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第一話 宣戦布告

初めてのコメディー作品です。温かい目で見ていただけると助かります。


 「なぁ。那由(なゆ)


 「何?時夜(ときや)。宿題教えてって言うなら、もちろん教えないんだけど」


 「違う。そんなことじゃない」


 「じゃあ何?」


 いつもの時夜ならここで『お願いだ。宿題を見せてください那由様』って言うところなんだけど……。

 一体どうしたのかな?


 この時の私はまだ知るよしもない。

 この時の時夜の言葉が(のち)に、私の学校生活を変えることになるとは―――



 「俺、バンド組もうと思うんだ」



 「へー。それで?」


 「いや。反応薄っ!」


 私は一時限目の準備をしながら時夜の言葉に耳を傾ける。

 はぁ。今日は一時限目から古典かぁ。だるいなぁ。


 「まっ、まぁいい。そこでだ那由。お前が俺のバンドのマネージャーをしてくれると嬉しいんだが……」


 「嫌だよ」


 「そこをなんとか!!」


 「いや」


 「いたいけな幼馴染からの一生のお願いだ!!」


 「い・や・よ」


 「……くっ!」


 私のテコでも動かないような態度にようやく時夜が静かになる。

 シュンとしてしまった彼の態度から私は少しだけだが、本当に少しだけだが罪悪感を抱いてしまう。

 しかし、ここで甘やかして私が折れてしまったら時夜のためにならない。

 ここは心を鬼にして頑張るところだ桃山那由!


 「大体にして時夜はそう言って一ヶ月も続いたことがないよね?」


 「うっ……それは……」


 「前はなんだっけ?ゲーム作るとかじゃなかったっけ?その前は漫画描こうで、その前は……思い出せないな。とにかく!私が言いたいのは時夜。時夜は今までそうやって言い出したことをまだ一度も最後まで達成してない!」


 「クソぉ!何も言い返せない!」


 「わかったなら諦めて。そろそろ一時限目始まるよ?」


 「………それでもな」


 「時夜?」


 「それでも今度こそ俺は本気なんだ!だから頼む!マネージャーになってくれ那由!」


 時夜はそう言うと椅子から下り、私の前で土下座してきた。

 ちょっとぉぉお!なにしてんのぉぉぉお!


 今まで傍観していたクラスメートたちも、何事かと次々に好奇の視線を向けてくる。

 中にはスマホを持って撮影している人もいる。

 

 「待って!ちょっと待って!やめて!私の前で土下座しないで!」


 「頼む那由!」


 「みんな見てる!みんな見てるから!わかった!話を聞くから顔を上げて!」


 「本当か!」


 時夜はその言葉を待っていたと言わんばかりに目を輝かせてまた椅子に座り直した。

 まったく。高校二年になっても昔となにも変わらない幼馴染に、ため息の一つもつきたくなる。

 いや。実際はついたかもしれない。


 「それで?何から話せばいいんだ?」


 「それじゃあ―――」


 キーンコーンカーンコーン


 時夜の話を聞こうとしたところで、運悪く一時限目始業の鐘が鳴ってしまった。

 さすがの時夜でもここは口を閉ざす。


 「続きは昼休みだね」


 「……そうだな」


 よっぽど私にバンドのことについて言いたかったのか、時夜はガックリと肩を落として前を向いた。

 きっと昼休みはゆっくりできないだろうなぁ。

 そんなすぐ未来のことを想像して、私も肩をガックリ。


 はぁ。朝からこっちは疲労困憊だよ。

 私は深く、ため息をついた。



 ◇◇◇



 そんなこんなで迎えた昼休み。

 私は時夜の話を菓子パンをかじりながら聞いていた。

 この購買部の新作パン美味しいな。


 「―――と、まぁ二ヶ月後の文化祭で演ろうと思っている曲はこの三曲だな」


 「ちょっと」


 「それじゃあ次はマネージャーである那由の仕事についてだけど……」


 「ちょっと待ったぁぁぁぁああああああ!」


 「なんだよ。いきなり大きい声出して」


 「なんだよじゃねぇよ。こっちの台詞(せりふ)だよ。もう三十分も話を聞いているのに今だに重要なことが何一つ話されてないよ!」


 「………なん、だ、って?」


 「その今まで気づいてなかったって顔やめろぉぉ!」


 「そんな……この選曲をした理由とこの三曲が今季アニメで覇権を争ったアニメの主題歌ってことと、原曲を歌っている歌手の魅力について語ったことが間違いだって言うのか……?」


 「正解の余地なく間違い」


 「そんな」


 膝から崩れ落ちてしまう時夜。

 そんな姿を見ながら私は丁度菓子パンを食べ終えた。

 この新作パン美味しかったな。また買お。

 昼休みも残り二十分弱。

 少し、いや、ちっとも気は進まないが、話を聞くと言ったからには聞かねばならないだろう。


 「ていうか、バンド組むって言ってもメンバーはどうするの?時夜友達いないじゃん。私以外と話してるの見たことないよ」


 「そこは安心していい。もうメンバーに目星はつけてある。あと俺は友達がいないわけじゃない」


 「頭の中だけ……?」


 「違う!現実にちゃんといる!だからそんな目で俺を見るな!」


 どうやら、時夜の様子を見るに本当にメンバーは大丈夫そうだ。

 時夜のコミュ力で集められるかが心配だが。

 それはそうとここまで話を聞いて、私は感心していた。なぜなら、今までと違って時夜の中でちゃんとしたプランがあるのだ。それを実行できるかは別だが、今までの時夜なら思いついてそのまま突っ走るだけだった。

 そこを踏まえても今回は「本気」なのかもしれない。

 

 さてと。私の一番の懸念点だったメンバーについては解決した。

 最後に最も重要な質問を私はする。


 「時夜。時夜はどうして今回バンドをしたいと思ったの?」


 「ん?そんなの簡単だよ。えーと、あっいたいた」


 時夜は飲んでいた紙パックの牛乳を机に置くと、おもむろに立ち上がり廊下へと歩いていく。

 はて。廊下にその理由とやらがあるのだろうか?

