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大地に生きるものたち_5

「…どうして、あなたたちは“大地の果て”で、またあるきはじめられたの。」


 考え考え、テアは言葉を発した。自分を見つめる瞳を、静かに見つめ返して。


「ああ――」


 男たちは互いに顔を見合わせ、笑った。


「なんというか…旅人の掟…いや、違うな。俺たちの矜持、みたいなもんかな」


「迷うこともある。立ち止まることだってある。けど……な。」


「同じ旅人だ、お前さんたちにもなんとなく分かるだろう。――俺たちは歩き続けるさ。自分が石になる、その時まで」


「ああ」「マオオォウ」


「…そう。」


 それ以上テアは何も言わなかった。だが少しだけ、すっきりとしたような表情に見える。カロンも笑い合う男たちを見つめた。笑顔の奥にある確かな決意。男たちの姿に、かつてともに旅した者たちの面影を見た。


 『動けるうちは、一緒に行く。動けなくなったら、置いていけ。情け容赦は、一切不要。笑って「じゃあな」と手を振ろう。』そう、強く言った彼らの面影を。


「マオゥ」


 郷愁に駆られたカロンを気遣ってか、マオシがカロンに大きな顔をこすりつける。「ふふ、ありがとう」とカロンはマオシの額にこつんと額を当てた。ゆらり、ゆらりとマオシは尻尾を揺らした。


 きっと、カロンがともに旅をした者たちとこの男たちは同じような考えを持っているに違いない。だからこそこんなにも互いを信頼し合える。心から笑い合える。マオシもそれを感じ取ったのだろう。だから男たちに付いていったのだ。


「にしても……本当に、兄ちゃんによく懐いてるなぁ」


「俺らは振られたかな」


 そのようすを見ていた男たちが冗談めかして言う。とたんに先ほどまで左右に揺らしていた尻尾を、マオシは上下にペシンッと振った。不満げにペシンッ、ペシンッと何度も尻尾を縦に振る。


「おいおい、悪かったって」「冗談、冗談だよ!」


「――ぷっ。あははっ」


 慌ててマオシを宥めにかかる彼らの姿にカロンはこらえきれずに吹き出した。笑いながら、カバンの中から木板を取り出す。


「少し時間をとらせてしまうのですが…もしよければ、あなたたちの絵を描いてもいいですか?」


「“エ”?なんだ、それは?」


「構わないが…何をすればいいんだ?」


 きょとんとする彼らにカロンは笑いかける。


「そのままで大丈夫です。マオシの機嫌、直してあげてください」


 そう言ってカロンは広げたパピルスの上に炭を滑らせた。



「すごいなぁ、そっくりだ」


 完成した絵を覗き込み、自分たち、マオシとを見比べながら、男たちは感嘆の声をあげた。尻尾を左右に揺らし大きな目で男たちを見つめるマオシと、笑顔でマオシを撫でる男たち。男たちの表情とマオシの瞳には力を入れた。彼らの決意を、マオシの想いを表現できるように。男の一人が感心したように呟く。


「これを見れば互いの顔、きっと忘れないんだろうなぁ」


「少し待っていただければ、全員分描きますよ」


 カロンの申し出に、男たちは顔を見合わせる。そして笑って首を振った。


「ありがとよ。でも、大丈夫だ。仲間のことは、互いの胸にしっかり刻みつけていく。だからこれは……うん、お前さんたちが持っていてくれないか。どっちが先に石になるかはしれねぇが、出会った証として。」


 そう言って丁寧に広げてカロンに絵を差し出す。カロンも笑顔で頷き、受け取る。


「分かりました」



「……そろそろ行くか」


 カロンは左手で男たちと握手を交わす。テアは男たちにはぺこりと礼をするだけにとどめたが、近づいてきたマオシの頭には手をのせ、小さく撫でた。マオシはカロンにも近づいてきて、その大きな顔をこすりつける。カロンは先ほどのように――かつてそうしたように、マオシの額に自分の額をこつんと当てた。


「……じゃあね」「マオゥ…」


 カロンの呟くような声にマオシも小さく鳴いた。額を離し、笑顔で軽くマオシを押すと、マオシは男たちの方へ小走りで駆け寄った。


「それじゃあな」

「ええ。それでは」


 軽く手をあげた男に、カロンも応える。話していても、互いに進むべき方向は見失っていない。短く言葉を交わし、カロンたちはそれぞれ別の方向へ歩き始めた。


「……。まだ、村にいた頃。僕の村にもマオシがいたんだ」


 しばらく歩いて。カロンが呟くように言葉をこぼした。


「あのマオシなの。」


 隣を歩きながらテアは淡々と聞き返す。カロンは笑って首を振った。


「…分からない。会えばわかると思っていたんだけど、分からなかった。でも…」


 立ち止まり、振り返る。男たちと一緒に歩きながら左右に揺れる尻尾を見つめ、優しい表情でカロンは言う。


「いい友達を見つけられたようで、良かった」


    ――ンマオォォーーー


 間延びした鳴き声が、砂の大地を優しく震わせる。去っていく後ろ姿にカロンは大きく、手を振った。

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