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第一話「あの時の事」


■  ■

 2020年代。

 フライトシューティングとビジュアルノベルを混ぜるという奇想天外な発想で、成人版だけでなく全年齢版でも莫大な人気を獲得した、アダルトゲーム『エメ・ヘッドオン』―――略称はエメオン―――というゲームがあった。


 世界観は現代寄りのファンタジー。世界は突如として現れた謎の国家「エクストラ」による無差別な攻撃によって戦争に明け暮れており、既に幾つかの国家が落とされていた。

 エクストラの襲来と共に現出した魔力の様な概念―――「ミラ」は、何らかの武器や兵器を触媒とする事で強力無比な能力を発揮した。

 人類に空想でしかないと思っていた魔法を授け、エクストラとの戦争が始まってから数十年が経過したというプロローグから、物語は始まる。

 時は西暦2023年。

 生まれ付き持つ高いミラ制御能力を持つが故に、独立した多国籍軍事組織『ポラリス』に配属される事となった主人公―――TACネーム「セイバー」は、其処で様々なヒロインやキャラクターと関わりながら戦場へと身を投じる事になる。


 それが本編におけるあらすじなのだが―――しかしながら、この物語の主人公はセイバーではない。


「くぁ……」


 独立多国籍軍事組織『ポラリス』所属、ポラリス空軍第66戦闘飛行隊『シュナイダー隊』1番機。TACネームをブレイドと言う。

 朝礼の最中、堂々と大きな欠伸をさらすこの男こそが―――この物語の主人公である。


 隠さずに言えば、ブレイドはこの世界の人間ではない。現実世界―――我々が生きている様な世界から転生してきた、転生者である。

 ブレイドは前世において、かつて自衛隊のアグレッサー部隊に所属していた過去を持つ四十歳過ぎの日本人男性だった。

 軍の演習や訓練において、敵部隊をシミュレートする役割を持った専門の飛行隊―――それがアグレッサー部隊である。

 アグレッサー部隊は、自国に侵略(アグレッサー)してきた敵をイメージとして味方のパイロット達を指導する教官役でもある。

 自軍のセオリーとは異なった戦術を理解・把握するだけでなく、演習において仮想敵機として実演する必要があるため、優秀な人員が割り当てられる。要するに、エリート部隊なのだ。


 そのエリート部隊に所属していた過去を持つ彼は、前世において呆気ない死を迎えた。

 死因は過労だった。彼は18歳という年齢から40を過ぎるまで航空自衛隊に所属し続け、そこからずっと戦闘機に乗り続けた。

 それが遂に祟ってしまったのか、過労が訪れた。体が突如として限界を迎えてしまったのだろう。そういう理由で、彼は死んでしまい、そしてこの世界へと転生したのだ。

 ―――エメ・ヘッドオン。

 航空自衛隊に所属しながらも、彼が休日に夢中になってやり続けていたゲームの世界に。


「ブレイド。貴様、朝礼中に欠伸とは良い度胸だな」

「うわっ、佐賀美准将」


 鋭い声と共にブレイドの前に現れた、もみあげを三つ編みにした黒髪の女軍人に顔を顰める。

 ポラリスの幹部、佐賀美友利。階級は准将。かつては両翼を青く染めたF-15Jを乗りこなし、『青い鳥』の異名でエクストラと戦っていた元パイロットである。


「うわ、とは何だ。上官に向かって」

「これは失敬。早朝で隠せませんでした」

「今も隠せてないぞ。久々に滑走路シャトルランでもするか?」

「申し訳ございませんでした、佐賀美准将。何卒それだけはご勘弁を…! この朝からそれはキツイっす」

「貴様……それでも軍人か!」


 軍人でありながら何と根性の無い事か、と呆れる上官。

 だが、その腕は大したもので、こんな男でも一個隊の1番機を務めているのだ。彼女からしてみれば、何とも不思議な話である。

 評価はしているが、それとこれとは色々と別なのだ。曲りなりにも軍人なのだから。


「はぁ…。まぁ良い、それも含めてお前に一つ命令を言い渡す」

「えぇ……何ですか、エクストラ皇国の偵察とかですか?」

「それも考えたが、残念ながら別だ。喜べ、お前に後輩が出来たぞ」

「は?」


 呆けた顔をするブレイドを他所に、佐賀美が来いと声を掛ければ、入口が開いて一人の少年が廊下に姿を現した。

 その少年を見て、ブレイドは酷く驚いた。口を開け、阿呆面を晒して驚いた。


「TACネーム・()()()()。高いミラ制御能力を見込み、私がスカウトした。お前には彼を指導してもらう」

「……宜しくお願いします」

「……まーじぃ?」


 ブレイドは、そんな言葉を出すのが精一杯だった。

 まさか原作主人公を指導する側に回るなど、誰が思うだろうか。

 これが―――ブレイドとセイバー、ポラリスの『双剣』と呼ばれる様になった2人のパイロットの出会いであった。

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