった。

そのことだけが、妙にはっきりしている。


あのあと、どうなったんだっけ。

世界が揺れて、耳鳴りがして、視界がぼやけて──そこから先は、全部黒い。


代わりに、胸の奥にはまだ、あの子守歌みたいな音の残りがこびりついていた。

あの化け物が踏みつぶしていた街の上を、風に乗って流れていた歌。

こんな状況で、誰が歌なんて、とあのときは思ったのに。

今は、さっきよりもはっきりと旋律を覚えている気がする。


「気がついたかい?」


横から柔らかい声が聞こえた。


首だけをゆっくりそちらに向ける。

枕に貼りついていた後頭部が、ぺりっと剥がれる感覚がした。


そこには、着物姿の年配の女性が座っていた。

白っぽい割烹着みたいなものを羽織っていて、膝の上にはカルテらしき板が載っている。

髪はきれいにまとめられていて、ところどころに白いものが混じっていた。


「……ここは」


自分の声が、自分のものじゃないみたいにかすれていた。

喉の奥がひりついて、言葉の形になる前に崩れそうになる。


「ここはねまぁ、祈戦士たちの拠点みたいなところさ」


女性は、僕の顔を覗き込んで、にこりと笑った。

笑いジワが目尻にたくさん寄る。その皺の感じだけで、少しだけ安心してしまう。


「昨日は、運がよかったんだよ」


昨日ということは、一日近く意識を失っていたらしい。

運がよかった。

それはつまり、運が悪ければ、今ごろ僕はここにいなかった、ということだ。


「……ゆうべ、の……」


言いかけて、喉がまたひっかかる。

代わりに胸の奥がきゅっと縮んだ。

信号を渡ろうとしていた交差点。見えない何かに殴られて宙に浮いた車。ねじれていくビル。アスファルトにじわりと広がっていった黒い染み。

その向こうで、空を覆うほどの大きさで街を踏み潰していた、名前も知らない怪物。


「覚えてる範囲で、いいよ」


女性は、僕が言葉を探しているあいだ、急かさずに待ってくれていた。

それが逆に、記憶を引きずり出してくる。


「道を、歩いてて……。信号、渡ろうとして……そしたら、空気が、急に、おかしくなって……」


一つひとつ、言葉にするたびに、頭の中で映像が鮮明になっていく。

本当は、思い出したくない。

でも、忘れたふりをするには、あまりにも現実離れしすぎていた。


「怪物が……街を、潰してて……。車とか、ビルとか、人とか……全部、ぐちゃぐちゃで」


「うん」


女性は相槌を打ちながら、視線だけで僕の様子を追っていた。

医者、というより、近所のおばあちゃんに見えるのに、その目の奥はどこかプロのそれだった。


「ニュースで、似たようなの、見たことがあって……。変な映像だけ流れて、“原因不明の現象です”とか、そんなテロップが出てて」


でも、昨日のそれは、そんなテレビの中の怪談より、ずっと怖かった。

空気が歪むような圧力。

耳鳴り。

怪物から飛び散った黒い破片が、胸を貫いた。


「ダークメンシェ」


女性が、代わりにその名前を口にした。


「……ダーク、メンシェ?」


聞いたことのない単語だった。ニュースでも、ネットでも、聞かない名前だ。


「そう、あのあんたがみたとてつもない怪物のことだね」


部屋の空気が、少しだけ重くなった気がした。

さっきまで布団の中にこもっていた自分の体温とは違う、別の温度。


「そして、勇気くん。あんたはね...ダークメンシェに巻き込まれたのさ、あんたは。正確には、その暴走の“ど真ん中”にいた、って言うべきかねぇ」


「ど、まんなか……」


言われてみれば、そうだ。

あのとき、僕は横断歩道の真ん中で立ち尽くしていた。

周りの大人たちは逃げていたのに、僕だけが動けなかった。


──そういうところだぞ、と頭のどこかで冷めた自分が呟く。

逃げることすら、ちゃんとできない。

そのくせ、「仕方なかった」とか「誰も責めない」とか、言い訳だけはすぐに思いつく。


自分でも、その矛盾が分かっている。でも、認めるのが怖いから、いつもこうやって自分を正当化しようとする。


「運が悪ければ、あそこで死んでたよ」


女性は、さらりと言った。

責めるようでも、脅かすようでもない口調で。ただの事実みたいに。


「……」


喉が、さっきとは別の意味でつまる。

死んでいたかもしれない。

それは、何度もニュースで聞いてきたフレーズだ。事故の被害者。災害の犠牲者。どこか知らない街の数字。


でも今、その言葉の主語が、自分だ。


「昨日みたいな大きな暴走はね、そうそう起きないんだよ」


「十五年くらい前から、“マザー”って呼ばれてるタイプに近いねぇ」


「……マザー」


聞き慣れない単語だった。


「“マザー”はね、町ひとつ分ぐらい平気で壊してしまう、伝説級のダークメンシェさ」


女性は、ゆっくりと言葉を選ぶみたいに続ける。


「十五年前に現れた時に、完全には仕留めきれなくてねぇ……ときどき、どこかに顔を出すんだよ。そのたびに、こうやって誰かが巻き込まれる」


町ひとつ分。

テレビの映像の向こうで、瓦礫だらけになっていた街並みが、頭の中で重なる。

その中のひとつに、自分の住んでいる町も含まれているかもしれない、なんて考えたことはなかった。


「き、昨日の、あれも……その、“マザー”ってやつだったんですか」


自分でも、少し震えた声になっているのが分かった。


「まだ確定じゃないけどね」


女性は肩をすくめる。


「あたしたちの間でも、“マザー級”か、その“親戚”かって話になってる。どっちにしても、普通じゃない大きささ。あの子──関野美桜ちゃんが、よく押しとどめてくれたよ」


