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チート能力【時間操作】

「ステータスオープン」と呟くと、目の前にウィンドウが現れた。そこには【時間操作(巻き戻し:10秒)】と記されていた。

森閑とした森の中、佐藤は自身のステータスウィンドウを食い入るように見つめていた。【時間操作(巻き戻し:10秒)】。その文字の持つ意味を、彼はまだ完全には理解できていなかった。時間を巻き戻す。それは人類が夢見た、神の領域に属する力だ。前世では、締め切りに追われ、一分一秒を惜しんで働いていた自分が、その時間を意のままに操れるかもしれない。にわかには信じがたい話だったが、目の前に浮かぶウィンドウは厳然たる事実としてそこにあった。


「試してみるしかないか…」


彼は足元の小石を拾い、近くの木に向かって軽く投げた。カツン、と乾いた音を立てて小石は地面に落ちる。その瞬間、佐藤は強く念じた。「戻れ!」。すると、世界が逆再生されるような奇妙な感覚と共に、視界の中の小石が地面から浮き上がり、放物線を描いて彼の手の中へと吸い込まれるように戻ってきた。手の中には、確かに先ほど投げたはずの小石が握られている。


「……すごい」


思わず声が漏れた。これは夢ではない。彼は本当に、時間を巻き戻す力を手に入れたのだ。MPを5ほど消費しているのを確認し、この力にはコストがかかることも理解した。しかし、その代償を払ってでもあまりある、絶大なアドバンテージだ。失敗が許されなかった前世とは違う。この世界では、どんな選択も、どんな行動も、10秒以内であれば「なかったこと」にできるのだ。その事実は、長年彼の心を蝕んでいたプレッシャーという名の鎖を、いとも容易く断ち切ってくれた。

その時だった。ガサガサッ、と背後の茂みが大きく揺れ、低い唸り声と共に巨大な影が飛び出してきた。それは、体長2メートルはあろうかという猪。湾曲した牙は象牙のように鋭く、血走った目が明確な殺意をもって佐藤を捉えていた。野生動物の知識など皆無の佐藤でも、それが極めて危険な存在であることは一目でわかった。


「まずい!」


思考するより先に体が竦む。猪は地面を蹴り、猛烈な勢いで突進してくる。もはや避けられない。死。過労死したと思ったら、次は猪に轢き殺されるのか。そんな理不尽な思いが頭をよぎった、まさにその瞬間――牙が彼の腹を抉る寸前に、佐藤は最後の望みをかけて絶叫した。


「戻れぇぇぇっ!」


強烈な逆再生の感覚。気づけば、佐藤は猪が飛び出してくる10秒前の場所に立っていた。背後の茂みは静まり返っている。しかし、先ほどの恐怖は冷たい汗となって全身にまとわりついていた。MPが20も消費されている。極限状態での発動は、コストも大きいらしい。だが、彼は生きていた。絶望的な死の運命を、自らの力で覆したのだ。

佐藤はもう躊躇わなかった。即座にその場から駆け出し、猪がいた茂みから全力で距離を取る。しばらく走り続け、安全な場所で息を整えながら、彼は確信した。この【時間操作】の能力は、単なる便利スキルではない。この過酷そうな異世界で、自分が生き抜くための最強の武器なのだと。失敗を恐れず、何度でも最適解を選べる。その事実に、佐藤は初めてこの世界で生きていくことへの、確かな自信と、そして底知れないほどの自由を感じていた。彼は森の出口を探すべく、今度は恐怖ではなく、希望を胸に新たな一歩を踏み出した。


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