0.プロローグ
“その魂をも〜“の前談である、マンティコア星系とマシナリーとの衝突の経緯と解決の話になります。シルとニュートはまだ融合途中で(あえて止めている)母星マンティコアから4ゲートほど離れた商業星域でスカウト業を始めたばかり、借金で首が回らない様子です。そんな中、母星系でマシナリーがサボタージュを起こし惑星管理委員会から、そこで遭難した使節船の調査を依頼されます。
異変はごく普通の機械種族の工廠で始まった。オニキスと呼ばれるその巨大惑星軌道上、ごく普通の原子力電池の生産工場、その最終工程で射出された電池セルが不良であるにもかかわらず、その軌道上に留った。
正常であれば、セルの動力開始と同時にフラップが開き、惑星の衛星の一つ、その液体ナトリウムの海に安全軌道を描いて着水し回収される。異常があればその最適軌道は取れず、そのほとんどは、衛星に向かう軌道をそれ、惑星のメタンの高圧大気と高重力高圧下で数分で燃え尽きる。射出角度も速度も正常、付近の天体からの突発的な重力振もなく、なんの工廠の工程異常も無かったが、その不良セルは大気上層でホップし、安定軌道上に留まった。そのセルは直径24mm、長さ700mm程の円筒形状であり、その星系を管轄するナビゲーターギルドの規定では監視対象とするには小さすぎるデブリであった。其の工廠を管理するマシナリーのハイブマインドは、その不良セルの歩留をモニターしていたが、発生率は許容範囲であり、其の軌道上での残存時間を計算すると問題なしとして放置した。其の衛星の租借契約の満了まで3周期程であり、租借の延長も検討されることもなく、この100周期程は、返還に向けて操業を縮退してきたのだ。
最初の租借の契約相手であった、有機生命体アントロノウス属の命名による、この第6惑星オニキス、その第3衛星を租借地として、これまでの10億周期の間、およそ8億周期前にアントロニウスによる第2惑星のテラフォームが完了し星系主の交代があったが、オルガノイドとの間に重大な問題がおこった事は無かった。そもそも、このような衝突銀河系であるこの認知世界のほぼ全域にマシナリーは存在しているが、その多くは中心付近の新しい星々が誕生しているエネルギー的にも活動域である星域に活動を移しており、ここ、辺境である枝状星群では、マシナリーは劣勢勢力であった。この工廠、その紋章から“3つの海洋“(スリーオーシャンズ)と呼ばれる、は、租借地返還後、およそ80万周期をかけて銀河中心付近に移動する予定となっていた。
その租借地返還にあたっては、この認知世界プレイヤーである知性体による協会、惑星開発委員会による査察によって原状回復へのプロトコルが定められる事になっていた。そして、このオニキスの隣の第7惑星のそばには、この星系への唯一の外宇宙とのゲートがあり、惑星開発委員会のメンバーの搭乗する船が、主星である第2惑星に向かう際に、たまたま、隣の租借地を掠めるように、オニキスのスイングバイ航路を選択した。おそらく租借地を肉眼で見る機会として、そしてたまたま、軌道タイミングが良くなければ、本来マシナリーと緊張状態にあるナビゲータギルドがその予定航路を許可することもなかったであろう。そして何よりも、この星系の現在の主星、マンティコアを擁する、マンティコア属。この比較的新参のオルガノイドの権能域でなければ、もっと古い妥協の上手い老獪な種族であれば、別の結末があったに違いない。マンティコアの次の植民星系付近では、オルガノイド軍とマシナリーとの戦争状態が長く続いており、その軍の戦袍は常にマンティコア属の傭兵が担っていたからである。
この認知世界では、移動体の衝突は原理的に起こらない。ナビゲータギルドはそのマップと呼ばれる空間管理システムを排他的に運用しており、公道、海、宇宙、惑星上を2m前後のボクセルに分割しその空間占有を時間的に保証した航路管理を行っている。その管制システムを支えているのが個人レベルでは生体暗号であり、その種はゴーストと呼ばれる知性体の属性に紐図いている。ゴーストは歴史的存在でもあり、情報遺伝子であり、知性体の個人と系譜のアイデンティティを担保している。はるか未来の認知世界で知性体が獲得した進化形質であるが、マシナリーは統合意識体の為ゴーストを持たない。が、おおむねこの認知世界では知性体として扱われていた。その外交権はオーバーマインドと呼ばれる統合意識単体にしかない訳であるが。
そして、そんな中、その不良電池は、誰にも気にも止められることもなく、地表相対速度、毎秒600kmという高速でオニキスを周回する事になった。
この、わずか600gにも満たない小さなデブリがこの黄昏の枝状星群に住む知性体のその後の運命に重大な一撃を与える事になるのである。しかし、それは、そのデブリが船の慣性駆動器官を直撃した瞬間でもなく、そして其の後、優秀なパイロットの技量により、オニキスの重力の井戸に飲み込まれることもなく、奇跡的に租借地の表側に不時着を決めた瞬間のことでもなかったのだ。
マンティコアでは主戦派と穏健派に分かれて論争になりますが、オルガノイド軍は主戦派の黙認を得て独自に調査という名目での威力偵察部隊を派遣してしまいます。




