JKダンジョン初体験! ~県内にダンジョンが突然出現したので、初心者JKさんが動画配信を始めたんだけど、5時間の大作で再生回数が全く稼げなかったから情緒不安定者のごとく発狂してしまった黒歴史~
界隈、かいわい、とは。
特定の趣味などの分野、あるいはそれに関わっている人々のこと。
あなたが住んでいる県内で、突然ダンジョンと呼ばれる不思議な迷宮が現れた。
現在、日本各地でそのような場所がいくつも誕生しているらしい。
あなたは自分でダンジョンに入ったりはしなかった。
けれども、ダンジョンの配信動画を視聴することには興味があった。
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あなたの住む県内には、ダンジョンに挑もうとする好奇心旺盛な女子高生もいた。
彼女は最近、ダンジョンで動画配信をしたら大金を稼げるという噂を耳にした。今や普通の女子高生でも、ダンジョンへ独りで入ったりもしているらしい。
そこで彼女も、小型機材を片手に、県内で新たに誕生したというダンジョンへと挑むことにした。
JK配信者の誕生だ。
該当するダンジョンには、電車を使って片道十五分で行ける。
到着後、彼女は単独でダンジョン捜索を開始。全体的に森っぽい第一階層は、ほとんど危険はないそうなので、彼女は次の階層に進むことなく、撮影機器を回し続けた。
途中休憩を挟み、総撮影時間5時間の大作が完成した。
これで彼女は休日を一日失った。
けれども、彼女はこの動画を投稿することで荒稼ぎ出来ると信じて疑わなかった。
動画配信サービスへの登録は、すでに済ませてある。登録するのは不慣れで苦心したが、あらかじめ投稿準備を終えていた自分は賢いと評価する。
笑顔で彼女は動画をアップした。
後は、どのぐらい再生回数が増加するのかを待つだけだ。
「……えっ?」
数分刻みで再生数を確認するたびに、彼女の心は壊れていく。
30分が経過しても再生数は1ケタのままで、彼女は目を疑った。
2時間経過の入浴後でも、まだ2ケタ。
高評価は、誰一人として付けていない。
あなたが思うに、これは当然の結果だろう。
同業他者がくさるほどいるのに、全く編集しないでダンジョン内の様子を延々と5時間も垂れ流したつまらない動画を、誰が好んで観ようと思うだろうか?
手ブレがヒドく、退屈で、喋りも少なく、動画タイトルも『動画配信 2月12日』と興味を誘わないものであった。
もし、JKが撮影していると視聴者に伝えていれば。
一緒に緊張感を味わえる生配信だったら。
もっとタイトルに工夫していたら。
投稿する前に少しでも編集技術の大切さを学んでおけば……。
あなたなら、いくらでも指摘は出来たに違いない。
そんなことも知らずに翌日、いつもより早起きした彼女は、再び動画の再生回数を確認した。
彼女は我慢強い性格だと自負していた。昨日は投稿したばかりだったからまだ再生数が伸びていないんだと、自分にずっと言い聞かせた。
一夜明けた本日は、動画が人気急上昇の一覧に入り、たくさんのファンがついていて、多くの高評価がされている。昨日の努力が報われる。そうに違いない。彼女は自信満々だった。
観た。
顔を歪ませた。
2ケタのままだった。
「うわああああああああああああああああああああッ! ふっざけんじゃねェーぞぉッ!」
怒りの女子高生は、自室で思いっきり叫んだ。
普段の彼女は、こんな乱暴な言葉づかいで怒鳴ったりはしない。むしろ、清楚な女子だった。優等生とすら呼ばれる彼女にとって、この結果は到底受け入れがたいものであった。
彼女としては、大切な休日を動画のために全て費やし、この苦労を引き換えに日本国民の多くが自分へと注目し、有名な配信者から声が掛けられるという妄想までしていた。
現実は厳しかった。
彼女はダンジョンに対して強い憎しみを抱く。クッションを強大な力で抱いて、くうぅと叫びながら乱暴に転がったりもした。
やがて、冷静さをどうにか取り戻した彼女は、動画配信のための機材に目をやった。
彼女は我慢強さを自身の武器だと信じている。
まだ、動画投稿のためのアカウントはある。
チャンスもある。
利益と名声の獲得を願い、追い詰められた彼女は第二の挑戦に挑む。
制服に着替えた彼女は、機材を少し離れた低い位置で固定して、撮影を開始。
背筋を伸ばしてカメラレンズの前に立った彼女は、両手を黒いミニスカートの裾へと移動させる。
正面の裾を両手でギュッとつかみ、本当に少しづつ、スカートをたくし上げた。
白い下着をチラッと見せるところまで持ち上げて、動画を終了させる。個人情報である自分の顔が映り込んでいないのを確認して、投稿した。
この短い動画のタイトルは、『動画配信2 2月13日』だった。
数分後、彼女は……不安しかない彼女は、結果を見た。
動画再生数、1ケタ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! くそがぁ~~ッ!」
新人投稿者はただの女子高生へと戻った。
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彼女のたった二つの動画は、大人気になることは決してなかった。だが、削除されずにずっと残っていた。
数ヶ月を過ぎた頃になると、あなたを含め、ひと握りの視聴者には認知されるようになった。この界隈でも、特殊な人々がいたのである。
あの5時間のダンジョン撮影には、光る部分もあった。
「あっ、こんなところにも野生の鳥がいるんですね~。めずらしい、見たことない鳥だなぁ~。鳥さん、こんにちは」
愛らしい声が、スピーカーから出て来る。
それに、あの短い動画。
「……君にだけ、見せてあげるね」
聞き取りづらい小さな棒読み口調の後、スカートをたくし上げて白い下着を一瞬魅せる、もどかしさ。
彼女に好意を持つ視聴者も、ほんの少しは存在したのだ。
動画配信を黒歴史として封印した彼女は、今では再生数3ケタを達成していることを知らない。
(終わり)
急に動画配信ものを思いついたので、書いてみました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。