表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第三話「集合体」

 集合体の身体から突出した幾つかの頭。その頭が――――目が、ジッと詩祢達を見ている。恨めしそうに。

 ほとんどの頭は毛が生えておらず、眼球のあるハズの部位には黒い窪みがあるだけだった。しかしその中に一つ、比較的人間らしい頭があった。

 まだ幼い――――小学生くらいの少年の頭である。少年の頭も、他の頭と変わらずこちらをジッと見ている。

『助……け……て』

 少年の頭が、呻き声にも似た声を上げた。

『お願……イ……助ケて……』

 目から涙を流しながら、少年の頭は詩祢達に助けを求めた。

 ――――助けることなど出来ない。少年が求めている意味での救済を与えることは不可能だ。集合体に取り込まれた魂は、集合体ごと滅することでしか救えない。

『お……願い……』

 悲痛な声を上げる少年の頭から――――集合体から、詩祢は目を背けた。

「詩祢、気持ちはわかるけど、目を背けちゃ駄目。いつ襲いかかって来るかわからないんだから」

 ギュッと。大鎌の柄を握り締め、早苗は詩祢から集合体へ視線を移す。

『オオオォォッ!』

 叫び、集合体はこちらへと素早く突進を始めた。その大きな図体からは想像も出来ないような速度だ。

「詩祢っ!」

 早苗に促され、詩祢は集合体の方へ視線を移すと、懐から札を取り出し、集合体へと放つ。

『ォォォォオオオオッ』

 札が貼り付き、苦痛の声を上げながら集合体は動きを止めた。

「早苗、今!」

 詩祢の声にコクリと頷き、早苗は集合体へと駆け、大鎌を振った。

 ――――一閃。集合体の身体は、札ごと早苗の大鎌によって両断される。

 集合体の身体は、上半分と下半分に分かれ、上半分が宙を舞い、ベチャリと音を立てて地面へと落下する。

 上半分を失った集合体の下半分は、錯乱しているのか黒い足を盛んに動かし、その場でジタバタと暴れている。上半分は、暴れている下半分の傍で、突出した腕や足を蠢かせている。

「詩祢、封印用の札、勿論あるよね?」

 早苗の問いに、詩祢はコクリと頷き、懐から札を一枚取り出す。先程使った二枚とは種類の違う札――――長期封印用の札。祠に貼ってあったものと、同じ種類の札だ。しかし、霊力が込められていない。封印用の札は、かなりの霊力を浪費する。故に本来なら駆け出しの詩祢が、霊力の込められていない封印用の札を使えるハズがないのだが、詩祢の才能なら――――膨大な霊力を持つ詩祢なら、使える。

「もう二枚も札を使ったけど、それ使える?」

「ええ、大丈夫よ」

「だったら、早いとこ封印しましょう。このまま放っておくと復活しそうだわ」

 そうね。詩祢はそう答え、両断された集合体の傍へと歩み寄る。

『オオオォォォオオォ!』

 先程までと変わらず、集合体の下半分はジタバタと暴れている。

「観念しなさい……」

 呟き、詩祢は札に霊力を込める。


 霊力を込めた札を対象となる霊へ貼り、札の中へと霊を吸引する。そして封印する物(祠等)へと貼りつけることによって、封印を完了する。


 詩祢は、霊力の込められた札を、集合体の下半身へと貼りつける。

『オオオオオッ!』

 絶叫し、集合体の下半身は札の中へと吸引されていく。吸引され切ったのを確認すると、詩祢は安堵の溜息を吐いた。

「詩祢、まだもう半分」

「わかってるわよ」

 苦笑し、詩祢は集合体の上半分へと歩み寄る。

『ォォオオォ』

 唸り声を上げる集合体の上半分へ、詩祢が札を貼り付けようとした――――その時だった。

『タス……け……テ』

 少年の――――声。

 見れば、少年の頭が詩祢の方をジッと見ている――――涙を流しながら。

「……っ!」

 封印……するのか。この集合体を。何の罪もない、ただ普通に暮らしていただけの少年が――――否、少年だけではない。何人もの人達が混ざり合ったこの存在を、封印するのか。

 この集合体の核となり、恨みを持ち続けている魂達はまだ良い。だが、他はどうなる? 関係もないのに巻き込まれ、悪霊の集合体の一部と化し、また何十年も封印され続けるのか。

 ――――理不尽だ。彼らは何も悪くない。

 やはり滅し、魂を解放へ導くべきだ。

「ねえ、早苗……やっぱり……」

 振り返り、詩祢が言いかけた時だった。

「馬鹿っ! 前を見なさい!」

 早苗の声にハッとなり、詩祢が集合体へと視線を戻した時には、既に遅かった。

「――――っ!?」

 集合体が、詩祢へ向かって飛び跳ねたのだ。

 ――――避け切れない。詩祢がそう感じた時だった。

「退いて!」

 横から、詩祢の身体は勢いよく突き飛ばされた。そのまま突き飛ばされた先で、詩祢は何が起こったのか把握し切れないままに尻餅をついた。

「……早苗?」

 詩祢を突き飛ばしたのは、早苗だった。

 飛びかかる集合体から詩祢を守るため、早苗は詩祢を突き飛ばしたのだ。

「早苗っ!」

 しかし、集合体の動きが止まった訳ではない。集合体はそのまま、早苗へと飛び付いたのだ。早苗の身体に、集合体の上半分が貼り付いた。

「詩祢……封じて……っ!」

 音を立てて、早苗の手から大鎌がその場へ落下した。

「早苗……っ! 早苗っ!!」

「早くっ!」

 早苗を、助けなければ。頭ではそう考えていても、身体はそうはいかない。恐怖に怯えた身体は、詩祢の思うように動こうとはしなかった。

 ブルブルと震え、早苗を助けるどころか、徐々に後退しているではないか。

「早く……封じてっ!」

「嫌……っ! 嫌ぁ……っ!!」

 悲痛な声を上げ、詩祢は早苗へ――――集合体へと封印用の札を放った。

 札は集合体へと貼り付き、集合体の身体は札の中へと吸引されていく。

『それで……良いの』

 集合体が吸引され切る直前、早苗の声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