⑥ 帰還
「カグヤ!」
それを、庭先の牛車の中から見た帝は、勿体ない事に、御簾を上げてお顔をお出しになり、直接お声をかけられました。
カグヤは帝を見ると、ニッコリと微笑み、こう言いました。
「かつては天上人だったという、この国の王よ、いよいよお別れの時が来ました。」
「行くな。カグヤ…。」
「コレは、私の一族の定めなのです。どうかお許しください。」
「…そこを曲げて、頼む。」
「私程の器量の女子は、星の数程おります故…。」
「お前でなければ、駄目なのだ!」
「勿体ないお言葉、ありがとうございます。では、せめて去って行く私の姿を、その目に焼き付けて頂けたら、幸いです。」
カグヤはそう言うと、目に見えないチカラを使って、フワリとその身体を空中に浮かしました。
そしてそのまま、出迎えの三名の方に近づきながら、重ねて着ていた衣を一枚一枚脱いで、ゆっくりと地上に落として行きました。
気がつくとカグヤは、すっかり一糸纏わぬ露わな姿になっていました。その透き通るような白い肌は美しく…何より、背中に生えた小さな白い翼が、神々しく見えました。
「カグヤ!」
帝は今一度、声をかけられました。
カグヤは、輝く素肌を隠すことも無く振り向き、その場で最後に、こんな歌を帝に送りました。
「今はとて 天の羽衣着るをりぞ 君をあはれと 思ひいでぬる」
(今 最後の時 天の羽衣を着る時に 貴方の事を
しみじみと 思い出しております)
そしてカグヤの身体は、更に輝きを増して行き、最後にはもう、直視することが叶わない程眩しくなりました。
皆がふと気づくと、いつの間にか輝きは消えており、カグヤは迎えの者たちと同じ銀色の衣服をその身に纏っていたのです。
そして彼女は今まさに、不思議な銀色の、冠のような、或いは御釜のようなものを、頭に被るところでした。
その御釜の前の部分は、透明な硝子のようになっていました。暫くすると、迎えの者によってソレは取り外され、再びカグヤの顔が見えるようになりました。
しかし彼女の眼の色は、すっかり別人のようでした。彼女は皆に向かって、こう挨拶しました。
「地上の者どもよ。今まで大変世話になった。ありがとう。感謝する。」
それだけ言い残すと、カグヤは迎えの者と一緒に、飛行物体の丸い穴の中に消えて行きました。
丸い穴は音も無く閉じられ、不思議な飛行物体は、ゆっくりと垂直に上昇して行き、上空のある一定の高さまで上がると、空の上で、フッと消えてしまいました。
それはまるで、月に向かって一直線に飛んで行ったように、残された者たちには見えました。
帝を始めとする、その場に居た大勢の者たちは、すっかり途方に暮れて、空を見つめるばかりなのでした。




