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3.メインドック

この作品では、時系列で書き進めています。自分にはあまり向いていないようで、かなり周辺のエピソードを書いてからでないと、安心して構成が組めません。皆さんどのようにプロット作っているのでしょうか。

さて、巻き込まれた?ムベアの母船がメインドックに到着し、シッダースをニュートに引き合わせた処から始まります。ムベア視点で書き進める事で、種属間でのラポール確立を描いてみました。また、巻き込まれキャラの彼女のおかげで、ディティールも省略出来てテンポも上がって何よりです。

ムベアの素体は汎用の女性体であり、シレンティウムに担ぎ上げられているとはいえ、その動作加速度にあってはその平衡感覚は意味をなさず、口蓋も開けられない中、必死に意識を保つのがやっとであった。

その永遠とも思われる数分間が突如として終わり、気絶していたことに思い当たると同時に、見知らぬ船室に寝かされている自分に気がついた。


一瞬、パニックになりかけたが、エージェントから状況を得ると、“記憶“をたどりデッキにたどり着いた。


(古代船のようだけど、クルーザーでは無いし、変わった船ね。)


メインデッキのその空間は、ムベアにとってかなり意外なものだった。身を隠すものがない開けた空閑。インセクトゥム・サピエンス、遺伝系統は違えども、彼女らマンティコアとは昆虫型オルガノイドとして、生活価値観として近いものがあるはずだと考えていた。


(ムベア。この船、元は銀河帝国以前の海棲種族の古代船なのです。アゴラフォビアのストレス傾向が見て取れます。環境視界に介入しましょうか?)

トライアスが、ムベアのバイタルをモニターしたのか、インプラント越しに話しかけた。ムベアはその船体AIの距離感とある種の個性を認めて一瞬戸惑い、視線を泳がしていると、ベッド?に横たわるシッダースの傍にいるマンティフィロスと目が合った。


(6令体?母星から離れた個体なんて...。)

マンティコアについては、特にその雄体については謎が多い。陸棲で生まれ、終令に近づくと水棲化し妻の体内にやがて吸収されると聞いていたが、別の母から生まれ、妻となる雌体に再び帰るというその一生について、群体知性であるムベア、特に、その強力な女王としての支配本能を持つ知性からすれば、其の生は理解しがたい種属であった。


ニュートロンは、そのムベアの心の動きを察したかのように、優しく微笑むと、再びシッダースに向き直り、彼の耳元で何かをささやいた。


(ムベア?)

トライアスの呼びかけに我に返る。


(大丈夫。それで彼の具合は?)

おそらく、あのマンティフィロスがクアザールの夫だろう。メンテナー若しくはメディックスなのか、その佇まいは儚げながら、纏う空気は医者のそれに近かった。


(安定しています。ニュートは、そうですね、ロジックでなく、ゴーストのメンテナー、といえば一番実状に近いのではないかと思います。)


(アニマドゥート?それを自称する行者を、これまで捨てる程見てきたけど…。)


(彼はおそらくあなたが出会った唯一の本物でしょう。この先の未来をも含めて。)


このAI、聞きもしない事話しだすわ、発言を遮るとか、色々とあり得ない。

(あなた、転写人格(コピア)模造人格(シムラータ)?)


(私は生まれてから2万周期の船体管理AIです。記憶の限り、私の存在時間の中でゴーストを得たことはありません。)トライアスの口調には、何処か反抗的な気配を感じたが、彼が純粋なパーソナリティクラスのAIであることに誇りを持っているとは、ムベアは思いもならないことだったろう。


「ちょっと、うちのトライアスに何喧嘩売ってんのよ。」


丁度、デッキに入ってきたシレンティウムの声を背後に聞いて、ムベアは飛び上がった。

「ク、ククク、クアザール…。」


「此処には、クアザールしかいないわよ。」


ニュートとシルを交互に見比べるムベアには、当惑のペルソナが浮かぶ。

マンティコアは普通は、他種属からは、姓族名で呼ばれる。ムベアのようなアントロノウス、群体知性であるからかもしれないが、姓族名は、彼女らにとっての家族名にあたると考えられていた。ムベアホトホトルとは、アントロノウスでの唯一の家族名であり、女王は代々継承されるが、稀に分岐して新たな家族を作ると、主星から家族名を新たに受ける。その際に、家族名が重なることは無い。(彼女の家族名、主星系の名がホト、ホトルから分岐したムベアという意味である。)