美桜、という名前を聞いた瞬間、胸の奥の焼けるような痛みが、少し形を変えた。

音楽室。頬の痛み。

「あんたの“すごいね”なんか、いらない」という声。


あの交差点で、吹き飛んできた車や怪物から飛び散った黒い破片を、最初に弾き飛ばしてくれたのも、たぶん彼女だ。

空中を走った細い光が、車の残骸の進路をそらしていった光景を、まだはっきり覚えている。

テレビの中の「どこかの誰か」が、急に目の前に現れたみたいだった。


「……僕、ただ歩いてただけなんです」


気づいたら、そんな言葉がこぼれていた。


「学校から、帰ってただけで。スコアの通知とか、どうでもいいとか思いながら……。なんで、あんなのに」


「“なんで自分が”、かい?」


女性は、少しだけ首をかしげた。


「そう思うのは、当然さ。あたしだって、最初はそうだったからねぇ」


「最初……?」


「話すと長くなるよ」


そこで、別の声が割り込んできた。


落ち着いた低めの女の声。

そちらを見ると、ドアの近くにスーツ姿の女性が立っていた。


紺色のスーツ。タイトスカート。胸元には見慣れない紋章みたいなピンがついている。

髪はひとつに結ばれていて、目つきは鋭いけれど、どこか眠そうにも見えた。


「花江さん、その子、起きたばかりなんだから。あんまり一気に話すと、頭がパンクするわ」


「あら、奈津紀ちゃん。そうだねぇ」


花江と呼ばれた女性が、肩をすくめて笑う。

さっきから僕のそばにいるのが花江さんで、ドアのところにいるのが奈津紀ちゃんという人らしい。


「今日は、とりあえず“ここが安全な場所”ってだけ分かってもらえばいいわ」


その女性は、こちらに歩いてきながら言った。

ヒールの音が、畳の廊下からこの部屋の床に変わるとき、一瞬だけ柔らかくなる。


「ここは、祈戦士たちの拠点。表向きには、ちょっと大きめの神社と福祉施設、ってことになってる場所よ」


「……祈戦士」


その言葉を聞くだけで、また胸の奥がざわついた。

音楽室で、僕が軽々しく口にした名前。

「祈戦士なんだよね。すごいよね」と笑って、殴られたあの瞬間。


「ニュースでも教科書でも出てこない名前を、“ネットの隅で見たから知ってます”って顔で言われるのが、一番むかつくの」


美桜の声が、耳の奥で蘇る。

あのときは、ただ殴られただけだと思っていた。

でも今は少しだけ、あの怒りの理由が分かる気がする。


「名前は?」


花江さんが、改めて尋ねてきた。


「え……」


一瞬、自分の名前がうまく出てこなかった。

頭の中に、いろんな言葉が渋滞している。


「東郷……勇気、です」


なんとか声にすると、花江さんの目が丸くなった。


「東郷……勇気くん。やっぱり、千穂ちゃんの息子さんだねぇ」


千穂。

その名前を聞いた瞬間、胸の奥の焼けるような痛みとは別の場所が、ひゅっと冷たくなった。


「……母のこと、知ってるんですか」


自分でも驚くくらい、食い気味に聞いていた。

さっきまで言葉を選ぶのにもたついていたくせに、その質問だけはするっと出てきた。


頭のどこかで、「今さら母のことを知っても仕方がない」と冷めた自分が呟く。でも、それでも聞きたかった。


「もちろんさ」


花江さんは、懐かしそうに目を細める。


「ここで祈戦士をしてたんだよ、千穂ちゃんは。あんたくらいの年の頃からねぇ。働きぶりが伝説みたいに語り継がれてるくらいには、頑張り屋さんだった」


伝説。

さっき聞いた「伝説級のダークメンシェ」と、同じ言葉。


「マザー」とは別の意味で、「伝説」って呼ばれている人がいた。

その人が、自分の母親。


でも、僕の頭の中にある母の記憶は、そんな大それたものじゃない。

夕飯の匂い。

柔らかい手。

膝枕で見上げた、逆光の笑顔。


「小さい頃に……いなくなって」


言葉を選ぶうちに、声が小さくなっていく。


「それからは……あまり、よく覚えてないです」


本当は、覚えている。

覚えているからこそ、こうやって曖昧に濁したくなる。

あの晩、母が突然帰ってこなくなった夜のこと。

