第13話 祈戦士の正体①
遠くで、機械音のようなものが鳴っている。
僕は、その音に引きずられるように、目を覚ました。
体中が重い。
白い天井。
簡素なカーテン。
腕には、点滴の針が刺さっている。
──ここは、どこだ。
頭の中で、そう思った。
でも、すぐに思い出した。
ダークメンシェ。
電車の中の男。
彼女の悲鳴。
スタンガン。
さっきまでの出来事が、フラッシュバックのようによみがえる。
全部、夢だったらよかった...。
でも、窓から入る夜風の匂いが、あまりにもリアルだった。
現実だ。
全部、現実だった。
──夢ではなかった。
ベッドから起き上がる。
体が、ふらつく。
でも、動けないわけじゃない。
廊下に出ると、ソファに座っていた奈津紀さんが、こちらを見た。
彼女の前には、紙コップの空きカップがいくつか積まれている。
徹夜明けの、疲れた顔。
「あ、目が覚めた?どう、体調は?」
いつもの、わざとらしい明るさ。
その軽さに、イラッとした。
──なんで、あんなことをしたのに、こんなに軽いんだ。
頭の中で、そう思った。
でも、その言葉は、口に出さなかった。
「最悪です」
「そう。でも、動けるなら、ちょっと付き合って。話さなきゃいけないことがある」
──なんで、あんなことをしたんだ。
──なんで、止めさせたんだ。
──なんで、スタンガンで気絶させたんだ。
頭の中で、奈津紀さんに問いかける。
でも、その問いかけは、口に出さない。
どうせ、何も変わらない。
怒りが、静かに、胸の奥で燃えている。
でも、その怒りを、口に出すことはできない。
奈津紀さんが、僕の顔を見て、少しだけ肩をすくめた。
「ちゃんと話せって顔しているね。まぁ、それはそうよね」
その言葉に、少しだけ、後ろめたさがにじんでいた。
──話さなきゃいけないことがある。
頭の中で、その言葉が、ぐるぐる回っている。
もちろん、僕にも、聞きたいことがあった。
「関野さんは……?」
「今は休ませてる。心配しすぎないの」
その言葉が、冷たく聞こえた。
でも、それは、僕の怒りかもしれない。
奈津紀さんは、屋上への階段へと歩き出した。
頭のどこかで、「どうせ、大人は全部、そういうものだ」と冷めた自分が呟く。
諦めが、さらに深くなっていく。
僕は、奈津紀さんの後を追った。
階段を、ゆっくりと上っていく。
体が、まだ重い。




