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第二話 第一のメンバー

読んでいただきありがとうございます。


 八月下旬の空はまだ午後六時にもかかわらずまだまだ明るい。

 空を飛ぶ鳩の軍勢が、残暑から逃れようと自分たちの巣へと帰っていく。

 一体、この暑さはどこまで続くのだろうか。


 私は時夜の横を歩きながら、そんな他愛もないことを考えていた。

 私と時夜はお互い何を話すわけでもなく、ゆっくりと同じ歩幅で歩いている。

 いや、それは正確ではないか。正確には時夜が私に合わせてくれているのだ。


 花沢時夜(はなざわときや)。私とは十年来の幼馴染。

 そして何より重度の、かなり重度のオタクだ。

 昔はこんなにひねくれてなくて、可愛い男の子だったのにな……。

 それに加え、今日の出来事から察せられるように自分がしたいことには良くも悪くも全力投球。

 そこだけは出会った時から変わらない。

 そのせいで私が今までどれほど苦労してきたことか。

 実際今も、苦労中だ。


 でも、どうしてか私は彼のことを放っておけない。

 それは幼馴染だから?それとも―――


 あまりジロジロ見すぎていたのかもしれない。

 時夜がいきなり私のに目を向けた。


 「ん?何?なんかついてる?」


 「……なっ、なんでもない」


 「そうか?」


 「うん。ところで、どこに向かってるの?」


 気づけば辺りの風景はいつの間にか騒がしくなっていた。

 個人経営の電気屋や小さなゲームセンター。所々に貼られている美少女のポスター。

 いかにも時夜が好きそうな町並みだ。

 その一角に大きくもなければ小さくもない楽器屋。

 時夜はその店の前で立ち止まる。


 「ついたぞ」


 「楽器ショップHEVEN。天国?なんで?」


 「それは知らん」


 「あっ!ちょっと待ってよ」


 時夜と一緒にその楽器ショップに入っていく。

 中に入ると、まず目に入ってきたのは大量に壁に掛けられているギターだった。


 「すっ、すごい」


 ギターについてはよくわからないけど、見ているだけで何かこう、ムズムズしたものがお腹のそこからやって来る。

 私は一つのギターが目に入った。

 真っ赤なボディのギター。とてもそれが綺麗なものに感じて思わず私は、そのギターに手を伸ばそうとして………


 「そのエレキが気になりますか?お客様」


 「ひゃっ!」


 一人の店員に声をかけられた。

 見ると、私達と同じくらいの年齢の優しそうな男性店員だった。

 話しかけられるまで一切の気配を感じなかった。

 別に悪いことをしていたわけじゃないのに、私は驚いて声を上げてしまった。


 「そのエレキに目をつけるとはお目が高い。実はそれ、現品限りなんですよ!よろしければ試奏しますか?」


 「いっ、いえ!私は……」


 「ご遠慮なさらず」


 「そっ、その!」


 「ご遠慮なさらず」


 「あっ!いた。ここにいたのか涼汰」


 「なんだ時夜か」


 「時夜!助けて!」


 「なんだとはなんだ。お客様だぞ。神様だぞ。ん?なんで那由が絡まれてるんだ?」


 「助けて!時夜!この人いくら断ってもギターを勧めてくるの!」


 私は走って時夜の後ろに隠れる。

 こういう店の品物に愛のある店員は怖い。


 「お客様。ぜひ!ぜひこのギターを試奏してください!」


 「この人話し聞いてなかったの!?」


 時夜を盾にしているにもかかわらずこの店員はギターを持って特攻してくる。

 

 「ストップ涼汰。今日は話しがあって来たんだ」


 「ん?僕にか?なんだ先に言ってくれよ」


 「ナイス盾」


 「おい。もう一回前に出るか?」



 ◇◇◇



 その後、私達は楽器ショップの二階に上がり、さっきの変な店員の部屋に来ていた。


 「まずは自己紹介からかな。はじめまして木村涼汰(きむらりょうた)です。さっきはその……すみません。楽器のことになっちゃうといつもあんな感じで」


 「大丈夫ですよ!木村くんは楽器が好きなの?」


 私がそう質問した瞬間。隣に座っている時夜が横腹をついて小声で言ってくる。


 「おい那由」


 「何?」


 「やめておけ。涼汰に楽器の話しをするのは。さっきのこともう忘れたのか」


 「たっ、確かに」


 「じゃあ本題に入ろうか」


 時夜は涼汰にスイッチが入る前に本題に入り始めた。

 今更だけど、ちゃんと友達いたんだね。那由お姉ちゃんは安心だよ。


 「今日。俺は陽キャに喧嘩を売ってきた」


 「なんだって!お前!あの陽キャたちにか!?」


 「そうだ。文化祭の日にバンドで勝負しろって言ってきた」


 「何……考えてんだ……」


 木村くんの様子を見ていると肩をフルフルと震わせ、下を向いてしまった。

 私とおんなじで心配しているに違いない。

 よかった、この人案外まともかも。

 そんな私の安心は次の一言で一瞬にして吹き飛んだ。


 「めっちゃおもしろそうだな!!」


 「いや、お前もか!!」


 「そうだよな!これが俺達オタクの夢だよな!陽キャに喧嘩売って文化祭ライブ。夢が詰まってる!」


 「ああ!やってくれたな時夜。もちろん俺もメンバーだよな?」


 「当然だろ」


 「よしきた!そうと決まったら早速練習だ。曲はなんだ?」


 「それはな―――」


 なんか私が追いつけないところで二人は話してしまっている。

 ちょっと待てぇい!


 「ちょっと待って!時夜たちは心配じゃないの?負けたら一生あいつらの玩具だよ?怖くないの?」


 喧嘩を売った時夜はともかく、木村くんは条件のことを知らない。

 だけど、もしも負けた場合のあいつらの残虐無道の行いは想像がつくはずだ。

 

 私のその一声に二人は数秒見つめ合って私に言った。


 「「いや、まったく」」


 「どうして!」


 「どうしてって、なぁ?」


 「そうだな。あいつらがいくら軽音部って言っても所詮はその程度だろ」


 「そうだよなぁ」


 「その程度って、軽音部だよ?本職の人だよ?そもそも時夜たち楽器弾けるの?」


 「「………」」


 私の言葉にまた見つめ合う二人。

 そして同時にうなずきあう。


 「なぁ那由。楽器はオタクの嗜みだよ」


 「そうだな。楽器を弾けないオタクはいない」


 「は?」


 いや。弾けないオタクもいると思うんだけど。

 

 「そこまで言うならわかった。ちょっと待ってろ。見せてやるよ俺達の実力を」


 そう言うと時夜と木村くんは部屋から出ていった。

 え?マジでオタクって全員楽器弾けるの?


 


春アニメが最高すぎて眠れません。

おもしろい・続きが気になるといった方は評価とブクマのほうお願いします。

それでは次のお話で。

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