「世界を救うために」とか「英雄」とか、どこか他人事みたいな大人たちの言葉だけが耳に残っているのに、家の中は妙に静かだった。


優しさのせいで死んだ人。

自分を置いて勝手にいなくなった人。



頭のどこかで、「今さら母のことを知っても仕方がない」と冷めた自分が繰り返す。でも、心の奥底では、その記憶と向き合うことから逃げている自分がいる。夕飯の匂い。柔らかい手。膝枕で見上げた、逆光の笑顔。それだけが、僕の頭の中にある母の記憶だ。


「……そうかい」


花江さんは、それ以上は聞かなかった。

ただ、ほんの少しだけ寂しそうに笑って、それから表情を切り替える。


「でもね、勇気くん。あんたには、千穂ちゃんと同じ“聞こえてしまう耳”と“見えてしまう目”がある。祈戦士に必要な素質さ」


「……え?」


「昨日、君はダークメンシェのすぐそばにいた。それで、あの子も、君も生きている。それはね、ただの偶然じゃないんだよ」


ただの偶然じゃない、と言われても、どう受け止めていいのか分からなかった。

自分が生き残った理由なんて、運がよかったとか、たまたま誰かが助けてくれたとか、そういうものに押しつけておきたかった。

それ以上の意味をそこに見ようとした瞬間、母と同じ場所に引きずり出される気がして、嫌だった。


そして、花江さんは真剣な顔で

僕をみた。

「ここで、他の子たちみたいに祈戦士の候補として訓練を受けてみないかい? 今すぐ返事をしろとは言わないけどねぇ」


聞こえてしまう耳。見えてしまう目。

さっきから胸の奥にこびりついている歌の残りと、交差点で見た鎖の巨人の影が、一瞬で頭の中で繋がる。


あれは、ただの夢でも、見間違いでもなかったのかもしれない。

地面から立ち上がったあの影。

鎖でぐるぐるに縛られた巨人。

ダークメンシェの横腹を殴ろうとして、鎖に引き戻された腕。


「……いや、でも」


口が勝手に否定の言葉を探し始める。


「僕、そういう“すごい人”とは違うんで。なんか、その……祈戦士とか、むりですよ」


でも、と喉元まで出かかった言葉を、なんとか飲み込む。

もし本当に、自分にも適性があって何者かになれるのだとしたら。

もし、ただの傍観者じゃなくなれるとしたら。


──あの「マザー」とかいうやつを、いつか殴り飛ばしてやれたら。


そんな考えが、ほんの一瞬だけ、胸のどこかをかすめた。

すぐに、別の自分がそれを踏みつぶす。


何を考えてるだよ。

さっきまで、逃げることすらできなかったくせに。

人を救う仕事なんて、僕みたいなのがやっていいはずがない。


「適性の話は、あとでもいいわ」


奈津紀が、そこで口を挟んだ。


「今日は、とりあえず休んで。体の方が先」


そう言いながらも、その目はじっとこちらを観察している。

医者の目とも、教師の目とも違う。

何かの“資質”を測っているような視線。


「ただ一つだけ」


奈津紀は、ベッドサイドの手すりに軽く指をかけた。


「今日見たことは、他の人には言わないでね。学校の友達にも、先生にも。ニュースのコメント欄にも」


「……言ったところで、誰も信じないと思いますけど」


思わず、本音が漏れる。


「車が空を飛んで、ビルがねじれて、怪物が街を踏み潰して……なんて。そんな話、変な動画と一緒に笑われるだけです」


「そうね」


奈津紀は、あっさりと頷いた。


「でも、“信じてもらえないから言う”人もいるのよ。“すごいね”って言ってもらいたくて」


胸の奥が、また別の意味でちくりとした。

音楽室。

掃除当番の紙。

「すごいよね」って、軽々しく口にした自分。


「……言いませんよ」


少し間を置いてから、ようやくそう答えた。


「こんなの、誰かに自慢するようなことじゃないし」


「それでいいわ」


奈津紀は、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「君がここで何を見て、何を選ぶかは、また今度ゆっくり話しましょう。今日は、ただ“生きてここにいる”ってことだけで十分」


