⑤ 降臨
その夜、満月の方向から、見慣れない飛行物体がやっ来ました。それはまるで、大きなソロバンの珠のようでした。
アレこそ、カグヤを連れ去りに来た者に違いない。
そう考えた帝の兵たちは、一斉に矢を射掛けました。しかし、それらは全く歯が立ちませんでした。
その飛行物体は、次第にカグヤ邸に近づいて来て、最後には、カグヤ邸の敷地を、すっかり覆ってしまうほどの大きさになりました。そして、屋根の直上の空中で、音も無く制止したのです。
屋根の上で待ち構えていた兵たちは全て、目に見えない謎のチカラで、そこからすっかり退けれてしまいました。そして不思議なことに、誰一人怪我すること無く、兵たちはゆっくりと、地面に降ろされたのでした。
それは帝にとって、なかなかにショッキングな出来事でした。彼は生物としての、格の違いを見せられた気がしました。
帝自身、先祖は天上人と言い伝えられており、普段は披露することも無いけれど、実はそういった神通力も、少なからず持っていたのでした。
しかしコレは、レベルが数段違う。あれだけの人数の兵を、独りも傷つけることなく、丁寧に扱うなど、まさに神の所業だ。帝はそう思いました。
無謀にも、まだ抵抗しようとする兵の姿も見えたため、帝自らが、「撃ち方、止めい!」と声をかけられました。
そんな帝の頭の中に、突然どこからか、こんな声が響きました。
「賢明なご判断、感謝致します。我々はカグヤを迎えに参った者です。できればこのまま、事の成り行きを、静かに見守って頂けると助かります。」
その不思議な声は、帝以外の周りの者にも、聞こえたようでした。そのせいか、皆一斉にキョロキョロと、辺りを見回していたのでした。
次に、飛行物体の真ん中に、音も無く丸い穴が開きました。そして中から、背中に白い翼を生やした、光輝く銀色の着衣の三名の女性が、ゆっくりと降りてきました。
その人々は、屋根と飛行物体の、丁度真ん中辺りの空中に、留まりました。
するとまた皆の頭の中に、こんな声が響きました。
「我々は、今からカグヤを連れ出します。どちら様も、我々の行動を妨げることの無きよう、重ねてお願い致します。」
ソレは、三名の人物からのメッセージのようでしたが、彼女等は誰一人、唇を動かした様子がありませんでした。
次の瞬間、カグヤの自室の障子が、誰の手も借りずに開け放たれ、カグヤ本人が、庭に向かう縁側に現れたのです。