しばらくシルは考えて言った。

「夫の名はニュートロンよ。私のことは、シレンティウムと呼びなさい。そしてこの船は…。」


「トライアスと申します。以後お見知りおきを。」

トライアスが環境音で発した。


何か言いたげなムベアを制するかのようにシルが続ける。

「慣れて。」


そして、ムベアの横に並び立つと、視線を中央のベッドに居る、二人に向けた。

ムベアは、その横顔を見上げ、少し哀し気な気配を感じ、一瞬シッダースを案じたが、直ぐにそれは彼に向けたものではない事に気が付いた。彼女の一切の興味・関心はその視線の先、ニュートロンに向けられている。どういうわけか、ムベアのシルへの脅威意識はほとんどなくなっていた。

幾つか、言葉を探ったが、結局ムベアは中央の2人に視線を戻すと言った。

「ありがとうシレンティウム。シャー、彼を助けてくれて。」


その言葉で、シルはこの依頼、聖の広場からの排除、を完遂していたことに気が付いた。

ムベアを見下ろすと、ニカっと笑い。

「今後とも御贔屓に。」


(シル、ニュートはそろそろ限界の様です。居室のポッドに移動させたいのですが。)


(了解。)


(襲っちゃ駄目ですよ。)


(…。)


「ムベア、夫をそろそろ引き揚げさせるわ。」

シルは、ムベアに微笑むと急ぎ、デッキ中央に向かう。そして、思い出したように付け加える。

「母船に入れてくれて、ありがとう。いい船ね。」

と肩越しに言うと、ニュートを抱えて反対側の隔壁扉に消えていった。

そのニュートは、シルに背負われ、顔色が悪いながらも笑みをうかべると、ムベアに手を振っていた。


デッキには、シッダースが横たわるベッドが残された。

ムベアはゆっくりと彼に近づくと、浅い呼吸音のリズムを感じ、ようやく安心を得た。

アントロノウスの聴覚は、基本的にリズムと強弱には非常に敏感だが、音声のような周波数変調や音の高低についてはかなり鈍感であった。この素体は感覚拡張に対応していたが、生体の脳の方は母星を出る際にかなりの訓練と調整を受けてきたが、ニュートのささやきについは聞き取ることができなかった。


(ムベア、シッダースは寝ています。あと2時間程は寝かすようにとのニュートの指示です。一先ず母船に戻りますか?)


(いえ、よかったら、目覚めるまでここにいさせてほしいのだけど。)


(わかりました。)

すると、デッキ内の風景が森とその中の大樹上の梁台に変わり、ムベアの素体用に調整された椅子が用意された。

(他に用向きがあれば、何なりとお申し付けください。)


ムベアは椅子に座り人心地つき、そして、この数時間の経験を振り返っていた。

(マンティコアの2人は、たとえ自身の船内とは言え、生体で直に私やシャーに対峙していた。対して自分はと言えば、常に安全な居室に引きこもったまま、この素体を介しての対応に終始している。)

もちろん、圧倒的なマンティコアのフィジカルがそれを可能にしていると言えばそうかもしれないが、クアザールの夫、ニュートロンに至っては、病人の様で、おそらくこの素体でも彼を滅することは容易に思われた。あの勇気の源を知りたいと思うと同時に、彼らに好意を持ち始めていることに気が付き、そんな自分の変化に驚いていた。


