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2.~/メインドック~ダウンタウン

聖さんとの邂逅になります。問題の彼はこの広場の集団の中心的存在のようです。依頼者の民生委員のムベアはもしかすると在家信者なのかもしれません。

その横になった姿は、ヒト型ではあったが、フードローブから隙間見える肌は金色に輝く鱗に覆われていた。意識がないのか、その広場のモニュメントの付け根にもたれ掛かり動かない。その周りには、同様のフードローブを纏った集団が取り囲んでいるが、各々の場所で祈るだけで彼に触れようとするものはいなかった。


「ニュート、彼?彼女?のレジュメが取れないんだけど、追える?」


(さすがに、物理接触が出来ないと難しいかな。ライブラリーのレイヤー(情報空間層)に探索かけている。でも、あれは...)


「ナーガかしら?古代種族のDNAを再生した軍の水棲戦闘用素体だけど、識別IDが分からないなんてどういうこと?」


(どちらにしても、軍用素体なら依頼が廻ってきた理由は明らかだけど、聖への身体接触は法度だから「気を遣う」必要はあるね。)


「オルガノイドなら話はできるでしょう。なんにしても接触しないことには始まらないわね。」


と、シルはエアロックに入り、コートを羽織る。同時にドーム管理の環境視界に入り、問題のダウンタウンの様子をモニターしつつ、問題の場所へと向かうルートが確立されるとドックの管理AIがエアロックからドームへの侵入経路を開く。トライアスは、シルのバイタル、メンタルともに問題がないと判断するとエアロックを開けた。シルは、その一瞬の逡巡に気が付いていたが、何も言わずにダウンタウンに足早に向かった。

 副脳に移動を任せて環境視界の分析に没頭した。複眼の虹色が黒色に変わっていく。基本的にすべてはインプラントに常駐するエージェントAIがすべての手続きを済ませている。シルは認定スカウトなので、基本的に行動予定先はすべてイエローゾーンとなり、そこでの実力行使は、申告制で即時許可されるのが常であった。が、問題の箇所、その中心に居る聖の周辺20m圏内はグリーンのままであった。


(トライアス、排除って依頼だけと、そこは荒事じゃなく済ませろってことかしら?)


(シル、「説得」です。当然のように言い換えないでください。)


(依頼者のアポイントアドレスに繋いでくれる?)


(ムベアホトホトル、ダウンタウンの民生委員です。直接話しますか?丁度環境視界に彼女の素体が映っていますね。)


シルのエージェントが、ライブラリ経由でP2Pリンクを張った。先方のエージェントAIとの認証を済ませ、回線をつなぐ。


(ハーイ、ムベア、管理局の紹介でそっちに向かってるスカウトなんだけど。どういう状況かしら?)


一瞬の無言。環境視界越しに彼女の素体の狼狽の様子が見えている。今頃彼女の母船では群体が警戒の足踏み(スタッカート)で騒然としているだろう。


(ク...クアザール、なんであなたが...)


(仕事だもの? 後、そうね11分ほどで着くわ。彼?彼女? 戦闘用素体が相手なのよ?なんでグリーンゾーンなままなの?)


(状況は、今のところ安定しているようだけど、彼、シッダース・シャカール、の動力器官が不安定なの。周りの聖の話によるとだけど。動かしたくても動かせないのよ。)


状況は、思っていたよりも深刻なようだった。対応間違えたら、この居住ドーム巻き込んで全員虚数空間行きだ。おそらく、ドーム管理AIは既に予防措置を講じているだろう。とりあえず走れば、2分以内に到着する。


(ニュート?)


(無人機が広場の上空400mで待機中。狙撃手への妨害を開始中。)


(撃たせて、その、シッダース?だけ向こうに送った方が面倒なくない?)


(だめだ。彼をここに連れてきてほしい。)


だろうなと、深いため息をつく。ニュートは、おそらく彼の意図に気が付いたのだろう。なぜ広場に彼が横たわっているのか、“槍”で送ってくれと言っているのだ。辺境に死に場所を求めてやってきたのだ。

槍は、反物質とナノブラックホールを調整したいわば次元転移装置である。基本的には対マシナリー戦で生み出された投擲兵器であるが、複雑な質量推測と生成から使用までの時間制限から用途は限られていた。使用にはオルガノイド軍の承認も必要であるが、どうやら訳ありの素体のようで、軍としても処理に難儀していたのかもしれない。


(お金にはなりそうだわね、確かに。)

ニュートとトライアスとの共有回線に独り言ちた後、広場に着いたシルは、環境視界から個人視界に切り替えると、目の前で呆然と立ち尽くすムベアの素体に向かって言った。


「ハーイ、ムベア。とりあえず、あなたの母船の安全ポッドを貸していただける?」


「な...ど...どおして?」

ムベアは狼狽しながらも、そのペルソナは無表情である。助けを求めるように周りを見回すが、祈る聖たちの他、誰も2人に関心が無いようで広場は無人である。絵面は完全に子供を恐喝する極悪元軍属のそれだ。


「とりあえず、この広場に着陸させて欲しいのだけど?彼を運び込むのは私がやるわ。」


ムベアの種族、アントロノウス属は、昆虫型オルガノイドであるが、群体知性である。およそ20数体~数千の群体とたった一人の女王体からなる集合知性体。ムベアは民生委員とは言え、おそらく数十体で一つの知性体を構成しており、その群体の本体はこの惑星軌道上かポートに係留されている宇宙船で生活しているはずである。彼女らの多くは用心深い拝金主義者ではあったが、その船には安全ポットといわれる停滞空間発生装置があるのが常であった。


