強者の心情 【月夜譚No.227】
まるでダンスを踊っているかのような身軽さだった。
一分の隙もなく周囲を囲まれ、一人対多数という圧倒的不利の中、彼は重力など感じていないような動きで相手の攻撃を躱し、往なして、正確な一撃で地面に沈める。
敵の数など、彼には関係がない。ただ向かってくる相手をあしらって、汗一つ流さずに涼しい顔をする。重ねるステップは楽しげにも見えて、最初から振り付けがあったと言われても不思議ではないくらい優雅だった。
少し離れて見ていた男達は、思わず呆けて見惚れてしまう。しかし次の瞬間には我に返って、始まりには考えられなかった大逆転に加勢に入る。
が、それも焼け石に水。彼は変わらず人数を物ともせず次々に打ち伏せ、最後にその場に立っていたのは彼一人だった。
彼は息を吐き、歩き出す。
何か面白いことはないだろうか。彼のそんな心の内は、誰にも解らないのである。