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涼しい風が通り抜ける道を僕らは歩いていた。

村の風景とは打って変わって、高級感漂う建物がずらりと並んでいる風景が目に映った。

「もうすぐですね。」ハロルドが言った。

王都の下には街が広がっていて、暖かい色の屋根がいくつもあった。

「…綺麗。」初めて見る景色に思わず声が漏れる。

隣を見るとハロルドが微笑ましそうにこちらを見ていた。

「何ですか、その目は。」僕は顔が熱くなるのを感じた。ハロルドがさらに微笑ましい目で見てきた。



色々なお店が並ぶ街へ入った。暖かい色の屋根がずらりと並んでいる。

その通りを抜け、城へと続く橋を渡り,城へ入った。

城内はとても豪華だった。華美な家具,大きなロビーを照らすシャンデリア、上へと続く階段が一つ、二つ、三つ…。

「どこへ行くの?」

「これから別館へ行って、荷物を置いてもらい,また戻って同じ能力者の2人と会ってもらいます。」僕の心臓が跳ねた。

僕と同じ能力者に会える。それだけでワクワクして来た。

僕らは城の奥へ進み,長い廊下を進んだ。何人かとすれ違ったが、毎回不思議そうな目で見られた。多分服装で空いているのだろう。そう思うと顔が赤くなってきた。

「この部屋です。」

しばらく歩いていたら,ハロルドが一つの扉を指していた。

家の扉とは比べ物にならないほど大きな扉が目の前にあった。

ハロルドが取っ手に両手をかけ,開けた。

中から光が差し込んだ。

目の前には大きな窓があり,部屋の奥には白い天蓋ベッドがあった。それだけでも豪華なのに,横には暖炉、そして本棚。

目眩がしそうだった。

「…どうしました?どうぞお入りください。」ハロルドが心配そうに尋ねた。

「入っていいの?」僕は間抜けな返事をしてしまった。

「ああ、どうぞ。」ハロルドはどこか高級感のある声で言った。

僕は部屋へと踏み出した。

「荷物はそこのテーブルに置いておいてください。それと着替えはベッドの隣の机にありますよ。」

言われた方を見ると,確かに置いてあった。

深い緑の上着、外套、ベスト、ズボン。それと真っ白で清潔そうなワイシャツ。多分僕の髪色と合わせている。…きっちりしていて,かっこいい。

「では着替えたら教えてください。扉で待っています。」扉が閉まった。

きていた服を脱いで,新しい服に身を包む。初めての上等な着心地のおかげで緊張してきた。

最後にベルトを閉めようとした時,あることに気付いた。

…ベルトの付け方がわからない。

その時,映像が見えた。


僕が扉を開けた。ハロルドが少し驚いてこちらを見ていた。

僕は恥ずかしそうに何かを喋り,ハロルドは仕方なさそうにベルトを僕につけていた…。

そこで途切れた。

この映像を見る限り,多分僕はベルトができなくてハロルドに付けてもらうことにしたのだろう。

…でも、なんかやだ。何となく自分でつけたい。

僕はベルトと格闘した。で、ダメだった。

僕は扉に近づいた。そして開けた。

「終わりましたか?」ハロルドがいた。

「あの…これ…」僕はベルトを差し出した。

ハロルドは何かを察したようで、にこにこしながらベルトをつけてくれた。

…粘らずつけてもらうんだった。



着替えが終わった。

「似合っていますよ。では、これからあと2人の能力者の方に会ってもらいます。」

…ついにか…。

僕は色々な意味で高鳴る胸を押さえながらハロルドについて行った。



長い廊下を歩いた。

「こちらです。もうすでに2人ともいますので、少し話していてくださいね。」ハロルドはにこにこと言った。

そんな…明るく言われても…。

「では、私は少し用がありますので。失礼しますね。」そう言って去って行った。

え、どうしよう怖い。僕は深呼吸を数えきれないほどし,少し扉から離れて,そのまま来た勢いで扉を開けた。


中には女の子と男の子が2人いた。僕と同じくらいの。

「…初めまして…?」疑問形の挨拶になってしまった。

「あぁ君が例の!」男の子の方が話しかけてくれた。

癖っ毛気味の赤毛は短く,そばかすが親しみやすそうな印象だ。丸っこい垂れ目は優しく、鳶色の瞳はこちらを明るく見つめている。

「僕はリュカ!よろしくね!」人懐っこい明るい声で自己紹介をしてくれた。親しみやすそうだ。

「初めまして。わたしはオリビア。オリビアでいいわ。貴方は?」女の子の方も話しかけてくれた。

耳より上は焦茶で、それより下がさらに近いブロンド。目は大きくキリッとしていて、深い黄金色の瞳が探るようにこちらを見ていた。

「僕はルイ…初めまして。」

「わたしの能力は特定のものを一番状態のいい時に戻す能力なのだけど、貴方のは?」

わあ、ぐいぐいくる。

「僕は未来がわかる能力…えっと、リュカくん?のは?」

「リュカでいいよ!僕は通常の4倍で走れるんだ!」

「かっこいい…!」2人ともすごい能力を持っていて,自分もこの中の1人だと思うと何だか嬉しくもなってくる。

「あのさ、さっきの話の続きなんだけど,その、未来は意図的に見えるものなの?それとも偶然で見えるものなの?」オリビアはすごいぐいぐいくる。まあ、能力者に会うことがなかったのだろう。僕と同じで。

「えーと意図的には見えないんだけど、心拍数に比例して見える先の未来の時間が変わる。…わかってるのこれくらい…。」

「へぇ…」驚いているようにも思えるが,ポーカーフェイスすぎてわからない。

「よくそこまでわかってるね!すごい…。」リュカが褒めてくれた。嬉しい。

「僕は村から来たんだけど,2人は?」僕が尋ねた。

「僕はパン屋の息子、すぐそこに街があったでしょ?あそこにあるんだ。」

「わたしは…ホワイト子爵の娘よ。」

「え」

「ふぁ?」子爵…の娘…?騎士にも近いこの組織に入っていて平気なのだろうか…?

