5.27軍グリース駐屯地|亜空間~G0299
グリース星系に残した、ニュートの分岐人格が8軍と27軍のややこしい引き継ぎ問題に巻き込まれます。
一方で、古代船では、ムベアがパニックから回復したのもつかの間、次のゲートに健在した船に現れたのは?
ニュートの分岐人格は、そのキュリンドリスの長さを4.65mと見積もった。彼の知る、キュリンドリスは、柱の片側であり、その高さからすると、ここにあるものは、同系の貫であると思われた。
(ミュケナイ、発見時の記録が見たい。)
通常、キュリンドリスは解体された状態で発見される。これは遺棄時にあえて解体されたものだと考えられている。なぜならば、2つの理由で移動が不可能であると考えられているからだ。一つが、そのキュリンドリス毎に存在すると思われる遺跡の保護者の存在。もう一つの理由が、それぞれが、未知の力で完全に空間、慣性系に固定されている、かのように振舞う、からである。
このキュリンドリスは、稀に帝国時代の遺跡から発見され、サイズは様々であるが、共通する特徴として、同じ直径の円柱が4本組であることである。其々4人のガーディアンの呼び名から、2本の長いキュリンドリスが、プラダーナ、最も短い1本がヴャド、その中間の長さの最後の一本は、チャトラと呼ばれる。ニュートの知る1本は、故郷のマンティコアのセクト内の湖底に沈んでいたものであった。基本的に、ライブラリの情報は、その種属の属齢以前の情報は開示されないため、このキュリンドリスに関する情報は、マンティコアの種属知として受け継いできたものであった。記録によれば、入植以前から底に立っており、今も触れる事が禁じられ、他の3本は行方不明であることが、5令を迎えて湖に生活する際に主席マンティフィロスから聞いた話であった。
ガーディアンは、そのキュリンドリスに触れた者の知性に寄生、融合することで発動する。その変化は不可逆的であり、軍にとっては非常に厄介な状況を作り出すであろうことは想像に難くない。
(実は、これは、軍が鹵獲した機械船に乗っていたものなのです。)
(ここに元からなかった物だとすると、別軍管区の何処か、もしかして8軍?)
ミュケナイはその質問には答えなかった。軍管区は、およそ2000周期で任地変更がある。問題があった場合でも、200周期は管区変更はないはずだ。このグリース星系が27軍管区に変更があったのは、2-3周期前の筈である。
(...。ミュケナイ、悪いことは言わない。このまま2012を閉鎖して誰も近づけないことだ。)
やはり、ミュケナイは消極策には興味がないのか、積極策に何か功利的な理由があるのか。
(その、相談というのは、マシナリー側がこのキュリンドリスの返還を要求しているのです。)
マシナリーはゲートを使わない。オルガノイドへの彼らの外交通信は光速で届く。少なくとも鹵獲されたのは、3周期から200周期程前であり、少なくとも、星系内に租借地があるマンティコア星系ではない為、そこにハイヴを持つスリーオーシャンズではないことは確実であった。また、少なくとも27軍が鹵獲したものでもない。いや、そもそもデュルガは、ここにキュリンドリスがあることを知っているのか。
(返してやればいい。由来を知るには、誰かが犠牲にならなければならないし、どのみち我々には使い方も何もわからないんだから。いや、そういえば、どうやってこれ、ここまで運んだの?)
(機械船の使役群体が運んだと記録にあります。)
という事は、ミュケナイは27軍とともにこのドームに入ったのだろう。記録へのアクセス承認が下り、自分のエージェントに解析指示を出す。ミュケナイの監督下では、湖の演算空間は使えない為、少々不便を感じつつ、逡巡したものの、疑問を発した。
(マシナリーは、キュリンドリスを扱える?)
(少なくとも、移動については全く不具合を見せませんでした。)
(ガーディアンも無効化されていた?)
解析によると、マシナリーに関しては無関心であったというのが近い結果であった。
が、相変わらず、発見時の記録にたどり着けない。
(少なくとも、移動、移設については不具合を見せませんでした。)
(それでも、何らかの古代兵器であるとの仮説は排除できないと?)
無効化、若しくは起動させたいという事のようだが、単体ではどうしようもない。
マンティコアの湖のものは、学園長の権限下で管理されているが、起動させたという
記録がないからだ。
少なくとも、クランネットワークで以前調べたときは、入植時のガーディアンとの遭遇で、それ以来誰も立ち入らない区画となっていた。
(軍、と言っても8軍ですが、はそう考えているようです。)
(マシナリーからの返還要求については?)
(もちろん応じます。これがオルガノイドにとって脅威でないと結論が得られれば。)
(その理由は、それだけでマシナリーに通じるとは思えないんだけど。)
マシナリーからのオルガノイド、特に個人と社会の関係への理解は絶望的と言ってよい。
(ええ、それで、彼らは”外交官”を調整に寄越すと。)
”外交官”とは、対オルガノイドとの利害調整のために、彼らのいう、”調整された”オルガノイド、古くは捕虜、今は協定により知性死となった有機体をベースとした半機械知性のストックを用意していた。ここ数億周期は、ロゴスに大幅な調整を加えることは行わずに、鹵獲した準知性体を”教育”し、外交官とされた復元知性の監視役として使役する事まで行っていた。
(その氷漬けの捕虜のリスト照合は済んでいて、もしかして大物だったりするのかな?)