 私は廊下に目を向ける。そこにはこの学年六クラスのカースト上位者が集まった所謂(いわゆる)”陽キャ”たちしかいなかった。

 そんな廊下へ時夜は真っ直ぐに向かっていく。

 それをボーッと眺めていた私の目は次の時夜の行動で驚愕に見開いた。


 時夜は陽キャたちの目の前まで歩いていくと立ち止まった。


 「あぁ?何、お前?」


 陽キャの一人が歩いてきた時夜に向かって突っかかる。

 時夜はそれを無視して、周りの迷惑を考えず騒いでいる陽キャたちに向かって指さしながら高々に言い放った。



 「おい。陽キャ共。俺と文化祭で勝負をしろ」



 瞬間。私だけではなく教室がざわついた。

 このざわつきは他のクラスにも伝わってしまったらしく、他クラスの生徒も何事かと廊下へ出ていく。


 「は?」


 「ぷぷっ!笑けるんですけど!ていうか〜陰キャが何出しゃばってんの(笑)?」


 「頭おかしいんじゃねぇのこいつ?」


 陽キャたちは口々に時夜に対して言葉を吐く。

 そのどれもが人を不快にするようなものだった。


 「勝負って言ったか?お前」


 すると今まで黙っていた陽キャたちのリーダー格らしき男子生徒が口を開いた。

 金髪に染めた短い髪に、大量のピアス。そして、着崩した制服。いかにもな感じの陽キャだ。

 しかし、それを待っていたと言わんばかりに時夜は口角をつり上げた。


 「ああ。勝負と言った」


 「それで?何で勝負するんだ?」


 「バンド」


 「は?」


 「聞こえなかったのか?”バンド”で勝負すると言ったんだ」


 時夜がそう言った瞬間。場に沈黙が訪れる。

 その沈黙を破ったのは陽キャたちだった。


 「ははははははっ!こりゃあ傑作だ!」


 「やばい!めっちゃ笑けるんですけど!お腹痛い!」


 「ははははははっ!おい!どうする?こう言ってるぞ(きょう)?」


 「おい陰キャ。お前、俺達が鳳稜(ほうりょう)学園軽音部と知っていて勝負を挑んだのか?」


 「当然。勝つ自信があるからこう言ってるんだよ」


 再び沈黙が訪れる廊下。

 そこで見つめ合う時夜と、響と呼ばれたリーダー格。


 「……いいだろう。その勝負受けて立つ。ただし条件がある」


 「なんだ?」


 「もし、お前が負けたらお前は一生俺達の玩具(おもちゃ)になれ」


 響は凶悪な笑みで時夜に告げる。

 しかし、とうの時夜は何食わぬ顔で言った。


 「わかった。なら俺が勝ったらお前ら軽音部辞めろ」


 「成立だな。二ヶ月後楽しみにして待ってるよ。陰キャ君」


 そう響が言うと、昼休み終了のチャイムが鳴った。



 ◇◇◇



 「もう!何してんの!」


 「何って。宣戦布告」


 放課後。俺は那由に教室に残され、説教を受けていた。


 「なんであんなことしたの!?」


 「なんでって。聞けばきっとお前も納得する。あれは一週間前。俺がラノベを静かに読んでいたときだった。あの陽キャグループのビッチが俺にぶつかってきて俺はラノベを落としてしまったんだ」


 「うん。それで?」


 「あのビッチは当然拾ったよ俺のラノベを。そして言ったんだ。『うわっ。キモ』って。もうこれで俺はプッチン来ちゃったんだよね」


 「……それだけ?」


 「え?これだけ」


 「……マジ?」


 「……まじ」


 那由の目がウルウルと涙を浮かべ始める。

 なんだかこれを見ていると、悪いことをしてしまったようで居心地が悪い。


 「時夜が!時夜が玩具にされちゃうぅぅううぅうう!」


 「おーい。泣くな泣くな。ていうか玩具になると決めるな」


 「だって!だって!」


 「大丈夫だって。言ったろ?自信はあるって」


 「本当に?」


 「本当だ」


 いまいち、那由はまだ信用しきれていないようだ。

 あれ?幼馴染の絆と信頼どこいった?あっ!もとからなかったっけ?


 「しかたない。なら見せてやるよ俺の自信ってやつを」


 「え?」


 「今からちょっと寄り道して帰るぞ。ついでに一人目のメンバーを勧誘しにいく」


 俺は那由と一緒に立ち上がる。

 目指すは、第一のメンバーの元へ。


 

 

読んでいただきありがとうございます。

おもしろい・続きが気になるといった方は評価とブクマのほうお願いします。

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