「娘って言っても4人いる中のわたしは3番目!2人のお姉様は元気だし何なら弟もいるもの。それにわたしは運動もできるから許可してもらえたの!」僕らに驚かれたのが気に食わなかったのだろうか,大丈夫なのに全力で反論?してきた。

「あっ、いや驚いたのは事実だけど…いや、その、戦う女の子ってかっこいいと思うよ!」僕は精一杯の褒め言葉を言って、オリビアを元気づけようと努力した。

「僕もそう思うよ!」リュカも参戦した。

「別に慰めて欲しいわけでは…」さっきまで赤くなっていた顔が,今はすっかり冷静になっていた。



いくつか話をし終わった後、ドアからノックの音がした。

ドアが開いて、しっかりとした服を着た男の人が入ってきた。

「失礼します。こちらの準備が整いましたので、これからご案内いたします。」男の人はそう言った。

僕は2人を交互に見た。

オリビアは先に行ってと言うふうに返して、リュカはどうしたの?と言うように目を丸くしてこちらを見ていた。

僕が先頭なのか…。渋々心の中で受け入れて、

「わかりました。」僕はそう言った。



しばらく歩いて、一つの大きな扉のある部屋に案内された。

僕が見た扉の何倍も大きく,何倍も豪華な扉だった。隣を見るとリュカもぽかんとした感じで見ていた。オリビアだけが何か不安そうだ。

「…王座の間…?」そう呟いているのが聞こえた。

…え?王?

男の人がノックをしていた。

「入って良い。」中から威厳のある声がした。それだけで僕らは震え上がった。間違いない…国王だ。

「失礼します。」男の人がさっきより固めたような声で言って、扉を開けた。

中はとてつもなく豪華だった。僕の荷物を置いた部屋より何倍も広い。深い紅色が部屋全体を覆い,金色で装飾されていた。

その奥の光沢のある机に、国王が座っていた。

首の周りが白い毛に覆われた紅色のマントを羽織り,目を伏せたくなるほど光沢のある金色の王冠。色素の薄い肌には眉間と目尻に皺が刻まれていて,髪は黒く,エメラルドグリーンの瞳が全てを見透かすようにこちらを見ていた。

「ご苦労だったな。席を外してくれ。」国王はそう言った。

「かしこまりました。」男の人は出て行った。

僕らは国王とこの部屋に取り残された。

「とりあえず椅子に座ってもらえるか?」そう言って,目の前の三つの椅子を指差した。

「…ありがとうございます。」オリビアが声を絞り出すようにそう言った。僕らは椅子に座った。

「早速本題に入る。君たちの業務と言ったところだが、まずは犯罪から国を守ってもらうこと,そして、『雨』を守ってもらうこと。」

聞いていないことが出てきた。警護のような仕事をするのは知っていたが、その『雨』を守るとは聞いていない。

「わからないのも当然だ。何しろ、『雨』の存在は国家機密だからな。」

目眩がしそうだ。そんな秘密を僕らに話していいのだろうか?オリビアもリュカも驚いているように見えた。

「『雨』とは詳しくは言えないが、簡単に言うと国家の安寧を守るものだ。『雨』の加護があるからこそ我が国は平和であり,それが続いているのだ。

しかし,それが仮にも犯罪者の手に渡っては何に使われるかわからん。能力者となると更にだ。今のところ外部に漏れてはいないが,漏れるのも時間の問題だ。そこで君たちの手を借りたい。『雨』が奪われぬよう警備をしてもらいたい。とは言っても,基本的には国の警備をしてもらいたいがな。

我々が呼び出したら,直ちに『雨』を守ること。これを約束してもらいたい。いいな?」

最後のいいな?の重みがすごかった。

「…承知しました。」僕らはできるだけ声を合わせて頷いた。

「それで良い。出ていいぞ。」

「…失礼します。」

その後の扉を開けた記憶と,閉めた記憶は遥か彼方に飛んでいった。

「ほわああ…」僕らは超小さくため息をついた。怖かった…。

「ルイ!」懐かしい声がした。ハロルドがいた。

「…ほわあ」僕はこれでしか会話できなくなっていた。

「どうしたんですか…あ、お二人ともお疲れ様です。これからまた部屋に案内しますのでどうぞこちらへ。」

「ありがとうございます…。」2人ともヘトヘトだった。ついでに僕も。

「部屋に着いたらすぐに夕食を持ってきますので…大丈夫ですか?」ハロルドが心配そうに僕らを見た。

こちらを心配そうに見ていたハロルドの顔がとても頼もしく感じた。


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