マシナリーの時間感覚については、色々と説があるが、おそらく時間の存在そのものを無いと考えているのではないかというのが、一般の通説となっている。その捕虜については、数億周期以上も保存されていた可能性だってある。その知性についても、何らかの精神疾患を抱えていてもおかしくはない。
(私の権限下では、お答えできません。)
なんとなく、話筋は見えてきたが、最大の問題は何かと考える。
(ミュケナイ、このキュリンドリスの存在を知る、27軍官区の武官は何人いる?)
しばらくの逡巡。やはり、知る者は居ないようだ。過保護にも程があるとはいえ、浸食型の準知性体にある程度の耐性のある、群知性体の軍属は、ミュケナイの権能下に居なかったのだろう。
深いため息とともに、事情を察したニュートの分岐人格は、先を促す。
(それで、僕はどうすればいいのかな?)
(ええ、その為に、貴方に、先ずは、軍管区長、到着する外交官、そして、最終的にはこのガーディアンを説得してもらえないかと…。)
(あー!、面倒くさいことこの上ない!)
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古代船のメインデッキで、ムベアはようやく口を開いた。
「それで、シャー、貴方の帰るべき処はどこにあるの?」
ムベア、正確には彼女の分岐人格であるが、は、パニックを脱していたが、そのファーゴン製の素体に2体の下位人格を両足に生成しトラウマを押し付ける事で主人格を自閉の沼から引き揚げていた。
(両腕使えば、次のゲートまで、あと2回は耐えられそうね。)
トライアスからムベアのパニックへの対処の経緯を聞いた、シレンティウムはそんな物騒なことを考えていた。実際には、そのトラウマは、この船が亜空間を脱した次のスキップゲートへ健在し、グリースの本体と同期を果たした際に、群体のどれかの生体に引き継がれるのだろう。
シルは、あまりシャーの身の上、聖については相変わらず関心が薄かった。
漠然と、彼の教団の僧兵としての彼の兵力は軍にとって侮れないものであったと感じてたとはいえ、自分なら単体で対処できると踏んでいたから、彼の存在自体は、まったく脅威に感じていなかった。
偶発的に、この2人を巻き込んだ形の出立となったが、シルはこの状況をニュートとの融合過程の問題を一時棚上げにできた事で、ここ数か月の陰鬱から部分的に救われていた事になっていた。
ムベアの深刻そうなペルソナは、なぜか横のシャーには向けずに、正面に座ったシレンティウムを見据えていた。
(あ、そうか。)
シルは、用意したトレーをムベアの方へ向けると、その水とサプリメントは、彼女の左手によって一瞬で消費された。その様子を、シャーは無言で見ていたが、その表情は、どこか楽し気であった。
「お代わり持ってくるわね。」
そう言うと、シレンティウムは、立ち上がりキッチンへ向かう。ムベアとシャーの2人は次のゲートで別れとなるのだろうかと、ちょっと残念に思いながら。
(シル、次のゲートまで、あと10分程です。ニュートの覚醒までは、およそ30分程あります。)
(…。お説教?)
トライアスによって、メインデッキへ向けていたシルの環境聴覚が遮断される。
(というか、お願いです。シャーの保護について。)
(んー、保護なんて必要かしら?ゲートの待機戦力くらいじゃ彼止められないわよ?)
キッチンのミールシンセサイザーを再び操作しながら、次のゲートでの8軍の干渉について想像してみた。この船ごと鹵獲されたとしても、ガスを使われても彼の生体被膜が無効化するだろうし、シルも生体で真空中で活動できる時間があれば、通常の待機戦力である、フリゲート艦1隻なら無効化は可能だった。
(彼、シッダースの知性の一部、おそらくガーディアン由来の古代知性は、貴方たち、2人のマンティコアの足下の問題を解決できるかもしれません。)
「どういう事?」
声が出ていた。ミールの完成のアナウンスとほぼ同時に、僅かな磁気振を感じる。G0299に健在したのだ。その瞬間、船の室内照明が赤くなると同時に、トライアスの抑制された音声が全室内に響き渡る。
「目下、我々は拘束処理を受けています。ライブラリリンクも回復できません。」
「どこから?」
シルは、それでも出来上がったトレーを持って訪ねる。ムベアはまたパニックになっているだろうが、デッキに向かう。
「軍ではありません。メインデッキに臨検使の3Dホログラムが実体化しています。」
物理制圧が目的ではないようだ。
メインデッキに降りていくと、その臨検使は、振り返って、人懐っこい笑顔を向けた。
その向こうには、昏倒しているムベアと寄り添うシャーが見える。
「シル、元気そうじゃない?」
幼少期から聞きなれたその快活なよく通る声と、故郷のその警視着装には覚えがあった。
「ココ?なんで?」
クラウディア・クアザール。ニュートの双子の姉であり、シルの義姉であった。
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シルの義妹であるココ、クラウディアは、軍の退役の後、故郷の警察官僚として順調に出世していました。何やら、故郷の面倒にも巻き込まれそうな気配ですが、ムベアはまたパニックになり、今度は方足が犠牲になりそうです。




