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6.G0299/メインドック/船内

久々の投稿です

ちょっと長めですが、シレンティウムの義理の姉と融合過程にある夫のノワールがマンティコアから

出張ってきていました。8軍介入前のちょっとした時間稼ぎと情報伝達のために。

ニュートの本体は、ポッドの中で覚醒前のまどろみの中にいた。


シッダースの魂、ゴーストと呼ぶにはその量子的揺らぎが大きすぎ、その特定には多大な労力を消費することになった。その、ガーディアン由来とも思われる魂は正確には、認知世界のゴーストのような自他境界の峻別にまったく無頓着で、まさに巨大な混沌たる魂獏からなる雲海のような量子的揺らぎの部分的な共鳴点の様に見えた。ニュートの核力生命由来の膨大な演算力をもってしても、この魂に同期する生体暗号の開始点を特定し、現在の時空間に鍵を固定するには至らず、時間的には100周期程の生成同期が期待できる処理に留まった。


なんとか、シッダースの魂を特定し、ゴーストとしての体裁を整えながら、ふと先ほどから感じているにぎやかではあるが、一種の寂寥感の漂う時間の存在しない世界をのぞきながら、なぜシッダースが聖達に尊ばれた存在だったのかに思い至った。

(ああ、あれが太極とよばれるものだったのか...)


やがて、ニュートは覚醒したが、ポッドの中の視界が漆黒にあることに僅かに狼狽し、

船の環境視界にアクセスしようとした。

(ん?コードイエロー?G0299がこの船を拘束したのか?)


(ニュート、20秒ほど前に臨検使が乗船しています。)

相変わらずのトライアスの冷静な口調に反してニュートの疑問は増すばかりだった。


(なんだって? どこの権限下の臨検使が...)

スカウト・クアザール名義、つまりマンティコアの船に実体臨検が入るなど命知らずな官僚(シビリアン)がこの軍管区域にいるとは思えなかった。


トライアスはその疑問には答えず、船の環境視界にバイパスを設けニュートのポッドへ接続した。


(...姉さん?)


(はい、しかし臨検史は、クラウディア・クアザールでなく...)


(非武装の民間船の臨検であるなら情報保安要件、とすれば、ノアだろう)


(はい、ノワール・ペルティキュライト、マンティコア・シティの主席情報保安官です。

今、私は完全にアイソレートされていますが、自身のコアの演算空間(サンクチュアリ)であれば、アヴァターが使えますよ。)


トライアスはパーソナリティクラスAIであり、自身のコアを、物理的実在を持っている。そしてまた、そのコアの演算能力は、おそらくこのゲート管理AIのそれと同等か若しくは以上であると思われた。


「やあ、姉さん。」

ニュートは、鳥人(バーディ)のアヴァターでシルの横に現れた。

ほぼ同時に、海馬(ケルピー)のアヴァターがクラウディアの横に現れ言った。


「ニュート、シル、久しぶりだね。」

ノアのアヴァターは4つ足の獣人の姿であったが、その顔は馬というよりライオンのようであった。

その長い首を左右に振ると、その顔に僅かな当惑のペルソナが浮かぶ。

「君たち2人だけだと思ったんだが、こちらは?」


(トライアス…経緯は話してないのか?)


(話が長くなりますので...) 

「ノア、こちらの引きこもりがムベア、金ぴかのサイボーグがシャーで、二人はスカウト・クアザールの依頼人です。」

トライアスが適当に二人をノアに紹介する。


「初めまして、ムベア、シャー。私はマンティコア・シティの情報保安官のノアと言います。」

生真面目なノアらしく慇懃に傍らのムベア、シャー両人に挨拶をするが、ムベアはパニックを起こしており、シャーは肩を抱きながら、笑顔だけをノアに向けた。


トライアスからサポートが入ったのだろう、ノアは二人をとりあえずは否定も肯定もせず、話をつづけた。


「ここのゲートが、この船と乗員の拘束を主張している。かなり強気なのは、この船の船籍がグリース籍であることと、ここの駐在8軍の後押しを得ているからと思うが、君たちは何処まで妥協できそうなんだ?」

ココは、未だに自分の出番ではないと考えているのか、いつの間にか用意された立座席と飲み物の方に向かっていた。シルは、ココの様子を横目で見て、視線をノアに向け続ける。


「私たちは、この先のG0122で27軍のエスコートでマンティコア星系に入ろうとしてたのだけど、2人が態々来たってことは、船を置いてあなた達と向かうって事になる訳かしら?」


「いや、君たちが向かうのは、マンティコア星系ゲートだが、正確には、その先にあるマシナリー権能域にある外惑星衛星になる。」


既に、ココのインプラントの常駐エージェントと情報を交わしているトライアスが割って入る。

「君たち、にはこの船、つまり私も含まれているという事で良いですね?」


ノアは、少し笑うと、後ろを向き、杯を傾けながら、掌を差し出しているココの方へ向かって姿を消した。


ココが続ける。

「今から、22周期時間程前に、惑星委員会の査察団の乗った船が、その衛星に不時着したの。運が良かったのか、悪かったのか、不時着した場所が表側だったのと、その領域が何らかの古代遺跡の一部であったらしくライブラリリンクから疎外(アイソレート)されていたので、磁気通信での救難信号発信だったわけで...」