ニュートが介入する。

(ムベア、彼、シッダースの素体は軍用のナーガだ。大水環境下でないところで暴走すれば、このドーム全体に被害が出る。僕なら、この素体を安定化出来るが、その為には物理接触ゴースト・エンカウンティングが必要なんだ。スカウト権限で君の母船を摂取することもできるが、ここは協力して欲しい。)


「私のポッドは20体用なの。彼を収めるには小さ過ぎるわ。それに、、、彼は歩けないわ」


(それは、大丈夫、ありがとう、彼を救いたい気持ちは僕も同じだ。どうかシルの無作法を許してほしい。)

アントロノウスにとってその母船は巣でありサンクチュアリである。そこに他種族を入れるという決断は余程のことだろう。おそらく、彼女は自らの巣に命じて移送を考えたのだろうが、アントロノウスの生体、その労役個体は剛力ではあるが、肌に触れずに重いサイヴォーグを落とさずに運ぶのは容易ではないだろう。


トライアスがムベアの船と調整している間に、シルはシッダースと呼ばれた聖のそばに立って暫し見積もると、肌に触れないように慎重に彼を抱え上げた。


(400kgは無さそうね。)


軍用の水棲素体はサイヴォーグ化されていた。おそらく軍歴を当たればレジュメは取れるだろう。


(シル、ライブラリインプラントがない。軍用通信のレセプタの痕跡はあるがこちらもアクセス不可だ。)


「シッダース、私の言葉が分かる?どれくらい抑えておけるの?」

軍の正規言語である、銀河標準語で話しかける。


彼は薄目を開けると、シルを見上げ、微笑み言った。

障月ラーフ? 健在にはまだ16億周期ほど早くないか?」


彼の言葉は即時翻訳されるが、シルには意味が全く取れなかった。


(シル、古アングリックだ。彼はアースリング由来のようだね。ラーフは、月を遮る者と言う意味だよ。)

シッダースの視線の先を振り返るように見上げるとそこには新月が浮かんでいた。


シルの視覚を通して彼の口蓋の奥に物理ソケットの痕跡を確認したニュートは、マシナリネットワークを検索し、シッダースとのP2P回線を開くことに成功した。急ぎ彼のバイタルにアクセスし猶予時間を見積もる。


(シル、急ぐ必要はなさそうだが、それほど時間がない。彼との会話はできないが、バイタルのサポートは可能だ。2Gを超える場合にムベアのポッドの停滞空間を作動するように設定した。軍は彼の引き渡しを正式に要求してきた。時間を稼ぐから、説得して連れて来てほしい。)


大きくため息をつくと、月から視線を外し、腕の中の素体に話しかける。


「シッダース、これからムベアの船であなたをここのドックまで移動させる。その暴走しかけた動力器官の安定化は私の夫が手伝う事になるわ。その際にゴースト・エンカウンティングの為に貴方に触れる必要があるの。禁忌だか何だか知らないけど、ドーム全体巻き込むよりマシよ。」


(シル、それは説得というより、脅迫では...その言い方では、聖に信仰を捨てろと言っていることと変わりません。)

と、トライアス。傍らでムベアもうなずいている。


予想に反して、シッダースは微笑み言った。

「私の祈りは既に届いた。ラーフよ、構わない、あなたの言葉に従おう。」


周りの聖たちはその言葉に一瞬凍り付き、暫しの逡巡の後、全員が彼に平伏した。

ムベアは何が起こっているのか図りかねて棒立ちのままである。


平伏する聖たちを前に立った今還俗宣言した聖を抱え睥睨するシレンティウム。

その背後に着陸態勢に入ったアントロノウス船。

ニュートは、シッダースのバイタルに介入し水棲体への変体をトリガーし、アントロノウスのアトモスフィアとの接触を避けるように生体保護膜を展開させた。

シルは、その着装オルガウエアを気密展開し同様に船の環境からアイソレートする。


着陸した船、そのエアロックに入ると、シッダースは意識を再び失い、完全にナーガに変体した。

船の居住区の中心にあるポッドを大水で満たし、変体したシッダースを戸愚呂を巻くように格納する。


「何とか収まったわね。」


ポッドがシールされるのを確認して、エアロックから退船する。

不安そうに見守っているムベアの素体の肩に触れると過ぎ去り越しに言った。


「大丈夫よ。あとはドックまで運んでもらえれば、ニュートが彼を助けるわ。」


そして振り返ると

「あ、ポッドとかの電池代とかドックの係留費用はそちらで処理して!」


と言いのこすと、ダッシュでドックに引き返す。


(ニュート?)


(UAVならムベアの船を追って移動したよ。セイレンは説得したから軍は民間ドックの区画には今のところ入れない。なんにしても経緯は本人に問いただした方が速そうだ。)


セイレンって誰よと一瞬思ったが、ドームの管理AIがそんな名前だったことを思い出した。


(君に必死に付いていこうと走ってるムベアの素体については、君に任せるよ。あ、彼女はシッダースのパトロンだよ、正式な後見人だ。)


シルはめんどくさそうに地面にため息をつくと、後ろ向きに飛び上がり、ムベアを抱え上げる。


「ちょっと…」


「口閉じてないと舌かむわよ。」

とだけ言うと、ムベアを脇に抱えたままものすごい速度でドックまで走り抜けた。


















認知世界にはいくつか宗教が存在します。聖たちの多くは、衆生救済を目的として出家した大極思想の持主が多く、すべての知性体はやがて一つの集合知性として融合し、没個によりすべての争いやこの世の問題から救済されると考えている人たちです。「幼年期の終わり」のような第2の生を救済と信じる人たちですが、シッダース達はおそらくその主流とは別の宗派、救済者の降臨を信じている一派かと思われます。

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