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第一話「疼」

どうも、シクルです。

この作品は完結済み連載作品「霊滅師」の外伝にあたる作品です。

「霊滅師」を未読の方でも楽しめるようにはしてあるつもりですが、未読の方はよろしければ「霊滅師」本編を読了後に読むことをオススメします。


「霊滅師」

http://ncode.syosetu.com/n1883h/

 その日の月は、妙に美しかった。暗い夜の中、月光がその神社――――木霊神社の境内を照らした。



「くっ……うっ……!」

 寝室で、一人の女性が右眼を押さえながら呻き声を上げた。

 長く黒い、艶やかな髪を振り乱し、白い寝間着に包まれた女性らしい肢体をくねらせ、女性は右眼を押さえている。

 苦痛、苦痛、苦痛。右眼へ更に激痛が走り、彼女に更なる呻き声を上げさせた。

「……詩祢さん。また、疼くんですか?」

 いつの間にか、着物を着た少女が女性の枕元へ座っていた。

 前髪を真ん中分けにしたセミロングの黒髪をかき上げ、少女は女性の顔を覗き込んだ。

「……ええ……。でも、もう随分と……落ち着いたわ……」

 右眼を押さえつつ、詩祢と呼ばれた女性は身体を起こし、少女の方へ身体を向けた。

「大丈夫ですか? 今夜はいつもより酷かったみたいですけど……」

「そうね。でも大丈夫よ。ありがとう、菊」

 菊。そう呼ばれた着物姿の少女は、照れくさそうに微笑んだ。

「一つ、聞いても良いですか?」

 菊の問いに、詩祢はコクリと頷く。

「前から気になっていたんですけど……その眼、一体何なんですか?」

「……長くなるけど、聞きたい?」

 おどけて肩をすくめて見せ、詩祢は菊に問うた。

 菊は何度も頷き、聞かせて下さいと嬉しそうに微笑んだ。

「そんなに、楽しい話じゃないし、簡単に話して良いような話だとも思えないけど……。貴女なら良いわ」

 完全に痛みが消えたのを感じると、詩祢は右眼からそっと右手を離した。

「……早苗」

 ボソリと。静かに詩祢は呟いた。

「え? 何ですか?」

 聞き取れなかったらしく、菊は不思議そうに詩祢に問うた。

「早苗。何年も前の、私の親友よ」

「詩祢さんの……親友ですか。会ってみたいです」

 そう言って微笑む菊に、詩祢は首を横に振った。

「彼女は……早苗は、もういないわ」

 悲しそうな顔でそう告げた詩祢の顔を見、菊はすいませんと呟いた。

「いいえ、貴女は悪くないわ。菊、この右眼について聞きたかったのよね?」

 右眼を指差し、詩祢が問うと、菊はコクリと頷いた。

「この右眼――――早苗にもらった物なの」

「え……?」

 眼を見開き、どういう意味ですか? と菊は問うた。

「そのままの意味よ。この、呪われた右眼は……早苗にもらった右眼よ」

 詩祢の右眼に宿る、呪われた力。

 普段は封印してあるが、一度封印を解けば一瞥するだけで霊体そのものへ苦痛を与え、消滅させる邪眼――――それが詩祢の右眼だった。

 幾度か、菊は詩祢がその右眼で霊を消滅させる姿を見たことがある。

「詩祢さんと……早苗さんに、何があったんですか?」

「今から、話すわ」

 そう言うと、詩祢は語り始めた。

 数年前を。

 詩祢が、まだ霊滅師に成り立てだった頃の話を――――





 数年前。引退した父の跡を継ぎ、詩祢は霊滅師となった。

 詩祢は、霊滅師になることには何の躊躇いもなかったし、それどころか誇らしく感じている程だった。

 霊を祓い、人々を救う仕事。まるで正義の味方のような職業だと、詩祢は感じていた。

 詩祢の霊感は、強かった。才能のある霊滅師だと言われていた父を、遥かに超える才能だと、詩祢は何度も父に言い聞かされていた。

 詩祢はそれを真に受けていたし、疑いもしなかったが、決してそれを鼻にかけて他人を見下すような真似はしなかった。

 日々父と鍛錬に励み、対霊の札を扱えるようになっていた。

 数種類ある札の中でも、詩祢は封霊の札を扱うことを得意としていた。

 封霊――――己の霊力を札に込め、霊の動きを封じ、隙を作る札。

 霊力を多く消費する封霊の札を、詩祢は何度も放つことが出来、よく父を唸らせたものだった。


 巫女として、霊滅師として、修行を重ねる内に月日は過ぎ、詩祢が十七になった頃、父は引退した。

 そして詩祢は、霊滅師となった。



「小学校の祠へ封印された悪霊……ねえ」

 神社の石段に腰掛け、父に渡された依頼書を見、巫女服の少女――――出雲詩祢は呟いた。

 依頼のランクはBランク。

 駆け出しの詩祢には多少高ランクだ。が、詩祢は既にBランク並みの実力を持っていたし、依頼を受けるのは詩祢だけではない。

「大丈夫よ。私達なら」

 クスリと。隣で腰掛けている少女が微笑んだ。

 木霊町内の高校ではない、ブレザーの制服を身につけ、長い茶髪を後ろの高い位置で縛っている。俗に言う、ポニーテールだ。

「そう……よね。早苗さなえも、いるんだしね」

 早苗と呼ばれた少女の顔へ視線を移し、詩祢は微笑んだ。

 早苗も、詩祢と同じように微笑む。


 ――――白木しらぎ早苗。

 古くから出雲家と交流のある白木家の跡取り娘だ。

 詩祢と早苗は幼い時から家同士の都合でよく会っており、親友とも言える関係となっていた。

 白木家も霊能家系であり、早苗もまた――――詩祢と同時期に親の跡を継いで霊滅師となった少女であった。

 同期で霊滅師となった詩祢と早苗は、同じ依頼を今まで何度も二人でこなしてきていた。

 詩祢は札による後方援護、早苗は前線での戦闘。

 詩祢とあまり変わらぬ才を持つ早苗は、詩祢と組むことで二人で倍以上の力を発揮していた。


 今回受ける依頼はBランク。今までCランクしか受けたことのない二人にとっては初めての体験だった。

 緊張を感じつつも、同時に二人はBランクの依頼を受けることに高揚感があった。


 あのような事件が起こるとも知らずに……。

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