アントロノウス属は、非常に憶病かつ慎重な知性体として知られていた。基本的に植民星系、3つある、からほとんどの家族は出ることは無く、ムベアのように外宇宙に出ていくのは、同属からはかなりの変り物扱いである。この認知世界コグニティブスペースのオルガノイドの中ではそれほどの覇権は持っていないものの、惑星開発委員会に置いては最大の派閥を形成していた。ホト星系のアントロノウスは、3星系で最も古い歴史を持ち、委員会の歴代会長を多く輩出してきた。アントロノウス属にとって、主星に住むプラズマ生命との共生関係は絶対であり、その為、共生関係にあるプラズモ属の好む環境に合わせ、植民星系はK6級に限られてきた。最新の植民星系である、ロキ星系では、ハピタブルゾーンに丁度良い惑星が無かった為、外縁系から小惑星を移動させ、主惑星を数億周期という短期間で建設中である。ちなみに、現惑星開発委員会の会長は、このロキ星系のトマルロキロカノであり、改革派として知られていた。


ムベアはシッダースの寝顔をなんの気なしに見ていると、自身のエージェントから緊急コールが入った。

なんとなく予想していたが、先ほどニュートロンが言っていたように、軍からのシッダースの引き渡し命令であった。エフェクトゥム・フィニスは、太極主義的な教義を持っているが、()()()()()()()出家教団であり、その僧兵の実力は、この辺境では、十分に軍の脅威にもなりえた。アントロノウスとしては、非常に有益な勢力であり、その教義への同調などではなく、あくまでも軍への権勢として、尚武の民からほど遠い、アントロノウスが支援する一つの大きな理由であった。


そんな事情を知ってか知らずか、ムベアが逡巡していると、シルからコールが入った。了承して、デッキの環境音声に切り替える。


「ムベア、今ニュートのアヴァター(分岐人格)が、彼の引き渡しについても、ここのグリース軍管区長と交渉しているわ。」


「シレンティウム、軍管区長のデュルガなら、話の分からない相手ではないわ。シャーの身分だけど、残りの軍役について私が買い取るつもり。民生官としてでなく、アントロノウスの外交身分として。」


「ん-、どうもクレジットで何とかなる話ではないみたい。」


「たとえそれが満期分の2百周期分だとしても、可能な与信はあるはずよ?」


「その、何とかがいうには、彼、脱走兵として、2年程前に、別の軍管区の本人不在軍事裁判で判決が出ているの。知性活動停止レジューム2万周期という。12時間以内にその軍管MPが此処に来るわ。」


「冗談じゃないわ!」


「そこで、提案。私たち、そのデュルガの依頼で、ゲームオフィシャルとしてG0354ゲートまで出張らなければならないの。そのために4時間以内に出発しなければならないんだけど。」


ムベアには、G0354、まったく知らないゲートナンバーであった。しかもゲームオフィシャル?マンティコアが?まったくもってキナ臭い話である。


「このまま、この船で出発しちゃおうかと。」


「え?」

ムベアは、その鋭敏なタクタイルセンサーで、既に起動している慣性駆動エンジンのアイドリング振動を検知していた。


「大丈夫、ナビゲータに予定航路は登録予約済だし、シッダースにはインプラントが無いから所在不明だし、というか、貴方の母船に連れ込んだところまでは軍の無人機は確認してるから、そっちの停船命令については、既にドックAIも承認しちゃってるんで、時間稼ぎについては、既にトライアスがあなたの母船の了承もらっていて、あとは追認してもらうだけなんだけど。」

後ろめたさがいくばくかはあるからか、シルも珍しく早口で話し終えた。


「ムベア?」


「…。わかったわ。」

と同時に、離床を彼女の母船からの視界にて確認する。この素体はこのまま、マンティコアの虜になるわけだ。そこからは、あっという間に、まったく問題なく、グリース星系のゲートを通過し、亜空間航行に移行した。


今更だが、ふと気が付く。

「シレンティウム。 G0354ってどの星系のゲート?」


「私たちの母星系。」


「マンティコア?」


「そう、主惑星カプト・マンティコア・3世テルティア。」


「…。」


「ムベア?」


「イヤーっつ!!!」

デッキに絶叫が響き渡った。

問題の星系にほとんど準備もなく向かう4人(宇宙人ですけど)カマキリとヤゴとシロアリとトカゲ。冷静に考えるとなかなか絵面が映えそうもないスペースオペラですが、果たしてこのオンボロ古代船を加えたとして、うやがて訪れるこの星系の危機を救えるのでしょうか?

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