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大地に生きるものたち_2

「よし」


 自分に気合いを入れ直してカロンは立ち上がる。足の裏全体で砂を踏むように、真っ直ぐ足を下ろせば沈み込みにくい。分かってはいるが、難しい。


 やっとの思いで登り切った先は、テアが言ったようにほぼ平地だ。上から見るとなだらかな傾斜になっているのが分かるが、歩く分には感じないだろう。登ってきたときのような急勾配を下りることを覚悟していたカロンは胸を撫で下ろす。テアのことは信頼しているが、長い年月を旅してきた彼女との感覚のズレを感じることは多い。


    ――ンマオォォーーー


 間延びした鳴き声が今度はしっかり聞こえる。前方に目をこらすと数人の人影と四つ脚の動物が見えた。マオシが鳴いたことで向こうもこちらに気付いたようだ。手を上げて合図する。カロンも手を上げて応えた。互いに歩み寄ろうとして、テアが動かないことに気付く。


「どうしたの?」

「わたしは…」


 顔を覗き込むようにして尋ねたカロンに、テアは視線を落とした。握りしめた服の裾にぎゅっとシワがよる。


 テアの考えていることを察したカロンは、その上で


「大丈夫だよ。行こう」


少し強引にテアを引っ張りあげた。その拍子にまた、バランスを崩す。


「わっ」

「あ」


 今度はテアも巻き込んで砂に突っ伏した。それが見えたのか、心配そうにマオシが鳴いた。


「ありがとう、テア。良かった、こっち側で…」


 起き上がりながらカロンは呻く。とっさにテアが引っ張り返してくれたおかげで平地の方に倒れ込めた。逆の方だったらと思うと…それだけで疲れる。


 テアはゆっくりと身を起こし、砂を払って立ち上がった。彼女の素足の下で、踏みしめられた砂がシャンと鳴る。困ったように眉を下げて、テアは一歩を踏み出す。


 砂は彼女に応えてシャンと鳴った。


「…いくわ。」


 口許に淡い笑みを浮かべ、テアが小さく呟く。迷うような小さな声だが、カロンをしっかり見つめて手を差し出す。その手を借りて立ち上がり、カロンは「うん」と微笑んだ。




    マオオォォゥ


 互いの姿がはっきり見えるほど近づいた頃合いで、マオシがカロンたちを目掛けて突進する。少し驚いたが、身の危険は一切感じなかった。相手の者たちも慌てるようすはなく、またかというように笑っている。


    マオオゥ!


 カロンのすぐ近くまで来て、挨拶をするように元気よく鳴く。すり寄るその背を撫でながら「こんにちは」とマオシに笑いかけた。懐かしい手触りに思わず目を細めるカロンの少し後ろで、テアがびっくりしたように身を退いている。


「驚かせてすまんなぁ」


 追いついた男が苦笑しながら言った。後からさらに3人。マオシと同じように荷物を背負ったその出で立ちから、商隊だと分かる。


「こんにちは。人懐っこいマオシですね」


 ぱたり、ぱたりと尻尾を揺らすマオシを撫でつつカロンも挨拶する。目を細めてマオシのようすを見ていた別の男が「だろう」と笑った。


「ここまで懐くのはあまりないが、どうやら人が好きみたいでな。見かけたらさっきみたいにすぐ走っていく」

「嬢ちゃんは、“送り”かい?珍しいな」

「まぁ俺らも他人(ひと)のことは言えないけどなあ」


 代わる代わる話しながらわははと笑う男たち。男たちに合わせるように、マオシの尻尾も左右に揺れる。


「近くの村の方ですか?」


 尋ねたカロンに男は首を振って答える。


「いいや、根なし草だ。村がある方へある方へ。それだけしか決めてない」


 なるほど、とカロンは頷いた。確かにそれは珍しい。


 拠点となる村があり、そこから周辺の村を行き来するだけならともかく、あてのない旅に動物を──マオシを引き連れることはまずない。重いものを運んだりなど人の手助けをしてくれるマオシだが、身体が大きい分必要なミズトドメや食料も多くなる。その他にも旅をする上では不都合の方が多いのだ。


    マォォ


 小さく鳴きながらゆっくり近づいてきたマオシに、テアはおっかなびっくり手を伸ばした。


「…こいつはなぁ、砂の大地をたった一人で歩いていたんだ」


 おそるおそる頭を撫でる“送り”の少女と、気持ち良さげに撫でられているマオシを見つめながら、商隊の男がぽつりと言った。カロンと目が合うと、男は笑ってマオシの尻をポン、ポンと優しく叩いた。


「話せないのはお互いさんだろうが、マオシ(こいつ)のことは聞いてやってくれ」

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