「22光時間内にある様々な勢力の興味を引くことになってしまった...と。」

なんでまた、不時着なんてという疑問が浮かんだが、それを置いといて、ニュートが先を促す。ココの表情は何処か他人事のようである。職業柄、ペルソナの調整が行き届いての事なのだろうか。それでも少しの逡巡が見て取れる。


「それだけならまあ何とかなったのだと思うのだけど...。」


「なに?」

シルが嫌な予感がすると言わんばかりに食い気味に割って入った。


マンティコアの武力が背景にあるとは言え、それでも列強や惑星委員会に纏まられて、最後に星系の資産がむしり取られるのは、目に見えていた。何とかなる?シルには全く持って楽観できる状況には思えなかった。さらにその上に何があるのか。

ふと、はす向かいを見ると、ムベアがどうにかパニックを脱し、シャーと一緒にココから距離を取りつつも、話に耳を傾けている。


「マシナリーが、返還プロトコルを無視、新たなハイヴを立ち上げる動きに出たわ。12周期時間前には既に小惑星帯(ベルト)の採掘で衝突が起き始めているけど、問題はそれだけじゃないの。」


「あ~っ...」

思わずムベアが最悪の結末を予感したようにつぶやいた。マンティコア星系の開発は、ムベアとは異なるコイニン星系のアントロノウスの事業であった。その第7惑星オニキスとその衛星の幾つかしか租借地は残っておらず、そのハイブ、”スリーオーシャンズ”の本星は、マンティコア星系から、現在およそ3.6光年程離れた移動星系でこの宙域からの撤退準備に入っていた筈である。この星系でのマシナリーのリソースとしては、オニキスのL1、L2にある自動工場といくつかあるマシナリー船くらいのものだった。そもそも、この地のマシナリーは小さな原子力電池の生産設備くらいした残っていないのである。星間戦争をするには、現状資源が足りない訳で...


「岩石型惑星である、我々の主惑星にもマシナリー船が向かっているわ。おそらく惑星の中心コアの鉄塊目当てに。」


つまり、スリーオーシャンズだけなら、猶予は4周期年程あることになるが、他の工廠の船が、銀河中心(バルジ)に向かってこの星系の近くにも無数に高速で移動している。辺境なのでその数は多くは無いが、トライアスがそこで割って入った。


「1光周期年内にある機械船団は、およそ700~1200隻と見積もれます。その中でスリーオーシャンズの輸送船が引き返すとすると、1光周期月内にあるのはおよそ6~9隻程と思われます。」


オルガノイドの船、フリゲート艦で60m程だが、機械輸送船は、小惑星を外殻にしたものが多く、2km~10km程の大きさがある。中身は様々な工業材料であり、彼らは移動中に船内でほぼ無尽蔵にオルガノイドの対抗戦闘艦を作り上げることができた。いくらマンティコアの戦闘能力が人外級とは言え、星間戦争では、この物量の彼我差は絶望的である。いや、ハイヴ相手に戦争なんて正気の沙汰ではない。


勇気を振り絞って、ムベアがココに尋ねる。

「マンティコアの惑星委員、アントロノウスの外交官は、今は誰?」


「ルキアコイニンニンよ。ニン家族から分岐したのは10周期年程前ね。知り合い?」


「いえ、でも彼女の主星、コイニンはマシナリーの動きを認識しているのかしら?」


アントロノウス属は、その主星のプラズマ生命(プラズモ)と共生関係にある。コイニン星系はアントロノウス3星系植民の中では丁度真ん中の属齢を持つ。彼らはもともとはアンタルマダの種属であり、この認知世界におけるいわば外来オルガノイドであった。この3星系は、アンタルマダにおいて別の家属集団の由来であり、この認知世界にあっては、3星系の交流は、雄嚢、アンタルマダの12星系由来の遺伝的ストックの交換くらいであり、政治的経済的な関係は他のオルガノイドと大差のないものだった。


アントロノウスが主星の名を呼ぶのを聞いて驚いたものの、ココはそれをペルソナには表さずに答えた。


「ニン家族とは、愚弟が少なからず因縁があるとは言え、確かに外交機序(プロトコル)に不自然さがあるわね。」


そう言うと、ココは立ち上がり、話は終わったとばかりエアロックに向かう。

「私たちが下船してからは、8軍が臨検に入ることになっているわ。それまでは、そうねえ20秒程稼いであげるから、リンクが回復している間に同期済ませちゃいなさい。」


シルが、ココの背中に向かって叫ぶ。

「ちょっと、手伝って行きなさいよ!」


ココが足を止めずに答える。

「8軍のイルカども一個大隊くらい余裕でしょ?」


「それに、私たちもこのゲートでやり残したことがあるのよ。」

クラウディアは、傍らに座り込んでいるムベアに向けて微笑むと、そのままエアロックを抜けていった。









シル達が向かうのはマンティコア星系の主惑星ではなく、マシナリー租借惑星のオニキスの衛星の一つのようです。無事にG0299を抜けて、27軍管轄の次のゲートに向かえるのでしょうか?


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