生きてここにいる。

さっき自分で思ったことを、他人の口から言われると、急に現実味を帯びる。


「歩けそうかい?」


花江さんが、布団の端をそっとめくった。

制服ではなく、薄いパジャマに着替えさせられている。

足を動かそうとして、ふくらはぎあたりに重い感覚が走った。打撲のせいか、筋肉痛みたいな痛みがある。


「……たぶん大丈夫です」


ゆっくりと上体を起こす。

胸の奥がずきんと抗議するように痛んだが、それでもさっきよりはマシだった。


ベッドの脇に足を下ろす。

奈津紀が、ドアを開ける。

その向こうには、細長い廊下が伸びていた。


片側は障子と木の柱。

もう片側は、磨かれた板張りの壁に古い写真や掛け軸が等間隔に掛けられている。

どこかの山奥の旅館みたいでもあり、神社の社務所みたいでもある。


「ここが、祈戦士たちの“本拠地”。表の世界と、こっちの世界のあいだみたいな場所よ」


奈津紀の言葉に合わせて、廊下の向こうから笑い声や話し声が微かに聞こえた。

普通の高校生くらいの年の子たちの声。その中に、美桜もいるのかもしれない。


今は、そこまで確かめに行く勇気もなかった。

逃げることすらちゃんとできなかった。


「無理はしなくていいさ」


花江さんが、背中を軽く支えてくれる。


「今日は部屋に戻って、ゆっくり眠りな。痛み止めも出しておくからね。胸の方は、しばらく違和感が残るだろうけど……それも、あんたが“生きてる”証拠さ」


生きてる証拠。

焼けるような痛みが、急に別の意味を持った気がした。

それでも心のどこかでは、「優しさなんて持たなくていい」と繰り返している。誰かを救うためのものなんかじゃなくていい、と。


なのに胸の奥のどこかで、怪物から飛び散った破片が刺さっている場所に、小さな塊がうずくまっているような感覚があった。それが、小さく身じろぎした気がした。

あの子守歌の続きを、ぼんやりと待っているみたいに。


廊下に一歩、二歩と足を出す。行灯の丸い光が床に島を作り、その上を渡っていく。


「祈戦士って、その……さっき言ってた“ああいう怪異のときに戦う人ってことですよね」


部屋に戻れと言われたばかりなのに、口だけが勝手に動いた。


「戦う、って言えばそうだけどねぇ」


花江さんが、少し考えるように首をかしげる。


「ただ怪物を殴り倒すだけ、ってわけでもないんだけどね。……ま、そのへんは追々でいいさ。今は“そういう仕事をしてる人たちがいる”って知ってくれれば十分だよ」


はぐらかされた、というより、意図的に話を切られた感じがした。

詳しく聞こうとすれば、母と同じ場所に足を踏み入れることになりそうで、それ以上踏み込むのが少し怖かった。


「……母さんも、ここで」


気づけば、口をついて出ていた。


「いろんなことを、いっぱい……抱えてたんですよね」


「そうだねぇ」


花江さんは、否定も誇張もしない声でうなずく。


「千穂ちゃんは、優しすぎるくらい優しい子だったからね。だからこそ伝説にもなったし、そのぶん、誰よりも重いものを抱えることになった」


優しさが世界を支えてる、なんて綺麗事を信じるほど、自分は素直じゃない。

大人たちが口にした「英雄」という二文字も、今でもどこか空々しく見える。

今さら母のことを知っても仕方がない。


母は誰かを救うという優しさのために、死んだ。

そして自分を置いていなくなった。


それが事実だ。


それでも、胸の奥で丸くなっている何かは、さっきより少しだけ輪郭を持ち始めていた。

母が見ていた景色。関野美桜が見ているはずの景色。その端っこくらいは、いつか覗いてみたいと思ってしまった自分がいることを、認めたくなくて目をそらす。


──僕は、何者でもない。

祈戦士でも、英雄の息子でもない。

ただ、運がよくて生き残っただけの、何もない高校生だ。

こんな場所には、もう二度と来ない。来ないで済むはずだ


そして明日には変わらぬ日常が待っているんだ。


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