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第二話「星の猟犬」

 この世界は、元としてはゲームの世界だ。確かに現実ではあるものの、しかしこれがどういう世界なのかと聞かれると、ゲームの世界であるとしか言い様がない。

 ゲームとなれば、当然の事キャラクターが存在する。主要となる登場人物達は、以下の通りだ。


 セイバーを1番機として編成された航空部隊「アルクス隊」の二番機として配属される事となった、黒髪碧眼のメインヒロイン「黒上沙耶」。TACネームは「スノウ」。

 同じくアルクス隊の三番機を務める日本人とロシア人のクウォーターである銀髪金眼の女性「ソフィー・ザイツェフ」。TACネームは「ニェーバ」。

 ポラリスの幹部であり、主人公であるセイバーの配属を指名した、かつてエクストラから「青い鳥」の異名で恐れられた女軍人「佐賀美友利」。

 ポラリスにおける最高戦力である「オルフェウス隊」に若いながら選出された幼馴染の少女「菅野鈴」。TACネームは「クレイモア」。

 敵国エクストラの第98飛行隊に所属していた過去を持ち、ベイルアウトして日本人から助けられた事から日本で暮らしている経歴を持つ、セイバーの隣人だった女性「カブリエラ」。

 セイバー専属の整備士であり、プレイヤーからも人気が厚い後輩口調系女子「加賀野文」。


 ルートが用意されているキャラクターは彼女達だけだが、彼女達以外にも魅力的なキャラクターは多く登場する。

 ……というか、女性キャラクター以外にも魅力的なキャラクターが多数登場し、それもあってか男女関係なくこのゲームは人気だったのだ。

 だが―――ビジュアルノベルとしてだけでなく、フライトシューティングとしても高い完成度を誇る、このエメ・ヘッドオンというゲームにおいて。絶大な人気を誇ったのは、決して主要キャラクターなどではなかった。

 過去2回に渡って開催された、エメオン人気投票において。主人公のみならず、ヒロインまでも抜き去って圧倒的な票数で1位を獲得したキャラクターが居る。


 そのキャラクターにはボイスはなく、また素顔の描写も無い。分かるのは、エクストラ皇国所属のパイロットである事、TACネームが「レックス」である事、シリウス隊の隊長を務めている事、そして―――裏ボスである事。

 そのキャラクターの名前は、シリウス1。

 エクストラ皇国空軍第111特殊航空飛行隊『シリウス隊』の隊長を務める、エメオン最強のエネミーである。

 全ヒロインのルートをクリアし、尚且つストーリーミッションを全ての難易度でSを達成する事で、解放されるSPミッション『Sirius 焼き尽くすもの』で戦う事が出来るエネミーだ。

 ストーリーにおいても様々な場面でその名前だけは登場しており、その様々な場面でも圧倒的な実力を有している描写が多くされていた事から、プレイヤー達の間ではかなり有名だった。

 そして―――その評価は、決して間違いなどでなかった。


 SPミッションで戦闘するシリウス1の実力は圧倒的であり、もはや鬼畜など通り越して難易度は神と言っても過言ではない。

 その存在が確認されてから1週間も経たないうちに、あらゆる掲示板でシリウス1が強過ぎるやら倒し方の募集などの話題が殺到した程だ。

 まるで後ろに目でも付いているかの様に、超反応でハイG機動やバレルロールでミサイルは基本的に全て回避。ケツを取ろうとすればまたハイG機動、かと思えば失速機動ポストストールマニューバで高速旋回で、あるゆる方向を先取られミサイルを打ち込まれるなど、その強さは理不尽そのものだ。

 さらに厄介なのは、敵がシリウス1だけではないという事であり、シリウス1が率いるシリウス隊の面々の相手もしなければならない。

 そのシリウス隊の面々を撃墜するのは簡単なのだが、この面々に夢中になっているとシリウス1にケツを取られて呆気なく此方が墜とされてしまうのだ。

 ここまで理不尽な強さを誇っているが、しかし倒す隙がない事はなく、シリウス1は高頻度でヘッドオンを仕掛けてくる為、それに乗じてミサイルを撃てばかなりの確率で当たる。

 装甲は硬いもののダメージはしっかりと通り、パーツで威力を最大強化したレールガンであれば三発程度で倒す事が可能だ。

 ヘッドオンに乗じてレールガンを撃つのが正攻法とされているが、シリウス1のマニューバに対応してミサイルを当てるプレイヤー(変態)も一部存在する。


 まぁ、それはともかくとして。


 ただひたすらに強いだけではなく、しっかりと攻略の糸口がある事からボスとしての人気もあり、性別や性格も不明な為、絵師達の想像力を掻き立てたのもあってか、絶大な人気を誇っているキャラクター。

 フライトシューティングとビジュアルノベルを両立させた本作において、ただフライトシューティングの面のみで凄まじい実力を誇り、人気を確立させた唯一無二のエース・パイロット。

 そして、エメオンの世界のモブに転生したこの作品における主人公を苦しめ続けている存在―――それこそが、シリウス1なのだ。


「……」


 ―――エクストラ皇国ヒストリア州、エクストラ皇国空軍第13航空師団基地。ハンガーにて。

 凛々しく翼を広げて眠りにつく鋼鉄の鳥を、数十分という長い時間見詰め続けている人間が居た。

 シリウス1。TACネーム「レックス」。そう呼ばれている人間―――エメオンという世界において、裏ボスとされている存在が自軍の基地にあるハンガーで自機を見詰めていた。


