大地に生きるものたち_3
「俺たちは、それぞれ旅をする中で出会って、何となく道連れになってな。まぁ商隊でもやるか、という軽いノリで商隊の真似事をしながら村から村へと渡り歩いていたんだ。
方向なんて決めちゃいない。同じ村に行き着くこともある。聞いていた村がすでになくなっていたこともある。ただ砂の大地を漂うように旅をしていた。
もうずいぶん前のことだ。次の村への移動中、どうやら途中で方向を間違えたらしくてな。いつまでたってもたどり着けない。変な言い方だが、見晴らしが良くってな。本当に何にもないんだ。歩いても、歩いても。…これでおしまいかもなと、本気で話していたんだ。
マオシと会ったのはそんなときだ。」
***
『おい。あれ、なんだと思う?』
仲間の一人が明後日の方向を指差した。馬鹿話をしながらも惰性で歩き続けていた彼らは、なんだなんだと首を回す。
『何もないじゃ…んん?なんだありゃ?』
『どれだ?……石?それにしてはでかいか』
『なあ…あれ、動いてないか?』
口々に言い合いながら、彼らは目を凝らした。石すら見当たらない砂の大地に、ぽつんとひとつ、何かの影。大きな石の塊にも見えるそれは、のっそり…のっそり…と確かに動いている。
彼らは互いに顔を見合わせた。そして思う。きっと自分も、同じような表情を浮かべているのだろう。
『…行ってみるか』
わくわくと目を輝かせ、口元がほころぶ。誰からともなく歩き出し、彼らは進む方向を変えた。
かなりの距離があったが、やはりそれは大きく、ゆっくりと彼らに向かってきている。なんだろうと目を凝らす彼らの耳に『マオオォォゥ』と、か細い鳴き声が聞こえた。
『この鳴き声、マオシか!なんでまたこんなところに…』
仲間のひとりが驚いた声をあげる。マオシは通常、豊かな村で生活しており、こんな何もない場所で見かけることはまずありえない。
マオシはゆっくり近づいてくる。痩せ細っていて、自分の大きな身体を支えるのもやっとという足取りだった。それでも乾いた喉で一生懸命『マオゥ、マオオゥ』と鳴きながら、訴えるように潤んだ大きな目が彼らを見つめる。
『…いいぞ、やる。飲め、飲め』
仲間のひとりが笑って荷物からミズトドメを取り出した。他の者たちも、考えていることは同じだった。彼らはマオシの前に次々とミズトドメやら食料やらを積み上げた。
『ああ、このままだったら飲みづれぇなぁ。すまんすまん』
そんなことを言いながら、鍋に一本、二本とミズトドメの果汁ををしぼり出す。ありったけの食料を積み上げた。だが、この大きさのマオシにとってはこれでも満腹にはほど遠いだろう。だから…マオシがそれに飛びついて、乾いた喉を潤して、マオゥと鳴いて去っていく。
…それで、終わりだ。
***
「ンマオォゥ」
間延びした鳴き声をマオシが上げる。テアと挨拶できて満足したのか、今度はまたカロンに身体をこすりつける。カロンは顔をほころばせて「よし、よし」と背中を撫でながら促すように男を見た。「ああ」と男は懐かしそうに目を細めてカロンとマオシを見ながら続きを語る。
「食いもんやらミズトドメやらを目の前に置いたっていうのに、こいつときたら見向きもしなくてな。しれーっと前を素通りして、俺らに近づいてきたんだ。思わず撫でてやったら、嬉しそうにしっぽを揺らしてな。鳴いたんだ。
…寂しかったんだろうなぁ。腹の虫も鳴けないぐらいに腹を空かせて、喉だってカラッカラだろうに『マオゥ、マオオゥ』って、何度も身体をこすりつけてさ。こいつのこと、勝手に決めつけて終わりを覚悟した自分たちが、何だか恥ずかしくなってな。
マオシだって、俺らとおんなじだったんだ。」
――彷徨い歩いた末に出会えた、自分たちと。
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