 LMF-01。愛称はドラグーン(竜騎士)

 エクストラ皇国の宇宙航空技術開発局と共に、レックスが主導となって共同開発した最新型の多用途戦闘機。レックス、もといシリウス1の新たな翼となる機体だ。

 レックスは、暇さえあれば必ずハンガーに訪れて自分の機体を見ている。このドラグーンの前の機体―――彼の相棒とも呼べる機体だったF-22Aも、よく見ていた。

 鑑賞する様に。愛着があるが故か、或いは今すぐにでも空に上がりたいが故なのかは、隊の仲間達も分かっていない。

 ただ分かるのは―――レックスが、生粋のファイター・パイロットであるという事だ。


「お、居た。おい、レックス!」

「コーズ」


 後ろからの呼び掛けに振り返れば、そこには自分の2番機が居た。

 シリウス2、TACネーム「コーズ」。シリウス隊の2番機であり、レックスと同期のパイロットの中でも長い付き合いの友人だ。


「まーた機体鑑賞か? そんなに見続けて楽しいもんかね」

「別に、楽しさの為に見ている訳じゃない」

「嘘つけ。だったら機体を見るだけで数十分も時間費やさねぇだろ」

「……そんなに経っていたか?」


 呆れながらに言うコーズに、レックスは無表情を崩して若干驚いた。

 レックス本人としてはたった数分程度の感覚だったのだが、本人の感覚とは無関係に時間はかなり過ぎていたらしい。


「おう。もう休憩時間終わったのに来ねぇからな。呼んでこいって言われたんで来てやったんだよ」

「そうか……。ありがとう、コーズ」

「煙草で良いぜ」

「シガレットならある」

「俺は甘いもの嫌いなんだよ」

「そうか……」


 好きな物を否定された様で、少ししょんぼりとする。

 お前ホントに子供みたいだな、と笑うコーズ。彼とこうやって会話が出来るのは、コーズとシリウス隊の面々くらいなものだ。


「おら、さっさとフライトスーツに着替えるぞ」

「何故?」

「お前……ブリーフィング聞いてなかったのか? 今日はドラグーンのテスト飛行だろ」

「……!」

「分かりやすく嬉しそうだな。ったく、頼むぜ、隊長機」

「行くぞ、コーズ」

「言われずともって速いな!? おい、待てレックス!」


 一気に明るくなったのか、コーズの静止も聞かずにレックスは早足で……というか、駆け足でハンガーから出て行った。





 特別製のフライトスーツに着替え、レックスは期待に胸を膨らませながら梯子(タラップ)を上がり、機器を踏まない様に気を付けながら足を入れ、ドラグーンのコックピットへと腰を下ろす。

 各ベルトを締め、システムチェックを開始する。


 IFF MASTERノブをスタンバイ。無線機プリセット。テストスイッチオン、FLCSチェック……完了。スイッチセット。

 メインパワーエンジンスイッチオン。各所警告灯をチェック……完了。キャノピーを閉じる。

  エンジン始動。スイッチオン、エンジン回転計確認。エンジンの安定を確認。燃料流量、油圧、ノズルポジション、エンジンRPM(回転数)、FTIT。数値正常、チェッククリア。エンジン始動チェック、クリア。

 アフターエンジン、チェックスタート。テスト位置チェック、警告灯の点滅を確認。

 アビオニクス―――航空機に搭載された電子機器―――の各所設定を手動で済ませる。

 ヘルメットのフェイスを下ろし、HUD起動(オン)。コースアライン起動、クロスヘア維持―――チェック完了。TESTエラー、無し。


「……」


 翼を見ながら、操縦桿を動かして各舵面の動作を確認する。問題無し。

 三次元推力偏向ベクタード・ストラストノズル動作確認……クリア。


 FLCS BIT―――コンピュータによる自機の状態チェック―――始動。

 TWSの電源をオン。RWR、JMR、CHAFF、FLAR、スイッチオン。MODE STBY。

 スピードブレーキ、チェック。インジケーター、チェック……スピードブレーキ、インジケーター、共にクリア。異常無し。

 FCSチェック……クリア。ウェポンベイオープン、チェック……クリア。異常無し。


「システムチェック、オールクリア。LMF-01、異常無し。HQ、こちらシリウス1。機体に異常無し、いつでも飛べる」

『こちらHQ。了解だ、シリウス1。相手役のアグレッサー部隊は既に上がっている。滑走路移動後、直ぐに離陸せよ』

了解(ウィルコ)

『まったく、我が軍最強のエースである君の相手をしなければならないとは。彼等が不憫でならんよ』

『HQ、こちらアグレッサー部隊「プリウス隊」。聞こえてるぞ。こっちだって伊達にアグレッサーじゃないんだ、傷跡くらい残してみせる』

『はは、では期待しておくとしよう』


 エンジンが咆哮を上げる。灼熱が猛り狂う。

 星に囲まれた猟犬が、獲物を狩る為に駆け出した。

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